モンスター

一つ目

「この街に危機が迫っている」

 茶髪で鹿撃ち帽にトレンチコートを着た少女、ホームズは言う。

「それはどういうことですか。っていうかそいえば私たち五人しか円卓にいない?」

 金髪ポニーテール少女、杏は呟く。


 一年生は皆、今の今までは音楽祭の影響だと思っていたが円卓にいるのは、シオルナ以を除いた一年と、ホームズと隣の二年生が一人居るだけだった。


「最近色々あって、しゃべるのも億劫だ。ワトソン任せたよ」


 鹿撃ち帽にトレンチコートの茶髪少女は自分から見て左隣に座るセンター分けの男に喋りかける。


「はい、我のことはワトソンとお呼びください。二年三位、能力は不死身フェニックスです。訳あって、円卓のメンバーは今ルクセンブルクに居ます」

「訳って?」

 青い髪の少年、蕨は立ち上がって言う。

「禁忌を崇拝するブラックスワンと言う団体の本拠地アジトが判明したのです。円卓のメンバーのは本拠地アジトの破壊を目的に行きました」

「それで?」

本拠地アジトは既に破壊されていました」

「どう言う事だよ?」

「モンスター。赤坂もちという二年第四位のサイコメトラーがとあるブラックスワンの研究員の思念を読み取りました。モンスターという人工生命体がその研究所では作られていて、そのモンスター達は突如暴れ出し、本拠地アジトにいた人々をなぎ倒しました」

「そのモンスターっていうのは?」

「超能力を使う生き物です」

「ここからが本題だ。本拠地アジトの資料からモンスターの目標がポセアリウスであることが判明している。そのモンスターに対抗しうるのが、君たち一年生の三人しかいないんだ」

「先輩たちは?」

「僕の能力は事件の捜査以外には何の効力も持たない。ワトソン君は死なないことが取り柄だがそれ以外に何の能力もない。僕らがいたって、戦いの足手まといだけにしかならないよ」

「他の円卓のメンバーは?それまでに帰ってこれないんですか?」

「今、ルクセンブルクを嵐が襲っている。帰ってくるのは無理だ」

「でも、蘭さんがいますよね」

「彼女の能力はヨーロッパから日本にテレポートできる程便利な能力じゃない。一度に飛ばせる距離には決まりがある。ルクスを絞り切ってテレポートを使ってどうにかしたとしても、帰ってこれるのは疲弊した、テレポーターだ」

「そんな」

 蕨は一瞬落胆した。

「でも、やるに決まってる。この街を守る為に戦うよ」

 蕨は決意を固めた。

「エクスカリバーを見せて」

 ホームズは蕨から黒ずんだダガーを受け取る。

「やっぱりね。蕨君、この武器はもう使えない」

「エクスカリバーが黒ずんでる?」

「それは神器とやらが眠るってことらしい。神器の本当の能力をひきだすと神器は数年間使えなくなるらしい。代わりに、円卓から君へプレゼントだ」

 金色のリングと白木の弓が蕨に手渡される。

「その神器は光矢のリングと光弓っていうらしい。リングは利き手のほうの人差し指につけて使うと言うことだ」

「分かった」

「僕達はとても絶望的な状況下に置かれていた。もし、蕨君が今日の円卓に顔を出さなかったら、ポセアリウスは確実にモンスターの手に落ちていた。でも、君は今日円卓に来た。君が何をモットーにモンスターと戦うと決めたか知らないが、先輩たちは皆、君がこの決断をすると信じていた。そのことだけは、覚えておいてほしい。モンスターの襲撃は明日の朝から昼にかけての時間だと予想される。それまでは大丈夫だ。しっかり休息をとってくれ。今日の円卓はこれで終わりだ。僕らはこのポセアリウスをの人間達を避難させに向かう。蕨君、杏君、青二君、任せたよ」

 ホームズとワトソンは円卓を去る。


「ねぇ、これって私たちの手にこのポセアリウスがかかってるってこと?そんなの荷が重すぎるよ」

 杏は重過ぎるプレッシャーに震えていた。


「杏、俺が守る。全部守ってみせるから安心して」

 杏は無言で頭を蕨の肩に乗せた。


「お取り込み中悪いけど、よろしくだし。青二吉、一学年ルクス第三位だし。能力は金縛りだし。蕨だっけお前に全部かかってるし。お前以外は攻撃できないんだし。俺はポセアリウスを守りたいなんて思っちゃいないし。ただ、死にたくないんだし。この言葉の意味が分かるかし?もし危険が訪れるようなら俺は喜んで逃げだすし」


 緑のオカッパ頭の男で少し太っている。鼻につくような言い方だったけどその言葉を否定する事はできなかった。


「分かった。もし危機が訪れたら二人は逃げていい。この戦いで倒しうる力を有すのは俺だけだ。少しでも危機を感じたら逃げてくれ」

「いいだし。その条件で引き受けただし。話が早くて助かるだし」

「明日の朝、円卓に集合だ」

「久しぶりに腕が鳴るだし」

 そう言うと青二は家へ帰った。


「大河君がとんでもなく重い物を背負っているの知ってる。私がもっと支えなきゃダメなのに、ごめんね」


 (杏は叫んだ。泣いていた。泣きながら叫んでいた。それは自然なことだった。誰だって怖い。死にたくない。杏も青二も、俺も同じなんだ。)


「謝る必要はないよ。杏がいなきゃ俺はここにはいない。戦いに負けちゃって、ポセアリウスが崩壊したらどうしようって思う。怖いし逃げたい。でもそんなことどんなに考えたって無駄だ。いくらかんがえたって、先輩たちは戻ってこない。選択肢は一つしかないんだ。このポセアリウスを守り抜く、そのために戦う。そうだろ」

「大河君。明日、一緒に頑張って、守ろう。この街を」

 



(夜は一切眠れなかった。だけどそれは悪い意味じゃなかった。心にある小さな感情の一つ一つを整理して、そのうちに時間がたってしまっていた。自分が今ここにいる理由。何をするべきなのか。何をしたいのか。自分で納得した理由、それにこたえるための決心。それをしたことで自分を肯定して一歩だけ前に進めた気がしたんだ。


気が付くと朝になっていた。制服に着替えて、宰領に向かった。とても静かでひとっこ1人いなかった。ホームズ先輩達が頑張ったのだろう。足音一つがこだまする静かな街になっていた。円卓にはもう二人が座っていた。二人とも凛々しい顔をしていた。俺と同じく決心をした顔だった。)


「モンスターはどこに来ると思う?」

 蕨は2人に話しかける。

「エレベーターの方だし。この海底都市に入るならそれしか無いだし。取り敢えず向かっててみるだし」

「私も賛成。まだ時間はあるんだしとりあえず以降エレベーターの方へ」


 青二の意見を取り入れてエレベーターの方へ向かうと蕨にとって何処か見覚えのある立ち姿があった。


(あの姿どこかで…)


「はえーよ、お前ら。闘技場コロシアム


 言葉と共に蕨達は眩い光に包まれて、やがてコロッセオのような場所にたどり着いた。


 天井はドーム場になっていて、出入り口はない。それ以外はほぼコロッセオと一致していた。


「ここどこなの?」

 か弱く杏が呟く。


「分からないだし。けど多分聞こえた通りここは闘技場って奴だし。逃げ道もない、最悪だし」

 青二ははっきり言う。

「青二、悪い。こんな事になると想定して無かった。こうなったからには力を合わせて、ここから抜け出すぞ」

 青二は答えなかった。

「あれがモンスターって奴じゃななのかな?」


 足が四本、タコみたいな見た目で、目が一つしかない。その目が顔のほとんどは占めている。大きさは教卓ぐらいの大きさだった。杏はそれを指差した。


「危ない。伏せて」

 杏がそういうとデカい一つ目からは赤いビームが発せられた。


 ピシュン


 そのビームはコロシアムの壁に当たり、大量のがれきを作り出した。


「何だよあれ」

 蕨が言うと杏が即座に反応する。

「分からない。けど、レーザービームみたいなものだと思う」

「分析なんてしなくていいだし。早く戦えだし」


 蕨は左手で白木の弓を持ち構える。


 (矢は存在しないからこれを引けばいいんだよな。)


「俺やってみる。うまくいかなかったらごめん」

「そんなこと言わなくていいだし。さっさとやれだし」


 右手人差し指にルクスを集中させて放てばいいんだよな。弓なんて持ったこともないけど、たぶん行けるはず。エクスカリバーを使ったように。同じようにやれば良いんだ。


 ルクスを集中させると、蕨の右人差し指のリングは光って、金色の矢を創り出した。蕨はへっぴりごしで弓を構え、金色の矢を解き放った。


 パシュン


 その弓から放たれた矢はだんだんと減速し、その一つ目にぶつかる前に矢の姿を失っていった。


「全然使いこなせてないだし。俺らはもう逃げられないだし。お前が弓を使いこなせなけりゃ俺らが死ぬだけだし」

 青二は半ば蕨に呆れて言う。


「どうすればいいんだ?」

「腰に力を入れるだし。もっと背筋を張れだし。足で踏ん張れだし。後は精神力だし。分かったら、弱音なんて吐くなだし」

 青二は最低限の知識をテンポよく伝える。


「分かった。ありがとう。やってみるから時間をくれ」


 (胸を張って、背中に力を入れる、腰にも力を入れて、足で踏ん張って、後は精神力。この海底都市を守るって決めたんだ。杏に守るって言ったんだ。これ以上迷惑はかけられない。貫くんだ俺なりの正義を。)


 蕨は姿勢を完璧に修正し、矢を放つ。


光矢一閃コルピーレ


 ピシュン


 その矢は四本のうち一つの足に命中し、足一本を引きちぎる。


 しかし、その切られた足は蕨達の方へ速度を持って一直線に向かった。


「離れて」

 杏の声が響き渡った。


 バコォン


 切り取られた足が爆発し、熱風を放つ。杏の叫びのおかげで全員なんとか深い傷を負わずに済んだが、吹き飛ばされ、倒れ込んだ。


「ごめんみんな。散々守るとか言ってたくせに守られてばっかりだ。でもこれからは俺が守る番だから。だから見ていて」

 蕨はすっと立ち上がった。


 三本足になった奇形のモンスターが蕨に向かっていく。


「ふう」

 蕨は深呼吸をして、弓をしっかり握る。


 (ビームを打つ頭の目の部分を打ち抜けば、相手の攻撃方法がなくなるはずだ。)


 蕨は左手で弓を構え、右手で引っ張る。


「ふう」


 蕨はもう一度深呼吸をして姿勢を確認する。ただ一つ問題点があった。あの一つ目が三本足になった事で不規則な動きを生み出したのだ。蕨は暫くの間、弓の標準を合わせるのに時間を費やした。


(弓が初心者のあの不規則に動いている対象が打ち抜ける訳がない。一瞬でも止まってくれれば。)


完全停止フリーズ。カッコつけるなだし。できない事があるなら頼るだし」

「悪い。俺の悪い所でてたみたい。でも今度はあの目を貫いてみせる」


 ボウッ


 蕨の右手からはかつてない光を生み出す矢が生まれた。


 (いつだって守られているだけじゃいられない。俺は今回守る番なんだ。迫り来るモンスターを倒す役目は俺にしかできないんだだから。応えてくれ。)


光矢一閃コルピーレ


 バシュッ


 その矢はもの凄いスピードで美しい放物線を描いて滑らかに一つ目の怪物を貫いた。


「やっただし?」

 青二は一つ目を確認しに向かおうとした。


「動かないで」

 杏の命令が響き渡った。


 バァン


 一つ目の体は爆発し、また熱風を放った。その熱風が無くなると、そこには一つ目の残骸が燃え尽きていた。


「やっただし」

 青二は跳ねて喜ぶ。

「何とかなったのか?」

 蕨は囁いた。

「みんなの活躍の結果だね」

 杏が喜んで言う。

「俺ら勝ったんだし、この街を救ったんだし」

「私たち円卓の一員として頑張れたのかな」

「まだ、おわってない。モンスターの進行がこれだけで終わりなら、このコロシアムも解けるはず。まだここに居るって事はたぶんまだまだモンスターと戦わなきゃいけないってことだ」

「そんなこと言われたってもうルクス殆ど残ってないだし」

 青二の表情は一気に暗くなる。


「青二はなるべく温存してくれ。モンスターの1匹くらいなら俺とこの神器で何とかできる。青二のおかげで、コツを掴めたからさ」

「分かっただし。次は最小限で戦うだし」

「俺が何とかしてみせる。けどもしピンチが来たらその時は力を貸してくれ」

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