増殖スライム
またもや音もなくモンスターは現れた。緑色で液胞のようなものがある。形は不安定で丸っこい。見た目は奇妙だった。理科の教科書で見た微生物によく似ていて、純粋な球体ではなく毛の様な物や、黒い点々がある。器官は目視できなかった。バランスボールくらいの大きさの異様な姿の生物だった。
「あれもモンスターだし?もしかしてスライムってやつだし?」
「気持ち悪い」
杏は蕨の制服袖をつかんだ。その見た目は確かにこの地球から生み出された生物とは思えない見た目をしている。
「みんな床を見るだし‼︎床が溶けてるだし」
その青二の言葉を聞き、蕨達が目を向けると確かに床が溶けている。溶けた床からは白煙が立ち昇っている。
「体が溶解液みたいなものでできてるか、もしくは超高温か。どちらにせよ、危険だね」
杏が冷静に分析する。
「あれが何かは分からないだし。だからこそ、善は急げって奴だし」
善は急げと言う言葉に駆り立てられ、蕨は左手で弓を構えて、光矢のリングに力を入れる。
ピシュン
矢は光を放ち出現する。
「
バァン
矢はスライムを引き裂いた。けれどそれはスライムを倒したと言う訳ではなかった。
ブチン
「増えたのか?」
彼らの前でスライムは鈍い音と共に二つに増え、大きさが元と同じ大きさに戻っていく。
「どういうことだ?」
「分身ってやつじゃないかだし」
「青二君。それは多分違う。床見て。スライム2匹共、コロッセオのレンガを溶かしてる。だからこれは分身じゃなく、増殖」
「そうなると、俺の能力は使えないだし。俺の能力は一つの対象しか止められないだし」
「私の未来予知を使ってもただスライムが増えているのが見えるだけ」
ブチン
「また増えたのか」
緑色のスライムはどんどん数を増やしていく。どんどんスライムでコロシアムが埋め尽くしていく。どのスライムも例外なく床を溶かしていた。
「弓矢で分裂し、時間でも増える。大河君どうするの?」
「増殖したスライムは例外なくコロシアムの床を溶かしているだし。これ以上増えたら、俺らが危険だし」
「分かってる。そんなこと分かってるんだ。でも」
「でもじゃないだし?お前がシャキッとしないと俺らはどうすることもできないだし。なんとかしろだし」
(これを打開できるのは俺しかいないんだ。だから頑張んなきゃいけない。でもどうすれば。頼れるのはこの指輪しかないんだ。物は試し。もう一回弓を打つ。)
左手で弓を構え、右手で弦を引く。ルクスを集中させ矢を打つ。
「
ピシュー
ブチン
矢は当たるが、それを弾き金としてスライムはまたまた増える。スライムの動きがナメクジの如く遅いおかげで危害を受けることはないがこのまま増えたら蕨達に訪れるのは死の危機である。
「スライムは攻撃したら増える。なら、攻撃しない方がいいんじゃないの?」
「でもこれ以外の攻撃方法はない。それでもこの状況を打開しなければならないなら、この弓を使うしかないじゃないか。とりあえず今はこの矢を打ち続けることしか考えられない」
「蕨君は間違っているだし。杏ちゃんは正しいだし。そんなことしても俺らが不利になるだけだし」
そんな言葉は気に留める様子もなく、スライムは数を増やしていく。ある一定の衝撃もしくは時間でこのスライムが増える事は分かってるのに。全然何もできない。
ブチン
「じゃあどうすれば?」
「そう言えば、一回分身使いの能力者と対峙したことがあっただし。その時は、スプリンクラーで分身を消し飛ばし、本体を潰しただし。この分身との戦いにいんとがあるかもだし」
「スプリンクラー、スプリンクラー。よっし、それだ」
蕨は左手で弓を持ち右手人差し指に神経を集中させる。
ビシュー
蕨が弓を構えた瞬間、わらびの腕目掛けてスライムのうち一体から液体のようなものが噴射された。
「痛い。なんだこれは」
「たぶん熱の液を放射してるんだし」
「気をつけて。ただの熱湯とは訳が違うかもしれない」
杏と青二は蕨に駆け寄る。
「うぁぁぁぁ」
カランカラン
蕨は左腕が火傷して、弓を手放してしまった。床に落ちた白木の弓はスライムが沢山群がっている所へ転がっていく。
バシュー
次の瞬間スライムたちの下に白木の弓が滑り込み、弓が溶けて行く
「やばい。神器の弓が溶けてる」
「いったん引こう。応急処置だけなら私できるから」
「でも弓がなきゃ、溶けてても取らなきゃ」
「それをして、何ができるの。もう弓は半分くらい溶けてしまってる。もうあの弓はあきらめるしかないんじゃない。取り敢えず手当てしよう」
「分かった」
コロシアムの中心で杏は蕨の左腕に慣れた手つきで包帯を巻いた。
「ちょっと昨日練習してきたんだ。応急処置の仕方」
杏は手早く火傷した部分に包帯を巻く。
(まだずきずきするけれどあるとないとじゃ大違いだな。)
「どうすんだよお前、こんなんじゃ俺たちに勝ち目がないだし。それに逃げ場もないだし。こんなとこで死ぬのだけはごめんだし」
青二は真剣に言う。
「絶体絶命。この状況完璧に俺のせい。この街を、杏も青二も守るって決めたのに。ごめん」
(いまできること。ない。なにもない。この状況を打開する方法が一つもない。)
「なんで一番最初に諦めてんだし。俺らはお前を信じているだし。その根拠に、俺らは今、ここに居るだし。蕨、お前の力を信じた、だから、モンスターが怖くてもこの困難に立ち向かうことを決めただし。お前を信じた俺らのために力を出すだし。お前にはまだ光矢のリングが残ってんだし」
「大河君、私も信じてる。まだ、あきらめるには早すぎるよ。神器も弓はなくなっちゃたけど、リングはあるし」
(そうだ。そういえば今まで矢を作っていたのはこのリングだったんだ。それって言い換えれば、この指環には何かを作り出す機能があるってことだ。それなら。)
「分かった、それがそもそもこの神器の本来の力だ。ありがとう二人とも。また助けられちゃった」
(俺は今まで勘違いしてたんだ。そもそもこのリングは矢を作る能力じゃない。何かを作りだす力を持っているんだ。)
右手にルクスを集中させる。
パーン
弓になりかけたものは形を失った。
ブチン
言わずもがなこの音はスライムの増える音である。周囲はもうすっかっりスライムで囲われている。
「どうにかするだしそうじゃなきゃ死んでも許さないだし」
「本当に大ピンチだね。それでも大河君、信じてる」
「ここじゃ終われないよ。まだこのポセアリウスも守れてないし。ここじゃ終われないよ。まだ二人を守れてない。ここじゃ終われないよ。こんなところで終わるのは俺の正義じゃない。だから力を貸せ。」
ピューピューピュー
周囲の光が蕨の右手に集約していく。そしてやがて、弓になった。軽く、でかく、まばゆく、光りながらあり続ける光弓。作り出された光弓を蕨は左手に持ち替えた。
「スライム、お前をここで終わらせる。本当の、光弓のリングの真骨頂をを見せつけてやる」
(弓を作れるってことは矢も自分の想像したとおりに作り出せるんだ。っていう事は自分自身がこのあふれるほどのスライムを一度に倒してしまうようなすごい矢を作れるんだ。まるでスプリンクラーから発射されるような水のように、広がりこの光弓のようなまばゆい光ですべてを貫く矢を作り出せればそれだけでいいんだ。)
蕨は真上を向いて光弓を構える。
バシュー バシュー バシーーーン
かつてない光が当たりを照らす。そこに出来上がったのは一本の矢だった。とても長い一本の矢。
「何やってんだし。そんなんじゃ前に飛ばないだし。スライムも倒せないだし」
「見といて、何とかなるからさ。このピンチから大逆転して見せるから。青二、杏今まで散々迷惑かけてごめん。でも、もう大丈夫。
弓を放つと宙で一本だった弓が分散する。放射状に。一糸、いや一矢乱れぬ様子で、分散した矢の一つ一つがすべてのスライムをただ一匹とも逃がすことなく同時に捉えた。
バーン
光と共に爆音が鳴り響き、その矢は同時にすべてのスライムを同時に貫き続けた。光の矢から発せられた光はスライム達を包み込み、後に消滅させた。
「やんじゃんだし」
「本当にどうなるかと思ったよ」
「いたっ」
蕨は左腕を押さえる。
「大丈夫?」
「痛むけど、大丈夫。応急処置がなかったらやばかったかも。杏のおかげで戦えた」
「それにしてもさ、誰が何の目的でこんなことをしているんだろう?」
杏が言う。
「どう言う事だ?」
「このポセアリウスをつぶすのが目的ならもっといろんなやり方があるだし。なのにわざわざ俺たちを隔離して一体一体モンスターを送り込んでくるなんておかしいとおもわないのかだし」
「たしかにそういえはばそうだ」
「まさか今もう、ポセアリウスは襲撃されているのかではないかだし?」
「たぶんそれはないよ。だってわざわざここに隔離した理由があるはずでしょ。目的は多分私たち円卓なんだよ。今ポセアリウスに人は居ない。暴れるだけなら、ポセアリウスで暴れればいい。わざわざ私たちが能力か何かで隔離されているって事はもしかしてここにいる誰かを狙ってるのかもしれないね」
「何か相手にもただならぬ目的があるってことだし?」
「そうなんだと思う。いや、そうじゃなきゃおかしいよ」
相手は間違いなく俺を狙っている組織だ。今の会話を聞いて分かった。なら、俺が人一倍頑張って、この街を守り抜かないと。
「今回皆は温存はできたのか?」
「私は大丈夫」
「俺は残念ながらもうそんなにルクスは残ってないだし。能力はあと何回かしか使えないだし。まさか燃費が悪いことがここまで響くとはだし」
「絶体絶命には変わりないってことか」
「蕨、お前は何があってもその弓で、その矢でモンスターたちを残滅することだけを考えるだし」
「分かった。それを第一に考える。でも絶対に見捨てたりなんかしないから」
見捨てたりしないから。そんな事できるはずがないから。俺が守るから。守んなきゃいけないから。巻き込んでいるのは俺だから。ここから先の敵絶対に倒す。そのために、光矢のリング、力を貸してくれ。
「笑っちゃうくらい熱いね」
「熱いとかじゃないよ。これは使命なんだ。絶対に譲れない」
「ヒヒヒ、俺お前についていくことにしただし。お前がダメなときは俺がひっぱたくだし。ただし俺のピンチはお前が助けるだし」
「分かったよ。喜んで引き受ける」
「案外いいコンビなのかもしれないわね。二人がいれば何とかなる気がわいてくる。途中何回も喧嘩しているみたいだったけど私も頑張らなきゃ」
(そうじゃなきゃ私がここにいる意味がないもんね)
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