ドラゴンブレイズ

三銃士

「やっほ〜。桜凛だよ〜。三銃士トリニティへの要請が出ています〜。とりあえず円卓に全員集合~」

 この声はテレパシスト、3年3位の桜凛の声である。彼女の声は青髪の少年蕨大河を始めとした全ての円卓のメンバーの脳に同時に響き渡った。


「行こう蕨君」

 その声は蕨の前に座っていた金髪ポニーテールの渡辺杏のものだ。二人は急いで円卓へ向かう。


 二人がいつも通り円卓へ向かうとそこには円卓の十人、すなわち二人を含め、円卓十二人全員がそろっている。これは今年史上初である。いつも通り坊主頭の最中が立ち上がった。


「蕨大河、佐藤ういろう、八橋健。君たちは今日から三銃士トリニティとしての任務が始まるのじゃ。今すぐローマに向かってもらうのじゃ。目的は神器、竜呼びの笛なのじゃ。地上への移送は三年の桜妹のテレポートを使ってもらうのじゃ」

「何言っているか全然わからないんですけど」

 蕨は最中の発言を理解できずに言った。

「飛行機でういろうから聞くのじゃ」

 最中が言った。少しして、三年生の女の子が立ち上がった。赤渕眼鏡の三つ編みだ。前葛切の隣にいた女の子である。

「……お姉ちゃんと違ってあまり役に立てないから光栄だよ。桜蘭。三年四位のテレポーターだよ。蕨君よろしくね」

「もしかして」

 蕨は隣に居るテレパシスト桜凛に目を向ける。二人の見た目がそっくりなのを見ると、蘭は言った。

「……私たち双子なんだよ」


 なんと桜凛と蘭は双子の姉妹だったのである。蕨はとても驚いた。だが蘭はそんな事を気にも止めず、蕨達三銃士トリニティの三人の手を引っ張り能力を使った。

「……いってらっしゃい」


 蕨の目の前が一瞬真っ黒になり、気が付くとそこは飛行機の前だった。飛行機と言っても、小型の戦闘機のようだった。


「蕨君、乗りますよ」

 黒髪ストレートで肩くらいまでの長さの、いかにもお嬢様様風な二年生が佐藤ういろうである。

「行くぜ、蕨。詳しくは飛行機で話してやる」

 制服に旭模様のシルクハットを被っている八橋の声を聴き、蕨はそれに従った。

「はい」

 蕨は素直に返事し、飛行機に乗り込む。


「蕨君、貴方には何から話せばいいんでしょうか?」

 ういろうは席に座るやいなや蕨にはきはき話かける。喋り方という点に関してはホームズを名乗る人物にも似ている所がある。何からと聞かれたら蕨の答えは決まっていた。


「最初から最後まで全部教えて下さい」

 そうするとういろう先輩は大きなため息をついた。ういろう先輩の左手で座っている八橋先輩はシートベルトを付け、さっそく夢の世界へとテイクオフしてしまう。


「じゃあまず三銃士トリニティのことから話しますよ。三銃士トリニティとは宰領の三学年のルクス一位たち、計三人の総称です。三銃士トリニティには円卓より危険な任務が任されます。今回の任務は神器の回収です」

「神器って言うのはなんですか?」

「説明します。神器とは八橋先輩がしている旭の模様の入ったシルクハット、アポロンハット。私がこの左腕につけている懐中時計、クロノスの時計。これらが神器です」

 ういろうは自分が付けている金の時計を指差す。

「これらはルクスを消費して使うもので、超能力を強化したり、神器のもつ能力を使うことができるようになったりするんです。この神器には一つ問題点があります。その問題点はルクスさえ消費すれば強大な力を誰しも得られてしまう点です。その神器の中の一つ、龍呼びの笛をとある団体が所有していることが分かりました。だから私たちはそれを回収するために駆り出されたのです」

「その団体って言うのは?」

「翠玉海という組織らしいです。幻影使いはこの団体の依頼でポセアリウスを襲撃しました」

「その組織の狙いは?」

「翠玉海の狙いは蕨君、貴方の確保です。ここから先あなたは狙われるかもしれません」

「狙いが俺⁉︎」

「その話はさて置いて、これ受け取って下さい」

「これはなんですか」

 ういろうから蕨に手渡されたのは柄が金色のダガーが手渡された。

「それは神器、エクスカリバーです」

「エクスカリバーか」

「過去に三銃士トリニティの活動で命を落とした者が沢山います。その神器、無能力者の貴方にとっては多いなる力となるでしょう」

「分かりました」

「まだたどり着くまでかなり時間がかかります。今は体を休めて」

「はい」


 会話が終わり。蕨は眠りについた。

 

 三銃士トリニティを乗せた戦闘機はローマのとある公園にたどり着いた。



「八橋先輩、蕨君行きますよ。飛行機から降りたらそこは戦場です。ここから先1秒も気をぬかないように」


 公園に降り立った三銃士トリニティを襲ったのは弾丸の雨だった。特徴的なエメラルドのスーツを着た翠玉海のメンバー十数人は銃弾を三銃士トリニティに当て続けた。


 バンバン、バババン


 轟音が鳴り響く。


「俺は先行くぜ」

 身体を赤い炎で包み込んでいる為、弾丸は八橋の身体に辿りつく前に燃え尽きる。だから、八橋に弾丸は効かない。


「蕨君付いてきて」

 蕨はういろうに言われて付いて行った。だがそこに遮蔽物は無く、2人は前方から銃弾を撃たれた。

「影の黒壁」

 刹那ういろうが地面に手を付ける。すると、蕨とういろうの影が黒い壁に変わった。

「これがういろう先輩の能力?」


 カンカンカンカン


 弾丸を受けても少しも壁はへたることなく、それどころか弾丸をはじき返し、敵の銃を壊した。


「これが私の能力は影の変形です。まぁこんな程度ならチョチョイのちょいですよ」


 八橋は敵に近づいて銃を熱で溶かし、後に体術で相手を気絶させて行った。


 ある程度弾丸の雨が止むとういろうは影の黒壁を解いた。


「地影返し」


 ういろうは再び地面に手をつき能力を使う。周囲のスーツの男達は自分の影に銃を壊された。銃を壊されたエメラルドスーツ達を八橋とういろうは気絶させて行った。


(強い。これが三銃士か)

 蕨は2人を見て思った。


「ざっとこんなもんですね」

 ういろうは蕨の方を向いて手をはたき、してやったりの顔をする。


「ういろうさん待って」

 蕨はういろうの後ろにマシンガンを構えた男がいるのに気づく。八橋は反対側で戦闘中だ。蕨にはういろうから貰ったダガー、エクスカリバーを使うしかない。蕨はポケットからエクスカリバーを急いで取り出す。


(ういろう先輩が危ない。これを使うしかないのか。でも何をすればいいんだ?どうやって使うんだ?今からういろう先輩の後ろにいる男に近づくのは不可能だ。じゃあどうすれば?分からない。でも取り敢えずやって見るか)



「応えてくれ、エクスカリバァァァーー」

 蕨はういろうの後ろにいる男に照準を合わせて叫んだ。蕨の叫びとともに金色のダガーからは青い光が放たれた。その光は銃を持った男の辺りを包み込む。


 その次の瞬間銃は破壊され、それを持って居た男は気絶していた。


「良かったあ」

 蕨は安堵し、その場に座り込む。


「影手錠」

 ういろうはスーツを着た人達の影を手錠の形にして、拘束していった。


「すみません。私が気を抜いてしまうとは」

 ういろうは蕨に謝った。その後ういろうはほっぺたを噛む。

「持ちつ持たれずですよ」

 蕨はそう答えた。ういろうがもう一度周りを見渡すと、敵をなぎ倒し終わった八橋が近づいてくる。


「ういろう」

 八橋は短く名前を言った。


 バチン


 その後乾いた音が響いた。八橋はういろうを平手打ちしていた。


「ういろう、お前は俺らの司令塔で頭脳だ。お前が冷静でなけりゃ俺らは全滅するぜ。ちょっと頭を冷やしやがれ」

「すみません。私のミスです。取り敢えず今日はもう夜ですし、ホテルへ行きましょう」


 ういろうは毅然とした態度で振る舞っていた。


(八橋先輩は厳しいすぎやしないか。確かにういろう先輩は気を抜いてしまったかもしれないけど)

 蕨はそう心の中で思った。


「俺は先行くぞ」

 八橋は早歩きでホテルへ向かった。

「蕨君、少しでも不安な気持ちにしてしまったらごめんね」

 ういろうは泣きながら蕨に言った。

「八橋先輩は厳し過ぎですよね」

 蕨はういろうに気を使って言う。

「もし本当にそう思っているなら今からでも帰った方がいい。ここは戦場。私達が死んだら文句は言えない。だから、八橋先輩は正しい。私が冷静でいなければ三銃士トリニティは簡単に壊滅する」


 ういろうは涙を拭いて、蕨に真剣な顔で言う。蕨は二人の強い信頼関係を垣間見て少し安堵した。


「そう言えばあの人達はどうなるんですか?」

「回収されて、ポセアリウスの牢獄へ向かうはずです」

「そうなんですね」


 蕨達はしばらくしてホテルにたどり着いた。だが、そのホテルには問題点が一つあった。水道が繋がっていないのだ。この問題点は即ち風呂がないと言う事である。蕨は戦闘で殆ど見ていただけだった。とは言え汗が酷かった。


(シャワー施設ってあるのかな。あ、そう言えば近くにカラカラ浴場がある。実際にはカラカラ浴場ではないのだけれど、復元した公衆浴場がカラカラ浴場跡の近くにあるんだよな。あそこに行こう。)


 蕨はそう思った。ういろうから呼び出しがはいる。扉を開けるとういろうは言った。


「竜呼びの笛が使われると想定されているのは明日の太陽が登る頃。すなわち、5月5日の暁です。明日の朝早くに今日いた公園です。私が起こしに来たら来てください。それまではしっかり休んでくださいね」


 その話が終わった後蕨はカラカラ浴場に行く事にした。蕨は水着を付け温泉に入る。*カラカラ浴場復元は水着必須


 カラカラ浴場の復元施設はとても神秘的な光景だった。浴場の中心には水瓶を持った天使の像があり、水瓶から温泉が湧いている。水瓶を持った像の周囲が丸い温泉になっている。上は吹き抜けになっているから月光や星の輝きを鮮明に見ることができるのだ。


(両親と一度来た事があるがここはやっぱりいいな。この景色を今日は独占できるのか。)


 風呂に入ると蕨にとって予想外の事が起こった。後ろから抱きつかれたのである。


「蕨君。さっきはありがとう。まさか君に命を助けられるなんて」

 ういろうは蕨に感謝の意を伝え、ういろうは後ろからしっかりと抱きしめる。


 ムチっ


 水着を付けているがしっかりういろうの体が蕨に密着した。


「先輩、当たっ、当たってます」

 蕨はういろうに正直に言う。

「何が当たっているの?」

 ういろうは何がなんだか分からず蕨に聞く。

「当たってます」

「何を言っているの」

「胸が当たっています」

「もしかして興奮しているのですか。この、変態っ。失望しました。私をそんな目で見ていたなんて。弟に似ていると思って抱きついただけですのに」


 ういろうは顔を真っ赤にして銭湯を立ち去った。


 ういろうが去った後、八橋が変わる様にカラカラ浴場へ行った。八橋は蕨を見つけると蕨に熱く語りかけた。

「すまないな。みっともない所を見せてしまった。だが俺ら全員生きて帰るぞ」

「はい」

 蕨はその質問にしっかり答えて、色々と訳あってのぼせそうだったので、すぐ銭湯を立ち去る。


 ホテルに戻ったあと、蕨は神器のダガー、エクスカリバーを見つめた。


(みんなで生き残るため、正義のため、俺は戦うんだ。応えてくれよ。エクスカリバー)

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