スキルバースト

EP.0 アイドル

〜数ヶ月前〜


渡辺わたなべあん。現在岐阜中央中学校に通っている。彼女の母はロシア人。その為髪は生まれ付き金色である。目の色は少し青みがかっていて、肌は白い。また、背が高く、手足が長いのも特徴的だ。性格も明るく、素行にも問題ない。それに加えて、推定ルクスは日本の中でもトップクラス。私は彼女を宰領学園の次期1年生として招きたい。君はどう思う?」

 白衣を着た老人は黒いシルクハットを被っている学生に尋ねる。

「勝手にしやがれ。どうせもう次期1年生の20人は決まってやがるんだろう?時間の無駄って奴だぜ」

 シルクハットを被った学生はあくびをしながら答えた。

「まぁまぁ、これも円卓の長の重要な仕事だよ。一通り聞くだけでいいからね。少し、辛抱してくれよ」

「分かった。ただし、もっと早く喋ってもらうぜ。そうじゃなきゃ、日が暮れちまう」

「分かった。じゃあ、テンポを上げていくよ、、、、、、


〜現在〜

 

 中学を約1ヶ月前に卒業したあんは明日から超能力開発を行う海底都市ポセアリウスの宰領さいりょう学園に入学する旨となっている。昔から魔法や超能力、都市伝説などに興味があった杏はとても興奮していた。今日は杏を含む、宰領学園生徒1年生のポセアリウスへの移動日である。


「おはようございます。どうぞこちらに」

 杏の住む赤い屋根の一軒家の前の道路では青いスーツを着た男が黒い車の扉を開けていた。あんは会釈して、眠そうに「おはようございます」と言い、ジェラートピケのパジャマのまま、黒い車に乗りこんだ。

「眠そうですね」

 運転手の男は言った。

「昨日はワクワクして眠れませんでした。それで、ポセアリウスってどう言う所なんですか?」

 運転手にあんは尋ねた。異国の地を初めて訪ねる人の如くルンルンとして聞いた。

「レンガが多く使われている西洋風の街ですよ。閑静な街ですが、生活に必要な物から、娯楽施設まで揃っているのできっと気に入ると思いますよ」

 運転手の男は要点を摘み出して答えた。杏の求めていた答えと合致するかは分からないが運転手の男はこう聞かれた場合いつもこう答えていた。

「そう言えば私この服以外何も持っていないんですけど、、、」

 その言葉に運転手は驚いた。杏は髪をまとめるためのシュシュを手につけているだけである。服はジェラートピケのパジャマである。それでいて、カバンもリュックも持っていなかった。


 ポセアリウスの住人には家電付きの一軒家が支給される。宰領学園での3年間は基本その家で過ごす事が決まっている。これから地元から離れた場所での長い学園生活が始まる。それなのに、彼女は荷物をほとんど持っていなかった。

 この道が長い運転手にしてみてもいわゆる高校生となる年代でここまで、無頓着な子は男女含め、なかなかいないものだった。


「それでも、心配することありませんよ。生活に必要な物は支給されます。それに、被験者の方には現金も支給されますから」

 運転手は驚きを隠しながら冷静に答える。

「そうなんですか。それなら安心ですね」

 その会話を終えるとあんは日向ぼっこしているパンダかのように深く眠った。


 車はやがて東京湾の見える道路で止まった。とても綺麗とは言えない東京湾の水面は辺りのビル群を鈍く反射していた。


 あんは運転手に肩をトントンと叩かれ、目を覚ます。運転手は停車した車のすぐ側にある、ガラスで作られた巨大なビルへ入っていく。杏はゆっくりとそれについて行った。

 ビルの中には全面ガラス張りの巨大エレベーターがあり、運転手と杏はそこに入る。

「ここが、ポセアリウスと地上を繋ぐ唯一の場所です。では、行きましょう」

 エレベーターのボタンを運転手が押す。するとあん達を乗せたガラスの箱はずんずん沈んで行った。海をかき分け、かき分けエレベーターは海底に向かって行く。ガラス越しに見える魚群や小さなサメにあんの口は開いたままだった。

 あっという間にピンと言う音がなって杏と運転手の2人は海底都市ポセアリウスにたどり着いた。

「では」

 運転手は杏に会釈し、エレベーターで昇っていった。


  あんの目には全てがレンガでできついる街並みが映りこんだ。どこを見てみてもヨーロッパのような街並みが広がっている事に杏はとても感動した。


 杏の正面には十数人の杏と同じ年齢の男女がいた。

 そこにコツコツと音を立てて、白髪で眼鏡を掛けた白衣のお爺さんがやってくる。

「やぁ、私は葛切くずきりだ。取り敢えず君たちには超能力を与える」

 そう言って葛切くずきりは歩き出した。皆それに付いていく。やがて白い長方形の研究所にたどり着いた。

 研究所の中にはいくつもカプセルがあった。カプセルは寝そべって入る一人用のタイプのものだった。

「入ってくれ」

 その言葉とともに周囲のカプセルの入り口が次々と開く。杏と同じく、明日から宰領学園に入る十数人の男女達はカプセルに何の躊躇いもなく入っていった。杏もそれを見てカプセルに入って寝そべった。


 五分程立つと杏のカプセル内部にあるモニターが喋り出す。

渡辺わたなべあん。学年ルクス順位4/20。あなたの能力は未来予知です。目に力を入れて下さい」

 杏は左目に力を入れるとモニターが言う。

「それがあなたの能力です」

 力を抜くとモニターが再び発音した。

「それがあなたの能力です」


 カプセルが開くと葛切くずきりあんの目の前にいた。

「痛い所とかあるかい?」

「全然ないです。それどころか何をされたか全然分かりませんでした」

「元気そうで何よりだよ。質問とかはあるかい?」

「そう言えばルクスってなんですか?」

「ルクスは超能力を使用する為のエネルギーだ。使うと減り、超能力を使わなければ自然に回復する」

「じゃあルクス順位って言うのは何ですか?」

「ルクス順位は個人のルクスの順位だ。ルクスの総量は個人、個人で決まっている。ルクスが高いと予想される20人は宰領学園の新一年生として呼ばれる。その中でのルクスの順位がルクス順位だ。ルクスが高ければ、高いいほど強い能力を得ると言う特性がある。端的に言うと、ルクス順位が高い程、強い能力者って事だ」

「ルクス順位一位の人はどんな能力を持っているんですか?」

「君たちの先輩となるルクス順位一位の一人はパイロキネシト、もう一人は影を操る能力者だ」

「そうなんだ」

「こんなもんでいいかな。今日のこれからの時間はポセアリウスの見学ツアーだ。ぜひ、楽しんでね」


 超能力開発を終えた19人とツアーを先導する1人、計20人は二列でポセアリウスの商業施設を回った。あんの隣は黒いパーカーを着ていて、パーカーのフードを深く被っている女の子だった。怪しげだが杏はそのフード姿を見て自分より背が低いがスタイルが良い(主に自分より胸が大きい。手足も引き締まっていて長い)のを見て少し嫉妬した。


 最後にはポセアリウス中心にある宰領さいりょう学園にたどり着いた。19人は制服を機械で採寸し、すぐさま作られた制服を1人3着ずつ貰った。


「今日のツアーはここで終わりです」

 ツアーを先導していた人が言った。


「疲れたー」

 杏は伸びをして、支給された家に向かおうとポケットに入っていた地図を開く。

「すみません」

 あんの右手を、杏の隣にいたフードを深く被っていた女の子が両手で掴んで小声で言った。

「しょっぱっぁぁぁい」

 あんは叫んだ。

 フードを被った女の子は杏の右手を急いで外して、フードを外して深くお辞儀して謝罪した。フードを外した女の子の姿に杏は驚愕した。

「シオルナ」

 アイドル兼ヴァイオリニストとして有名な塩谷しおやルナが目の前にいたのである。透き通る様な白髪のボブ。茶色い目。白い肌。細いけど力強く、長い手足。テレビに出ずっぱりな彼女の姿にあんは憧れていた為感動した。

「すみません。わたくしの能力は塩分操作ソルトオペレーションですわ。触れた相手の塩分を操作する事ができるのですがまだ使いこなせなくて、触っただけで塩分を増加させてしまうのですわ。でも、今日は握手会があって、だから力になって欲しいのですわ」 

「私は渡辺杏。アイドルって大変だね。そうだ‼︎シオルナ、取り敢えず今日行った服屋さんに行こう」

「分かりましたわ」

 2人は急いで今日回った商業施設。ポセアリウスにある服屋に向かった。


 杏は流石にパジャマのままではいられないと思った(周りのみんながお洒落な服だった)ので青のワンピースを買い、急いで着た。

「ごめんね。時間とっちゃた?手は怪我したって事にして手袋しよう。ほら、このレースの手袋可愛いよ」

 杏は黒いレースの手袋を手に取って言った。

「それしか思いつきませんわね。ファンの方には悪いですがそうさせて頂きますわ。杏様、一緒に来て頂けませんか?」

「え、行って良いの?」

「勿論ですわ」

「嬉しい。夢だったんだ。シオルナのライブ行くの」

「時間がないですわ。早速行きましょう」

 塩谷ルナは黒いレースの手袋を買って付けた。2人は急いでライブ会場へ向かう。


 ◆◆◆


 シオルナはヴァイオリンで有名なクラシック曲を何曲か弾いた。アイドルと言うよりかはクラシックのコンサートに近く、皆優しいヴァイオリンの音に聞き入った。


 その後、代表曲を歌った。杏は舞台裏でそれを見ていた。


 飛べない身 星降る空 夢見る乙女 檻の中 


 巡り巡り ゆるりゆらり 果ての世界へ のらりくらり 


 星になる 君の手の 先にいるよ


 ペンギン エンジェル ペンギン エンジェル 


 私と君を 包み込んだ


 ペンギン エンジェル ペンギン エンジェル


 いつまでも 残る運命 


 ペンギン エンジェル 

 

 儚い歌を力強く歌いながら踊るシオルナの美しい姿を見て杏と観客は尊敬に近い憧れの念を抱いた。


 ◆◆◆


「もち。そっちの調子は?」

 鹿撃ち帽にグレーのトレンチコートを着た茶髪で褐色肌の少女は聞く。

「多分、ライブ会場へ向かってるっぽいにゃ」

 猫耳の赤髪少女は答える。

「2人一致したね」

 茶髪褐色の少女は答える。

「残りの一年生に向かうように言いました」

 猫耳少女の隣にいた黒髪の少女は答える。

「分かったにゃ。まぁ後は任せるしかないにゃ」

 猫耳少女は言った。


 ◆◆◆


 ライブが終わると、手を怪我した為、握手会がない事。代わりにシオルナがライブ会場を去るファンに向け、手を振る事になった事がアナウンスされた。

 

あん様っっっ‼︎」

 手を振っていたシオルナが突如叫ぶ。


 裏に控えていた杏がシオルナの元へ向かう。そこにはなんと同じ顔、同じ服装の男が何人もいたのだ。

 シオルナの曲のキャラペンギンエンジェルが書かれているTシャツを着ていて、体は細い。黒い縁の眼鏡を掛けていた。その内の一人が拳を構え、シオルナに向かって行く。


「はああああああああ」

 ファンの男は発狂しながらシオルナの元へ近づいていき、その男はパンチをシオルナの顔に放つ‼︎杏は急いでシオルナの元へ向かうがもう男の拳は振りかざされていた。


「止まるだし。完全停止フリーズ


 ピシャリ


 謎の声と共にファンの男の拳がシオルナに当たる寸前でとまる。


 緑色のおかっぱで小太りの男がどこからともなく現れ、シオルナを襲ったファンの男に後ろから正拳突きをする‼︎


 シュン

っと言う音を出し、パンチを放ったファンの男は消える。


「うわぁぁぁぁぁぁ」


 同じ顔の男達が一斉に発狂しながら、拳を構えシオルナの元へと向かう。


「私もシオルナを守る‼︎」


 杏はファンの男とシオルナの中に入り能力を使う。未来を見て、分身の拳を避けつつ、杏とおかっぱ男でファンの男を倒していく。


 分身を杏が倒せたのは剛力だからでは無い。むしろ非力だ。だが、非常に小さい威力でも分身は倒せる。しかし、数は一向に減らない‼


「これって間違いなく超能力よね」

 おかっぱ頭の男に杏が聞く。

「そうだし。こいつは宰領さいりょう学園の生徒だし。間違いないだし。今日ずっと隣にいただし」

「って事はあなたも宰領の生徒って事?って、今はどうでもいい事ね」

「この能力、キリがないだし。何か策がないと行けないだし」

あん様。わたくしも戦います」

 シオルナも戦う覚悟を決める。

「シオルナは下がってて。もし怪我でもしたらファンが悲しむでしょ」

 あんはファンの男が恐らくシオルナを狙っていることから、シオルナに傷がつかないように命令した。

 2人は能力を駆使しながら分身たちを倒して行く。それでもまだ数は一向に減らない‼︎


「はぁはぁ」

 やがて、杏は体力を削られ壁際に追い込まれた。

「ルクスが切れたって事かな。能力が使えない」

 能力が切れた杏はさらに壁際に追い込まれる。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 杏を標的にした何人ものファンの分身が杏にパンチを構えた状態で向かっていく。

 

 ガコンッ


 杏は下がろうとしたが壁にぶつかってしまう。

「ヤバっ」

 杏はとっさに壁を見る。そこには火災報知器があった。

「ラッキー」

 杏は壁に付いていた火災報知器を押す。

 ウィーオーウィーオー

 と言う音と共にスクリンプラーが起動した。


 スクリンプラーの水はファンの分身を次々に消滅させる。最後にはオリジナルのファンの男だけが残った。


 シオルナはそのオリジナルの手を優しく掴んだ。

「ごめんなさい。でも、少し眠ってください。塩分操作ソルトオペレーション


 ガコンッ


 ファンの男は気絶した。


「助けてくれてありがとうございますわ。杏様と、、、」

 シオルナは緑色の小太りのおかっぱ男と杏に感謝を伝えようとしたが前者の名前が分からず歯切れが悪くなってしまう。

青二あおに よしだし。円卓の一員として当然の事をしたまでだし」

「円卓ってなに?」

 杏は青二に尋ねる。

「円卓は宰領さいりょうの学年別ルクス上位四人、計12人で行われるポセアリウスの治安を守る為の組織だし。二人も円卓のメンバーだし。だから連れ戻しに来ただし。そしたら、たまたま暴れている能力者がいただし。先輩達は明日から円卓の活動を忘れないようにと言う事らしいだし。じゃあ、帰るだし」

 青二は杏とルナに背を向けた。

「まって青二あおに君。円卓一年生の後一人は?」

わらびとか言う奴らしいだし。まだ見つかってないらしいだし」

 そう言うと青二あおには気絶した分身使いを担いで、立ち去った。

「本当にあん様ありがとうございますわ」

「いやいや、当然の事をしたまでだよ。私達も帰ろうかポセアリウスに」

「はい」

 あんとルナは一緒にポセアリウスへ帰った。


 ◆◆◆


 2人がエレベーターを降りると美人な黒髪の少女がそこにいた。

「貴方達は円卓の2人ですね」

「はい」

「そうですわ」

「私は佐藤ういろうです。2年生ルクス第一位。影を変形させる能力者です。現在の円卓のメンバーと円卓の活動などが記されています。よく目を通しておいて下さい」

 ういろうは手に持っていた分厚い資料を2人に一部ずつわたす。

「分かりました」

 2人は分厚い資料を持って家へ帰った。

 

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