大一番

 虚無って本当だったんだな。

 周りを見つめるとそこには真っ白な木々がある。その木々たちはどれも淡い、真っ白な葉っぱを付けている。大地はその真っ白な木の葉の堆積でできている。それに加えてうすく霧がかかっていた。どんだけ白が好きなんだよ‼︎


 死後俺はずっと木造の船に乗って、清流を下っていた。これが三途の川なのだろうか?川の流れは速く、船から降りる事はできなそうだ。それに、例え地面に降りたつ事ができたとしても、する意味も、理由もない。だから、俺は船でただ流れる。退屈な時間が大分流れた気もするが先はまだまだながそうだ。

「うん?」

 川をながれる瓶と船がぶつかって、鈍い音がした。

 冥界にも物好きがいるもんだな。

 青いビンの中にはクロノスの時計と手紙が入っていた。

「もう私には必要無さそうです」

 ういろう先輩だな。そう言えばクロノスの時計はまだ黒ずんで無いな。他の神器とは違って、まだ力が有るってことか。最大限の事はしたし、別に時を巻き戻したい訳でも無いんだ。これで良かったって思ってる。でも、皇帝殺しの、あいつの想いが心に入って来て、どうにか救えないかって思ってた。

「クロノスの時計。もしお前が本物で、もし過去に戻れる力があるなら、俺を皇帝殺しを救える時に戻してくれ」

 青い髪の少年は叫ぶ。

「良いのか?お主が過去に戻ったら、お主は生まれてこんかもしれぬ。そうなればお主の救った世界は壊れてしまうかもしれぬ」

 時計からはしがれた声がした。

「やってみたいかな。どうせ俺死んでるし」

「お主、そんな軽い気持ちで‼︎」

「そんな軽い訳でも無いんだけどな。クロノスの時計の本当の能力だって、多分一回しか使えないだろうし」

「お主、それが分かってて、何故?」

「上手く行ったら、きっとみんなもっと良い世界になるから。理由なんて、それで十分。早く連れてってくれ」

「あぁ、良かろう。太古の地へ向かえ。少年よ。応援してるぞ」

「心配は結構。あと信頼してるから、良いとこに飛ばしてくれよ時間も場所も」

「片棒よ」


◆◆◆


 バタッ

「いてぇ」

 蕨大河は落ちるようにして過去に辿り付いた。

「お主、名を名乗れ」

 牧師の格好をした男は言う。

「蕨大河だ。過去から来た」

 蕨はクロノスの時計を見せる。

「お主、まさか皇帝か?」

「俺は未来から来た皇帝の血を引くものだ

「輝きを失っている事から真実だと思われる。いったい、いつから?」

「具体的には分からない」

「よく分からないが、かなりの未来から訪れたと」

「流石皇帝。話が早くて良いね」

「何ようじゃ」

「あんたの部下とその娘の件だ。話がしたい」

「禁忌の件か」

「そういや禁忌ってなんだ?」

「禁忌とは、パンドラ事件の時に生まれた話だ」

「パンドラ事件?」

「かつて、パンドラの箱と言われている箱があった。パンドラの箱はただの空箱だった。だが、皇帝の1人がパンドラの箱を禁忌だと盲信した。その皇帝は神器を没収された。するとその皇帝はパンドラの箱にルクスを注ぐようになった。このパンドラの箱がきっかけで大厄災が起こった。後日、皇帝達はパンドラの箱を破壊した、途端大厄災は終わった」

「パンドラの箱は神器みたいに、ルクスを消費する道具だったって事か?」

「それくらいなら一目みたら分かるわい。パンドラの箱は皇帝の盲信によって禁忌へなってしまったのだ」

「そんな事あるのかよ」

「ルクスの高い皇帝が禁忌を信じるのはそれだけ危険じゃ」

「そう言う事なのか」

「彼女はかなり高いルクスを有している。彼女がもし自分を禁忌と信じてしまっているなら殺すより他は無い」

「皇帝も辛い仕事だな」

「あぁ。だが、世界平和がかかっている」

「俺に一つだけ提案させてくれ」

「なんだ?」

「お前の部下の娘と家族を一緒にこの場にいれてくれ」

「殺すかもしれぬのだぞ」

「安心してくれ、あいつはまだ禁忌じゃ無い。ギリギリで踏みとどまってる。それにあんたも皇帝なんだろ」

「そうだな。ただ、私の邪魔をするなよ」

「分かってる」


「皇帝様。娘をお連れしました」

「入れ」

 ガチャっとドアが開く。蕨の前には蕨が倒した少女が居た。皇帝を殺す前の、皇帝殺しの姿があった。黒いドレスを着ていて、髪はお団子だった。

「三日月、母と共に来てくれるか」

 暫くすると両親が現れた。2人は片方ずつ娘の手を握った。

「娘よ。名を名乗れ」

 皇帝は力強く言った。その言葉を聞いたものの、彼女は答える様子は無かった。両親は耳打ちする。

「一緒に言おう。せーの」

 彼女は口を開こうともしなかった。

「娘よ。娘は自分を禁忌だと思うか?」

 その質問を皇帝がした時、蕨は大きな声をだした。

「禁忌なんかじゃない。決して。信じるんだ。そして、親と共に自分の名前を言うんだ。楽しくないかもしれない、面白くないかもしれない。でも、もっと親と一緒に生きていたいって思うなら自分の名前を精一杯叫ぶんだ」

「一緒に名前を言うよ。せーの」

 両親は再び掛け声を掛ける。

「三日月 琥珀。私は禁忌なんかじゃない。三日月 琥珀」

 皇帝は琥珀の頭を撫でた。

「良い名前だね。君は禁忌なんかじゃない。三日月 琥珀だ。確かに他の人とは違うかもしれない。琥珀。君は両親に愛されている。大人になったら恩返しできるようにな」

 皇帝はその場を立ち去った。

「うん。ありがとう。皇帝さん」

 琥珀は笑った。

「琥珀が喋った」

「偉いぞ、琥珀」

 母親は琥珀に抱きつき、父親は頭を撫でる。


 蕨の体は薄く透けていた。

「これで良かったんだよな。過去を変え、未来を救った俺は消滅か、、、」

「ありがとう。名前は」

「蕨大河だ。琥珀。笑顔似合ってるぜ」

 琥珀は蕨に近寄ってキスをした。

「じゃあね」

 なんだ。この複雑な気持ち。まぁ普通に喜んで良いのかな。

「何をしてたんだ。琥珀?」

「何でもないよ。お母さん。お洋服一緒に買いたいな」

「いっぱいお洋服買おうね」

 

 俺の存在は限られた人しか見えてなかったんだな。琥珀は何で俺にキスしたんだろう?そのお陰で成仏できそうだ。

 

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