父親 〜You wouldn't be right〜

 蕨は今までいた闘技場からポセアリウスに戻ってきていた。


「よくやったな」

 蕨の父親の涼風は言った。黒い髪には白髪が混じっていて、長い髭は整理されていない。スーツを着た涼風は蕨の肩を優しく叩いた。

「父さん。俺の身代わりの今川蓮は死んだ。舞雪かあさんも死んだ。俺の同級生は倒れた。あのケンタウロスは皇帝殺しに怯えて、最終的には消えた。父さんのやってることは正しいのかもしれない。それでも、父さんを正しいと思えない」

「すまない。本当に済まない。いっつもそうだ」

 蕨涼風は涙ながらに言った。

「蓮はな死ぬはずじゃなかったんだ。母さんだって、蓮の一件がなければ。全部、全部俺のせいだ」

 しばらく、涼風は涙を流した。

「大河、舞雪と俺がどこで出会ったか知ってるか?」

「さあ?なんで今、そんなこと聞くんだよ」

「俺は円卓の、三銃士だった。そのときの三銃士トリニティは皇帝殺しを討伐することになったんだ。俺には六人の皇帝の血が流れてて、能力の闘技場コロシアムの中では俺は最強になる。俺にはポセアリウスのすべての神器が託された。皇帝殺しを前にして、俺は何をしたと思う」

「わかんねえよ」

「逃げたんだ。ほかの二人と、皇帝殺しを能力で閉じ込めて、逃げたんだ。俺の能力が切れるのはどちらかが死んだときだけだ。能力は逃げ出してからすぐ切れた」

「最低だな」

「俺はポセアリウスから逃げた。そんなとき出会ったのがマイだ。マイの透き通るような青い髪を見てすぐに、皇帝殺しをポセアリウスに封印した英雄、俺に唯一通っていない血を持つ皇帝、アルフレードの血を継ぐものだと思った。それで決めたんだ。子供に俺にできなかったことを託すと」

舞雪かあさんのことどう思ってたんだよ?道具としてしか見てなかったのかよ?そんなはずないよな。言えよ、純愛だったって」

「もう、何もわからなかった。今でも、わかってない。でも、俺にはこうするしかなかったんだよ」

「最悪だよ」

「すまない」

「円卓に今から向かう。知ってることをすべて円卓のみんなに伝える大河も行くよな」

「ああ。俺は逃げねえよ」

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