塩谷ルナ

「ホームズだ。今日の円卓での集まり無くしてくれないか」

「スキルバーストで、能力者が暴走したら〜?」

「その時は対処してくれ。今日、僕はスキルバーストの件を解決しに向かう。音楽祭も近づいているし、そこらへん適当に理由を付けといて」

「分かったよ〜」


 三銃士がこの街を去って一日が立っていた。


「今日の円卓は明後日音楽祭だから休みだよ~」

「音楽祭って?」

 杏は脳に響く凛の声に質問する。

「宰領の唯一のイベントだよ~。宰領の生徒は2分間楽器の演奏の発表をするんだよ~。宰領が開放される唯一の日だよ~。家族に限ってだけど~」

「へえ。でも楽器か。うまく引けたことがないんだよなあ。うう」

「練習しておくための今日の円卓は休みだよ~。頑張ってねぇ」

 桜凛はテレパシーを切る。


「音楽祭ねえ」

「すみません。杏様。時間ありますか?」

 白髪ショートボブのアイドル塩谷ルナ。通称シオルナは言う。


「大丈夫だよ」

「杏様、こんな物が机に入っていましたわ」

「それは手紙?」


 茶色い手紙入れの中には、とてもきれいな字で「好きです」と書かれた紙が入っていた。


「ラブレターですわ」

「誰からなの?」

「それが書いて無いのですわ」

「とりあえず、青二君に聞いてみるか」

 教室でぼーっとしていた緑色のおかっぱの髪で、小太りの青二に杏が言う。


「青二君。これ、知らない?」

「知らないだし」

「なんか、シオルナの近くに居た人とか?」

「知らないだし」

「そうだよね。時間取ってごめんね」


「どうしよっか?あっ。もち先輩」

 猫耳を付けた赤い髪の二年生に言った。

「ご機嫌ようにゃ」

「シオルナの机にこんなのが入ってたんですわ」

「それならホームズに聞くと良いにゃ。二年の教室に行けばあえるにゃ」

 赤坂もちの言う通りに二人は二年の教室へ向かう。


「ホームズ先輩。ワトソン先輩。お願いします」

 杏は二人に言う。

「分かった。話はもちから聞いている。完全操作ハローホームズ。ふむ。犯人は分かった。証拠を集めてくるよ。2人も調査してくれ。じゃあ、また」


 褐色茶髪で制服の上にトレンチコート、頭にしか打ち帽を被っているホームズはその場を離れる。


 ホームズたちは誰もいない円卓にいた。


「ホームズさん。ホームズさんの能力で犯人は分かったんですよね?」

 センター分けの男ワトソンは言う。

「僕はこの街の全てのデータベースに精通してる。その上僕の能力は証拠を可視化する能力だ。本当は分かってるのだけれどね」

「だけれど?」

「いや能力って言うのは時に人を不幸にするなって」

「それで犯人は?」

「その前にコーヒー買ってきてくれるかい?」

「分かりました」

 ワトソンはコーヒーを買いに行く。


 ◆◆◆


 一年前


「また、居ないのか?おい、一年生の誰かは何とかしやがれ」

 八橋は当時の一年生に言う。


「賛成じゃ。毎回の様にサボられたら困るんじゃ」

 最中も言う。

「僕が何とかするよ」

 ホームズが手を挙げる。

「任せました」

 ういろうが言った。

「任せるにゃ」

 もちも同じように言う。

「手伝ってくれないのかい」

「ホームズの事信用してますから」

 ういろうははっきりホームズに言う。



 暫くして


「君かい。僕と同級生のルクス第4位は?」

 ある家にホームズは潜入していた。


「何故、我の家に居るのですか」

 センター分けの男が言う。


「鍵をちょいとピッキングしただけだよ。それにしても臭いな」

「何の用ですか。邪魔しないでください。我は今日死ぬのです」

「勝手にしなよ」


 ホームズは徐にポッケから銃を取り出し何の躊躇いも無く頭を撃つ。確実に脳幹に銃弾が放たれたが光とともに一切怪我をしてない状態で復活する。


「これが我の能力です」

 センター分けの男は言う。


「私は死ねないのです」

「勘違いするなよ。思いあがるなよ。つけあがるなよ。君は残念ながら死ぬ。ルクスには際限があるんだよ。君の能力不死身は結局は回数制限付きの復活だ。まさかそんな事も知らないで自分が死ねないと勘違いし、自殺を図ったなんて言わないだろうね」


 センター分けの男は復活し、ホームズはそれを撃ち殺す。それが十数回繰り返した。


「僕の予想だと次の弾は君を本当に殺す。君が生き残る方法は一つしかない。今、君が僕の弟子ワトソンとなる事を誓うことだけだ。死ぬか生きるか。どっちが天国か地獄かなんて考えずとも分かるだろ」

「我はワトソンになります。今になって死ぬことが怖くなって震えています。結局、私は死ぬのが怖かったのです」

「君も物好きだね。分かってて地獄を選ぶなんて、君にはいつかホームズを名乗ってもらう。事件を解決すると犯人から恨みをかうだろう。君の場合は恨みをかわれて、殺されようが蘇る。そうだろ」

「そうですね」 

「能力に関して僕と君とは最強タッグだ。ただ、そう簡単にはホームズを名乗らせないから覚悟しておいた方が良い」


 ◆◆◆


「ホームズさん。ホームズさん」

 ワトソンはホームズの肩を叩く。

「なんだい」

「コーヒー買ってまいりまいした」

「済まない。少し懐かしい事を思い出していたよ」

「それで犯人は?」

「犯人は、、、」


 ◆◆◆


「杏様。一体誰が犯人か全然分かりませんわね」

「そだね。色んな人に聞いたのに全然分かんないよ」

「やぁ。楽しかったかい?」

 ホームズは現れる。

「それってどう言う意味ですか?」

 杏は尋ねる。

「君じゃなくてルナ君に聞いているんだ」

「どういうこと」

「灯台下暗しってことだよ。杏君」

「それってもしかして」


「ああそうだ。犯人はルナ君だ」

「証拠はあるんですわよね」

「僕の能力は証拠を可視化する能力だ。間違えるはずがないだろ。それともこの街の超能力開発が全て嘘っぱちだって言うのかい」

「動機はありますの?」

「もちが君の記憶を覗いてしまっていたんだ。悪いね。彼女は人の記憶を覗きたくて、覗く訳じゃないんだけど。デートをしたかったんだろ。もう一度だけ聞くよ、楽しかったかい?」

「私が悪いのですわ。全部」

「別に君は悪くないんじゃないか。でも君は能力を使いきれないだろ。その状態でこれ以上杏君に近づくなら僕らは力ずくにでも君を止める」

「私だって、私だって」


 杏様に名前で呼んで欲しい。杏様にもっと近づきたい。杏様に触りたい。あんさまともっと親密になりたい。杏様に触られたい。杏様の事を知りたい。私は大河君を呪った。私よりも遅く知り合ったのに。なんで杏様は蕨君を好きになったの?


 ルナは言葉にならない感情が周囲を包み込む。


 やがてルナの近くに氷柱の様な塩の結晶が浮き上がる。


「杏君。下がって」

 ホームズが叫び杏はそれに応える。

「我が何とかします」

 ワトソンはルナに近づいていく。


「ホームズさん。これはどう言う事ですか?」

「ルナ君は君を愛している。ただそれだけのことだよ」

「そうだったんですね」

「ルナ君は恐らくスキルバーストの被害者でもある」

「だから、シオルナは能力が制御できなかったんですね」

「まぁそんなとこじゃないか。僕はちょっと用があるから」

「でも、ワトソン先輩が」

「大丈夫だって。ルナ君を必要以上に傷つけることもなければ、ワトソンが犬死にすることもない。安心して、見ておいて」


 ワトソンには氷柱のような塩の結晶が刺さっていた。血が流れ出て行く。


「ワトソン先輩‼︎」


 杏が叫ぶ。


不死身フェニックス

 

 淡い光を発しワトソンは蘇えり、ルナに近づく。


「すみません。眠って貰います。スキルバーストは治りますよ。あなたの思いは少しは楽になるかもしれません」

 ワトソンはルナに手刀を浴びせ気絶させる。



 同刻


 もちはホームズに柏の過去を伝える。


「やぁ。君には宰領の先生になって貰いたいんだ」

「何で葛切先生が?」

「そんな事はどうでも良いだろ。この街が君を必要としている」

「なんで、僕みたいな存在するだけで能力者をおかしくしてしまうような存在が先生なんですか。そんなの有望な能力者を苦しめだけでしょ」

「君の能力はこの街を良くする月光だ。信用できないなら教えても良いこの街の秘密と言う闇の深淵を」

「なんですかその闇の深淵って」

「君が先生になる事を許可するなら教えてやる」

「分かりました。やりますよ」

「ありがとう。柏先生」


 ホームズは一年担任の柏のもとへ向かった。


「こんにちは。柏先生。貴方が犯人なんですよね」

「何のことだい」

「とぼけるなよ」


 ホームズは拳銃を構える。


「何で分かったんだい?」

「スキルバーストの毎年三銃士のいない時期に多発すること。スキルバーストは宰領の一年生しかならない事。一番でかいのはルナ君と分身使いの存在だね。宰領関係者であの二人と関わっていたのは、柏先生と葛切先生くらいだ。あとはもちの能力で2人の過去を見ればいい」

「全く困った生徒だね」

 ホームズは拳銃を撃つ。

 

 バンッ


 ホームズの銃からはゴムのようなものが発射され、柏の頭に触れると、そのゴムのようなものは柏の中に溶けだした。

「これは能力者の能力を一生使えなくする物らしいです。あと明日葛切先生の所へ行きます。確認お願いします」

「君はこの街の闇の深淵を突き詰めるつもりかい?」

「そんなつもりはさらさらありませんよ。ただ目の前にある事件を解決するまでです」

「僕はどこかで君のような存在を待っていたのかもしれないよ」

「そうかい。それは良かった」


 ◆◆◆


「杏様だましてすみませんでしたわ」

 病院で寝込んでいるルナは杏に言う。


「そんなことないよ。私こそ、ルナちゃん気持ち分かってあげられなくてごめん」

「杏様」

「そんな悲しい顔しないでよ」

「いえ、私はそもそも杏様に触れる資格など」

「あるよ。ルナちゃんってアイドルだし、私なんかよりかわいいし、悩みなんてないと思ってた。私が馬鹿だったよ」


 ルナは杏の頬にキスをした。


「唇は大河君のために取っておきましたわ。嫌だったらすみませんわ。でも、私は杏様のことを愛しています。このキスは私の最後のわがままですわ」

「私がルナって言ってるんだから、ルナも杏って呼んでよ。それにそりゃ、私は大河君のことが好きだけど、杏には私のこと好きでいて欲しいし、これからは友達としてもっと仲良くなろう」

「杏」

「ルナ。握手しよう」

「できませわ。私の能力は」

「今まではスキルバースとの影響なんだって。もう握手も、できるよ」

 二人は握手をする。

「これからは悩みがあったら相談してね」

「分かりましたわ。杏」

「約束だよルナ」

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