スキルバースト
EP.0 アイドル
〜数ヶ月前〜
「
白衣を着た老人は黒いシルクハットを被っている学生に尋ねる。
「勝手にしやがれ。どうせもう次期1年生の20人は決まってやがるんだろう?時間の無駄って奴だぜ」
シルクハットを被った学生はあくびをしながら答えた。
「まぁまぁ、これも円卓の長の重要な仕事だよ。一通り聞くだけでいいからね。少し、辛抱してくれよ」
「分かった。ただし、もっと早く喋ってもらうぜ。そうじゃなきゃ、日が暮れちまう」
「分かった。じゃあ、テンポを上げていくよ、、、、、、
〜現在〜
中学を約1ヶ月前に卒業した
「おはようございます。どうぞこちらに」
杏の住む赤い屋根の一軒家の前の道路では青いスーツを着た男が黒い車の扉を開けていた。
「眠そうですね」
運転手の男は言った。
「昨日はワクワクして眠れませんでした。それで、ポセアリウスってどう言う所なんですか?」
運転手に
「レンガが多く使われている西洋風の街ですよ。閑静な街ですが、生活に必要な物から、娯楽施設まで揃っているのできっと気に入ると思いますよ」
運転手の男は要点を摘み出して答えた。杏の求めていた答えと合致するかは分からないが運転手の男はこう聞かれた場合いつもこう答えていた。
「そう言えば私この服以外何も持っていないんですけど、、、」
その言葉に運転手は驚いた。杏は髪をまとめるためのシュシュを手につけているだけである。服はジェラートピケのパジャマである。それでいて、カバンもリュックも持っていなかった。
ポセアリウスの住人には家電付きの一軒家が支給される。宰領学園での3年間は基本その家で過ごす事が決まっている。これから地元から離れた場所での長い学園生活が始まる。それなのに、彼女は荷物をほとんど持っていなかった。
この道が長い運転手にしてみてもいわゆる高校生となる年代でここまで、無頓着な子は男女含め、なかなかいないものだった。
「それでも、心配することありませんよ。生活に必要な物は支給されます。それに、被験者の方には現金も支給されますから」
運転手は驚きを隠しながら冷静に答える。
「そうなんですか。それなら安心ですね」
その会話を終えると
車はやがて東京湾の見える道路で止まった。とても綺麗とは言えない東京湾の水面は辺りのビル群を鈍く反射していた。
ビルの中には全面ガラス張りの巨大エレベーターがあり、運転手と杏はそこに入る。
「ここが、ポセアリウスと地上を繋ぐ唯一の場所です。では、行きましょう」
エレベーターのボタンを運転手が押す。すると
あっという間にピンと言う音がなって杏と運転手の2人は海底都市ポセアリウスにたどり着いた。
「では」
運転手は杏に会釈し、エレベーターで昇っていった。
杏の正面には十数人の杏と同じ年齢の男女がいた。
そこにコツコツと音を立てて、白髪で眼鏡を掛けた白衣のお爺さんがやってくる。
「やぁ、私は
そう言って
研究所の中にはいくつもカプセルがあった。カプセルは寝そべって入る一人用のタイプのものだった。
「入ってくれ」
その言葉とともに周囲のカプセルの入り口が次々と開く。杏と同じく、明日から宰領学園に入る十数人の男女達はカプセルに何の躊躇いもなく入っていった。杏もそれを見てカプセルに入って寝そべった。
五分程立つと杏のカプセル内部にあるモニターが喋り出す。
「
杏は左目に力を入れるとモニターが言う。
「それがあなたの能力です」
力を抜くとモニターが再び発音した。
「それがあなたの能力です」
カプセルが開くと
「痛い所とかあるかい?」
「全然ないです。それどころか何をされたか全然分かりませんでした」
「元気そうで何よりだよ。質問とかはあるかい?」
「そう言えばルクスってなんですか?」
「ルクスは超能力を使用する為のエネルギーだ。使うと減り、超能力を使わなければ自然に回復する」
「じゃあルクス順位って言うのは何ですか?」
「ルクス順位は個人のルクスの順位だ。ルクスの総量は個人、個人で決まっている。ルクスが高いと予想される20人は宰領学園の新一年生として呼ばれる。その中でのルクスの順位がルクス順位だ。ルクスが高ければ、高いいほど強い能力を得ると言う特性がある。端的に言うと、ルクス順位が高い程、強い能力者って事だ」
「ルクス順位一位の人はどんな能力を持っているんですか?」
「君たちの先輩となるルクス順位一位の一人はパイロキネシト、もう一人は影を操る能力者だ」
「そうなんだ」
「こんなもんでいいかな。今日のこれからの時間はポセアリウスの見学ツアーだ。ぜひ、楽しんでね」
超能力開発を終えた19人とツアーを先導する1人、計20人は二列でポセアリウスの商業施設を回った。
最後にはポセアリウス中心にある
「今日のツアーはここで終わりです」
ツアーを先導していた人が言った。
「疲れたー」
杏は伸びをして、支給された家に向かおうとポケットに入っていた地図を開く。
「すみません」
「しょっぱっぁぁぁい」
フードを被った女の子は杏の右手を急いで外して、フードを外して深くお辞儀して謝罪した。フードを外した女の子の姿に杏は驚愕した。
「シオルナ」
アイドル兼ヴァイオリニストとして有名な
「すみません。
「私は渡辺杏。アイドルって大変だね。そうだ‼︎シオルナ、取り敢えず今日行った服屋さんに行こう」
「分かりましたわ」
2人は急いで今日回った商業施設。ポセアリウスにある服屋に向かった。
杏は流石にパジャマのままではいられないと思った(周りのみんながお洒落な服だった)ので青のワンピースを買い、急いで着た。
「ごめんね。時間とっちゃた?手は怪我したって事にして手袋しよう。ほら、このレースの手袋可愛いよ」
杏は黒いレースの手袋を手に取って言った。
「それしか思いつきませんわね。ファンの方には悪いですがそうさせて頂きますわ。杏様、一緒に来て頂けませんか?」
「え、行って良いの?」
「勿論ですわ」
「嬉しい。夢だったんだ。シオルナのライブ行くの」
「時間がないですわ。早速行きましょう」
塩谷ルナは黒いレースの手袋を買って付けた。2人は急いでライブ会場へ向かう。
◆◆◆
シオルナはヴァイオリンで有名なクラシック曲を何曲か弾いた。アイドルと言うよりかはクラシックのコンサートに近く、皆優しいヴァイオリンの音に聞き入った。
その後、代表曲を歌った。杏は舞台裏でそれを見ていた。
飛べない身 星降る空 夢見る乙女 檻の中
巡り巡り ゆるりゆらり 果ての世界へ のらりくらり
星になる 君の手の 先にいるよ
ペンギン エンジェル ペンギン エンジェル
私と君を 包み込んだ
ペンギン エンジェル ペンギン エンジェル
いつまでも 残る運命
ペンギン エンジェル
儚い歌を力強く歌いながら踊るシオルナの美しい姿を見て杏と観客は尊敬に近い憧れの念を抱いた。
◆◆◆
「もち。そっちの調子は?」
鹿撃ち帽にグレーのトレンチコートを着た茶髪で褐色肌の少女は聞く。
「多分、ライブ会場へ向かってるっぽいにゃ」
猫耳の赤髪少女は答える。
「2人一致したね」
茶髪褐色の少女は答える。
「残りの一年生に向かうように言いました」
猫耳少女の隣にいた黒髪の少女は答える。
「分かったにゃ。まぁ後は任せるしかないにゃ」
猫耳少女は言った。
◆◆◆
ライブが終わると、手を怪我した為、握手会がない事。代わりにシオルナがライブ会場を去るファンに向け、手を振る事になった事がアナウンスされた。
「
手を振っていたシオルナが突如叫ぶ。
裏に控えていた杏がシオルナの元へ向かう。そこにはなんと同じ顔、同じ服装の男が何人もいたのだ。
シオルナの曲のキャラペンギンエンジェルが書かれているTシャツを着ていて、体は細い。黒い縁の眼鏡を掛けていた。その内の一人が拳を構え、シオルナに向かって行く。
「はああああああああ」
ファンの男は発狂しながらシオルナの元へ近づいていき、その男はパンチをシオルナの顔に放つ‼︎杏は急いでシオルナの元へ向かうがもう男の拳は振りかざされていた。
「止まるだし。
ピシャリ
謎の声と共にファンの男の拳がシオルナに当たる寸前でとまる。
緑色のおかっぱで小太りの男がどこからともなく現れ、シオルナを襲ったファンの男に後ろから正拳突きをする‼︎
シュン
っと言う音を出し、パンチを放ったファンの男は消える。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
同じ顔の男達が一斉に発狂しながら、拳を構えシオルナの元へと向かう。
「私もシオルナを守る‼︎」
杏はファンの男とシオルナの中に入り能力を使う。未来を見て、分身の拳を避けつつ、杏とおかっぱ男でファンの男を倒していく。
分身を杏が倒せたのは剛力だからでは無い。むしろ非力だ。だが、非常に小さい威力でも分身は倒せる。しかし、数は一向に減らない‼
「これって間違いなく超能力よね」
おかっぱ頭の男に杏が聞く。
「そうだし。こいつは
「って事はあなたも宰領の生徒って事?って、今はどうでもいい事ね」
「この能力、キリがないだし。何か策がないと行けないだし」
「
シオルナも戦う覚悟を決める。
「シオルナは下がってて。もし怪我でもしたらファンが悲しむでしょ」
2人は能力を駆使しながら分身たちを倒して行く。それでもまだ数は一向に減らない‼︎
「はぁはぁ」
やがて、杏は体力を削られ壁際に追い込まれた。
「ルクスが切れたって事かな。能力が使えない」
能力が切れた杏はさらに壁際に追い込まれる。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
杏を標的にした何人ものファンの分身が杏にパンチを構えた状態で向かっていく。
ガコンッ
杏は下がろうとしたが壁にぶつかってしまう。
「ヤバっ」
杏はとっさに壁を見る。そこには火災報知器があった。
「ラッキー」
杏は壁に付いていた火災報知器を押す。
ウィーオーウィーオー
と言う音と共にスクリンプラーが起動した。
スクリンプラーの水はファンの分身を次々に消滅させる。最後にはオリジナルのファンの男だけが残った。
シオルナはそのオリジナルの手を優しく掴んだ。
「ごめんなさい。でも、少し眠ってください。
ガコンッ
ファンの男は気絶した。
「助けてくれてありがとうございますわ。杏様と、、、」
シオルナは緑色の小太りのおかっぱ男と杏に感謝を伝えようとしたが前者の名前が分からず歯切れが悪くなってしまう。
「
「円卓ってなに?」
杏は青二に尋ねる。
「円卓は
青二は杏とルナに背を向けた。
「まって
「
そう言うと
「本当に
「いやいや、当然の事をしたまでだよ。私達も帰ろうかポセアリウスに」
「はい」
◆◆◆
2人がエレベーターを降りると美人な黒髪の少女がそこにいた。
「貴方達は円卓の2人ですね」
「はい」
「そうですわ」
「私は佐藤ういろうです。2年生ルクス第一位。影を変形させる能力者です。現在の円卓のメンバーと円卓の活動などが記されています。よく目を通しておいて下さい」
ういろうは手に持っていた分厚い資料を2人に一部ずつわたす。
「分かりました」
2人は分厚い資料を持って家へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます