クロノリバース
皇帝殺し
生まれた時からあらゆる欲望が無かった。食欲が無いから食事をしなかった。睡眠欲が無いから寝なかった。例え、それでも生きていけた。
もう一つ異常な事があった。生まれた時から知恵があり、自我があった。自分が異常であることに気がつくのには時間は要らなかった。
隣に居る赤子は泣いていた、ただ自分は特に泣く必要は無かった。呼吸すら必要がなかった。病院で検査をされた。異常は一つも無かった。
両親は必死に私の面倒を見た。両親は普通の子と同じように育てようとした。異常であるのを知っていて、私を育てようとした。生憎、無気力だった。両親は、水を飲ませようとした、食事をさせようとした、いつだって手放さないようにした。両親は殆ど寝なかった。
ある日、体が大きくなった。飲食も睡眠もしなかったのに、異常なスピードで大きくなった。その日から、私は禁忌と呼ばれる様になった。何もしていないのに、誰よりも何もしていないのに、私は禁忌となった。
両親はそれでも私を抱きしめた。高級な服を与えた。夜になれば、私の髪を洗って、体をあらった。朝になると髪の毛をお団子ヘアーにした。毎日では無いがたまに顔に化粧をした。
父親は無気力な私からしたらヒーローだった。皇帝と言う、平たく言えば英雄に仕えていたのだ。父親はその皇帝と私を出合せた。
「お嬢ちゃん。名前は?」
牧師の格好をしたおじいちゃんだった。私には名前があったが、その名前は好きでは無かった。私には豪華すぎる名前だった。
「君は禁忌なのかい?」
私はそう聞かれて、初めて口を開いた。
「そう。きっとそう」
「お嬢ちゃん。じっとしててね」
牧師の男は私に弓を構えた。じっとしていたらきっと死ぬ。おかしいと思った。私は私をかわいそうだと思った。人としての生存欲だけは、私に残っていたのだ。
今、思えば、生きたいって言って、泣くだけで私は救われたかもしれない。けれど、泣き方を知らなかった。
どこかから、音がした。それは私の王子のものでも、正義のヒーローでも無く、私の能力が暴発した音だった。弓が向けられて死にたく無いと思っただけだった。私は本当に禁忌だった。生まれ付きの超能力者で、それに気が付いた時には、人を殺していた。
父親はこの牧師の男に仕えていた。恐らく私が殺したと分かっていた。それでも私に近づいて、私の事を抱いた。私が禁忌と知っていて、それなのに。
私の父親がもっとダメな父親だったなら、普通の父親だったなら、殺されて、人生を終わらせられた。
でも、違かった。私の父親は辛そうにしながらも泣きながらも私を愛した。
「ごめんなさい」
私は謝って、自分に皇帝と殺した鉄の槍を刺そうとした。父親は私と私の生み出した鉄槍の中に割り込んだ。
「長生きしろよ」
遺言はそれだけだった。泣きたかった。悲しかった。しかし、私は泣き方を知らない。
どうせ殺される。なら、いっそ悪人を演じてみる事にした。私は母親にも言葉を喋るようになった。喋った言葉はあの皇帝を殺すとか、次の皇帝を殺すとか、そんなものだった。
母親は誰よりも熱心に私を応援した。手伝った。ブラックスワンと言う私を応援する組織を作り上げた。私を信仰する人間はどんどん増えた。
悪人を演じるつもりが悪人になっていた。禁忌と言われて禁忌になってしまった頃の私とは真逆だった。
母親は私の悪行も愛した。だから、私は殺しを続けた。それが正しいとすら思ってしまった。だから、いつまでも続けた。
お父さんの事尊敬してたんだ。
お母さんの事大好きだったんだ。
今度は一緒にご飯食べるから、一緒に寝るから。でも、今度も優しくしてくれなきゃ嫌だよ。
なんてね。私、死んだんだよ。死って優しく無いね。その先には何も無いらしいよ。酷いよね。でも、私はいっぱい殺したんだから、しょうがないんだよね、、、
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