青二吉
俺は武闘家の息子だった。かつての総合格闘技世界チャンピオン青二 辰巳の息子。親からは剣道、柔道、空手、弓道。なんて言う武道とか、父が習っていた事をやらされた。
いつだって父と比べられた。だが、自分は人並みだった。周りにとっては、世界チャンピオンの息子の癖に人並みのセンス、人並みの実力なんて言う事は許されなかった。
努力が足らないといつだって指導する側は言った。父と同じDNAがあるんだからと誰もが言った。父から指導して貰った事もある。ただ、どんなに頑張っても自分の才能が人並みを超える事は無かった。
才能がなかった。父はお前が笑ってやれればそれで良い。とだけしか言わなかった。
そうしたかった。ただ、周りはいつも自分を誰かと比べた。親だけでなく、優秀な同世代の武道家達とも比べられた。
いつしか笑えなくなった。最初は習い事に通っている時だけだったが、やがて他の場所でも笑う事は無くなった。
次第にストレスを食欲で誤魔化すようになっていた。
それもいつしか限界が来た。そんな時だった宰領学園入学の話が来たのは。環境を変えられる機会なんてあまりない。自分は宰領学園へ入学する事をすぐに決めた。
こっちに来たのは正解だった。すぐに友達が出来た。放課後は円卓として、戦った。人を助けた。父みたいになれたとは思わない。だが、少しだけ近づけたような気がした。
モンスターをなぎ倒す蕨は父みたいだった。自分なんかより、よっぽど近かった。何度か父と見違えてしまった。かっこよかった。あこがれた。あいつはつよい。
「青二」
その声は蕨の物だった。
「モンスターはどうなっただし」
「何とか倒したよ。青二。ありがとう。モンスターを倒せたのは青二がいたからだ。後、ごめんね。俺がもっとしっかりしてたら、青二は倒れずに済んだ」
「謝ることないだし」
「青二。あと説明しないといけないことがある」
「なんだし?」
「モンスターは親父が作り出したんだ。この街に潜む皇帝殺しって言うのを倒す為に」
「そうだったのかだし」
「悪気はないんだと思う。でも、親父は間接的に青二を傷つけた。本当にごめん」
「蕨、お前は悪くないだし。謝る必要ないだし」
「ありがとう。例え本心じゃなくてもそう言ってくれて嬉しい。後、明後日、モンスターが倒す予定だった、皇帝殺しを、三銃士で倒しに行く事になった。青二もし俺達が死んだら、後の事は任せたぜ」
「分かっただし」
「でも絶対に皇帝殺しは俺が倒してくるから」
蕨の顔はやはり父と重なった。
「蕨。きっと大丈夫だし。今の蕨は父に似てるだし」
「それは頼もしい。頑張ってくるよ」
蕨は病室を離れた。
「蕨、頑張れだし、負けるなだし」
青二は小声で呟いた。
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