ケンタウロス 〜Your father is my mother〜
「妾はその神器を調査、解析して出来上がった人工神です。弓神ケンタウロスを模して作られし名もなき贋作です」
黒い髪を肩くらいまで伸ばして、上半身は金属の鎧で守られていた。顔と鍛え上げられている腕が露出している。下半身は異空間で見たケンタウロスと同じく、馬だった。背は本物よりは一回りくらい小さく、手には光弓を持っている。
「何故2人を追いやった?」
「それは創造主様がやったことです。妾の知ることではありません」
贋作を名乗った女のケンタウロスは淡々と語る。
「お前の創造主の目的は?」
「妾の目的は貴君だけですよ」
「お前は悪い奴なのか?」
「悪い奴と言われましても?」
「俺の髪が青いから、俺が触れ合った人のルクスを吸収するから、俺の命を狙ってるのか?」
「妾の目的はあなたの命ではありません」
「いったいどういうことなんだよ」
蕨は少し心中を吐露しながら感情をぶつける。
「どういう事と言われましてもそれ以外に答えようがありません」
贋作は一切表情も変えず言う。言葉に感情はなく、一定のペースで一定量の言葉が一定の音程で発音されていく。
「いや、やっぱりあなたの命も目的かもしれません」
「よく分かんないけど、分かったよ。戦えばいいんだろ」
蕨は弓を構え標準を贋作に向ける。
「創造主様の考えはこの戦いです
「訳の分からないこと言いやがって。やってやる。いけぇぇぇ、
蕨は感情に身を任せ贋作に弓を向け発射する。
「
贋作も蕨と同じように弓を構えて発射する。
バァン
二つの矢は途中で互いに互いを壊しあった。まさしく相殺である。
「貴君を褒めてあげましょう。貴君はその神器の力を使いこなしている」
贋作は弓を構えるのを一旦止め、拍手する。
パチパチ
そこに敬愛の意思も尊敬もなく、ただ蕨と言う人間に向けられた悪意ある拍手であった。他人を卑下する時の上から目線を贋作はした。目が呆れていると言う他ないと喋っていた。
「何様なんだよ。俺はこれだけじゃない。
蕨はそれに呼応し、宙に向けて矢を解き放った。かつてスライムを倒すのに使われた技を使う。
「
勿論、贋作も同じように矢を放った。
バババン
矢と矢がぶつかり合い連続して爆発が起こったかのような音が起き、コロシアムには衝撃が生み出した風が吹いていた。
「貫け。俺の正義を。貫け。闇に塗れた贋作のケンタウロスを。貫けぇぇ、
蕨はありったけのルクスを込めて光弓をボウガンの様な形に変え、矢を解き放つ‼︎
「
贋作はなんの思いも込めずに解き放った矢は悲しい事にも蕨の矢と全く同じ能力を持っていた。
(この神器の能力は完全に持っているっていう事か。ルクスは負けてるんだよな。俺に勝ち目はあるのか?)
「何か考え事をしてるのですか。
「くっ」
蕨は立て続けに放たれた矢を一つ一つ相殺しようとはしなかった。連戦に次ぐ連戦で蕨は大量のルクスを消費していたからだ。蕨はすべての矢を相殺し、ルクスの量で贋作に上回って勝つの希望が非常に薄いことを考慮し、蕨はコロシアムを走り回り、十本の矢を回避した。
それが出来たのは蕨のたぐいまれな運動神経だけでなく、
「妾の矢を全て交わしますか。褒めて差し上げましょう。ついでにあなたの質問に一つ答えてあげましょう」
贋作のケンタウロスは弓を下ろして言った。
「何でお前は、俺を狙ってるんだ?」
蕨は力強く贋作に問いかける。
「妾は創造主様の言う通り貴君と決着をつけに」
「何のために決着をつけるのかって聞いてんだ」
「分かりました。説明しましょう。休戦です。貴君に妾がなぜ作られ、何故貴君との決戦を仕掛けたのかお教えしましょう」
弓を下げて贋作は言った。
(今はチャンス、相手は弓を構えていない。でも、また何もわからないまま死なれたら、何も知れなかったら、絶対に後悔する。)
長い思考の上で蕨はそれを飲んだ。
「分かった、休戦だ」
「では一から説明します。皇帝とは何か知っていますか?」
「ローマとか中国に昔いたやつだろ」
「違います。まあそちらも同じ名で呼ばれていますが。皇帝とは神宿る武器、すなわち神器の力を最大限まで引き出すことを許された人間の事です」
ケンタウロスはそう言った。
「それで?」
「神器は全部で七種類。皇帝もそれに伴い七人。彼らは戦争を短期化し、被害を少なくする為に神器を使い、平和を築いていました。その皇帝七人は皇帝殺しによって全滅しました。それに伴いブラックスワンという組織が肥大化していきます。ブラックスワンと言う組織は知っていますか?」
「名前以外は何も」
「ブラックスワンはその皇帝殺しを神と崇める人々をさす言葉です。かつての皇帝達が死んでいくとともにブラックスワンは肥大化していき、今では殆どの世界中の人間がこのブラックスワンを信仰しています」
「お前はその組織に作られたんんじゃないのか?」
「その組織の裏切り者達によって作られし、皇帝殺しを殺すための神の贋作。それが妾でございます」
「じゃあなんで俺と戦うんだよ」
「創造主様は妾と貴君のどちらが、よりその標的を倒すのに適しているのかを判定するために戦わせているのです」
「何で一緒に、その皇帝殺しを倒す為に戦えないんだ」
「今目の前にいる敵を殺せないのに皇帝殺しを殺せるわけがないでしょう。理由はそれで十分です」
「十分なんかじゃないだろ」
「十分です。今ここで勝てなければ、あの、怪物には勝てるわけがありません」
自分を贋作と言った女のケンタウロスの足が震えていた。声も震えていた。作られたモンスターでありながら、感情が湧き出てしまっていた。
「この震えは恐怖というものでしょうか。妾は皇帝殺しの情報を脳に埋め込まれているのです。それゆえ、皇帝殺しの話をするといつもこうなるのです」
「怖いなら最初からそう言って欲しかった。全部説明して欲しかった。だから、もうその弓は捨ててくれ」
「できませんそんなこと。
その矢は蕨のはるか右側にずれていた。今までの贋作とは違った。抑えきれない恐怖が贋作を支配した。
「おかしいですね。修正します。次は貴君を殺します」
贋作は取り繕う。
「悪い。俺がもうちょっとしっかりしてたら、もっと強かったら、こんなことにはならなかったんだ。本当にごめん。
蕨は弦を限界まで右手で引っ張り、捻る。
「何をやっているのですか。そんな事じゃ矢は飛びませんよ。さようなら。
「これはただの矢でも、弓でもないだろ。飛ぶさ」
蕨は矢を解き放つ。らせん回転して贋作の矢を包み込みそのまま贋作の持っている弓を破壊した。
「これが本物ですか。妾の弓の破壊は妾の死を意味します。創造主様から承っていた事をお教えします。私の創造主は貴君、蕨大河の父親、蕨涼風です」
「なんとなく分かってた。ありがとう。そしてお疲れ。でも俺の親父が作ったなら俺の妹だな。戦う理由教えてくれて助かった。ゆっくり眠りなよ」
蕨大河の前に居た贋作のケンタウロスはとても小さい光の粒になって蛍のように淡い光を発し下から消えていった。最後の最後に贋作は、蕨大河の妹として笑った。
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