インデペンデンス

 黒いドレスを着た可憐な少女がそこにはいた。少女の目の先には青い髪の男がいる。年齢は少女には及ばないが若々しい。青い髪の男は西洋人の美男と言った所である。二人が対峙しているのは東京湾の港。コンテナとコンテナの間である。男の右手には金色の三叉槍が握られている。

「俺はイタリアから生まれのアルフレード。皇帝の一人だ。お嬢ちゃんだね。皇帝を殺し回ってんのは」

「ああ」

「ところでお嬢ちゃん、俺の目的なんだと思う?」

「朕の殺害だ」

「お嬢ちゃん勘違いは良くないね。俺の目的はお嬢ちゃんへの愛の告白さ」

「朕に軽口を叩けるのは今のうちだ。何でも言うがいい」

「おー。怖い。怖い。さあ、始めようか。」

「ああ。始めよう。最後の皇帝の殺戮を」

「言ってくれるね」

 

 少女は手のひらと手のひらを合わせる。すると数戦の鉄槍が少女と皇帝の狭間に現れる。

「これが君の能力か。こりゃ皇帝のみんなも死ぬわけだね」

 少女が合わせていた右手の手のひらを下に向けると、鉄の槍はアルフレードに向かっていく。

 アルフレードはバトンダンスを踊っているかのように、軽やかに鉄槍を右手の三叉槍で弾いていった。鉄琴で音階を奏でるような音が周囲に響き渡る。無数の鉄槍は気づけば地面に撃ち落されていた。


「何故お前は朕に対抗できるのだ。答えよ」

 少女は声を荒げる。

「俺の髪、ラムネみたいに青いだろ。この青い髪の持ち主は触れ合った人間のルクスを少しだけ奪うことができるんだ」

「何故そんなことができる‼」

「神様に愛されちまったのさ」

「まぁいい。命ごと沈めてやる」


 その後二回日は沈んだ。二人の強力なルクスとルクスのぶつかりあいで、周囲の形は荒れに荒れた。二人の戦いの痕跡はまるで隕石が衝突したようである。その後も戦いは続いた。事態が動いたのは、戦いが始まってから三回目の暁の頃である。


 少女は鉄槍をアルフレードの左腕に集中させた。その一瞬、アルフレードは少し油断してしまっていた。油断とは言ったが、慢心ではない。長い戦いの疲労によるものである。アルフレードの左腕は面白いくらいに吹き飛んだ。

「なかなかやんじゃん。俺の腕持ってくなんて。お前が初めてだ」

「未だにそんな口を叩くか。子犬みたいだな」

「ワンッ、ワン」

「お前は今日ここで死ぬ。最後に残す言葉を決めておくんだな」

「それは決めてる。お嬢ちゃん一生添い遂げようぜ」

「拒否する」

「俺は乱暴だぜ。後悔するなよ」

「後悔なぞするものか」


 その後も二人の死闘は続いた。アルフレードは右腕とその手に収まっている三叉槍だけで戦った。アルフレードを動かしているのは、膨大なルクスと意地である。日は丁度、南の空に昇っていた。


「そろそろかな」

 アルフレードは右手に持っていた三叉槍を自分に突き刺す。アルフレードの全身が青白く光った。

 アルフレードは少女に目にもとまらぬ速さで近づき、少女の腹に右の手のひらを当てる。

「何をした‼」

「お嬢ちゃんに印を結んだ」

アルフレードと少女は青い光で繋がれた。アルフレードは東京湾湾岸に移動する。

「覚悟を決めるのに時間がかかっちまったかな。お嬢ちゃん、俺の娘はマイって言うんだ。マイをお嬢ちゃんに殺される訳にはいかないのでね。お嬢ちゃん、しばらくの間封印させてもらうよ」

 アルフレードは東京湾に飛び込んだ。水中に沈むにつれて、次第にアルフレードの形は無くなっていった。代わりに少女の周りは四方の結界によって包まれていく。

 アルフレードには走馬灯が流れた。

「マイを未来に送ってくれ。」

「アルフレード、無理なお願いだ」

「エーベルハルト、預言者の言葉は聞いただろ」

「冗談だよ。冗談っていうか、それしたら俺、何にもできなくなんだぜ。死にたくないな」

「俺もだよ」


 少女は鉄槍を作り出し、結界を攻撃するが結界はびくともしない。

「朕を閉じ込めたのか。まあいい。いくらでもこの場で暴れてやる」


これがポセアリウス最初の日である。


インデペンデンス


 

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