スパイシーキッチン
ボマー
鈍い光が海底都市を包み込んでいる。その光は穏やかに時間の感覚を狂わせ、青い髪の少年、
「ジャーン。
寝起きの蕨含む、円卓のメンバーの脳内にキンキンと高い声が響く。
「聞こえた?
金髪ポニーテール少女の
「うん、行こう円卓へ」
◆◆◆
円卓に
11人が揃った事を確認すると坊主頭の三年生の男が立ち上がる。
「まず最初にノーマルスキルズが起こした事件は、一年一位、蕨大河によって解決されたのじゃ。皆、彼に拍手をするのじゃ」
坊主の三年生は自らパチパチと音を立て拍手をし、他の円卓のメンバーに拍手を促した。
「そんなことはどうでもいい。それより、三年一位がまたいない。どうせまた事件が起きてるんだろ」
「その通りです。さっさと本題へ入ってください」
円卓の二年生の黒髪ストレートのスレンダーないかにもお嬢様風な少女が坊主頭をせかした。
「分かった。本題に入るのじゃ。今回、みんなを呼んだのは、ボマーが引き起こした事件について説明したいからじゃ」
坊主の男は説明する。前回とは違い、ほとんどの円卓のメンバーはぽかんとしていた。
「それはなんですか⁉︎」
蕨は質問する。
「連続的に行われている爆弾爆破事件じゃ。爆弾といっても、いわゆる爆弾ではなく、催涙弾のようなものと見られているのじゃ。一週間で、9件。被害者総勢12人。被害者12人全員の命は幸い助かったのじゃが、全員呼吸器に深刻なダメージを負っているのじゃ」
坊主頭が言う。
「今回こそ、円卓はこの事件に立ち向かうんですよね?」
「そうだ。でも、一年生は引っ込んでもらうよ」
トレンチコートに鹿撃ち帽をした褐色で茶髪の二年生は座ったまま言った。
「なんで?」
「危険だからだよ。自己紹介遅れたね、僕の事はホームズと呼んでくれ。僕はこの事件の捜査を手伝ってる。だから、いくつか情報を持ってる。まずは、それを共有してからだ」
一人称は僕だが女の子のホームズは高くもなく、低くもない声で言った。
「じゃあ知ってる事を教えてくれ」
蕨は強く言う。
「ポセアリウスに作業員を装って、不正に侵入した者が3人いた。恐らくその一人がボマー、この事件の犯人だ。でも、不正に侵入した3人共にはポセアリウスで超能力開発を受けた記録がない。つまり、他の場所で能力開発を受けた人物であるか、生まれつき超能力を持っている、
「そんな」
蕨は言う。
「9件の事件はどれも単独で行われていること。それが、同一犯であること。ボマーは催涙弾のようなものを扱うということ。その催涙弾のようなものは呼吸器に特化してダメージを与えるものということ。分かっているのはこの四つ。超能力にまだ慣れてない、一年にはこの事件を任せられない」
「前は何もしなかった癖に、今回は蚊帳の外かよ」
「ボマーの被害者の中には能力者もいる。宰領の生徒もいる。それでも敵わなかったんだ。ノーマルスキルズとは訳が違う」
「それでも、三年一位は1人で動いてるんだろ。ボマーを倒そうと、もがいてるんだろ。なら、俺はこの事件に一緒に立ち向かいたい」
「そんなに行きたいなら行けよ。でも、もし君が勘違いしていたら困るから、一応言っとく。君みたいな雑魚はせいぜい足手まといの生ゴミだ」
ホームズは
「誰かが傷つくのを黙って見過ごすなら、死んでんのと変わんねぇじゃねえか。それが嫌で、強くなりたくて、今ここに居るんだよ‼︎足手まとい。そうかもな。それでも、俺は闘う。そう決めてんだ‼︎」
「私も行くよ。
杏が付け足す。
「それは本当かい?」
ホームズが目を見開いて言う。
「ああ」
隠すことなく蕨は言う。
「蕨君は向う見ずにもほどがあるね。しょうがないな。円卓全員始動だ。蕨君達は探索チーム。ボマーを見つけ次第迎撃してくれ。次に事件が起こる場所の目星は大体ついてる。僕はここに残って、2人の探索のバックアップと別チームを指揮する。二人はとりあえず宰領を東門から出て、大通りをそのまま突っ走てくれ」
「ありがとうございます」
杏と蕨は感謝の意を伝える。そして、2人は円卓から立ち去った。
◆◆◆
階段にて
「杏、本当に良かったのか?」
蕨は優しく杏に尋ねる。
「うん。蕨君一人だけじゃ行かせられないよ。それにね」
「それに何?」
蕨はその杏の言った先の言葉を問い詰める。
「蕨君は無能力者なのにノーマルスキルズの一件を解決したでしょ。私には立派な能力があるんだもん。負けてられないよ」
杏は蕨への思いを胸にしまって、杏は走り出す。蕨はそれに付いて行った。
二人が走り出して、五分ほどたっていた。
「ホームズだ。聞こえるかい」
ホームズが桜凛の能力を使って、蕨と会話する。
「はい」
「左手側に住宅街が見えるかい?」
「ああ、見える」
「じゃあ、なるべく細い道に入ってくれ。ボマーは細い道に現れる」
「分かった」
二人がたどり着いたのはいわゆる、路地裏だった。道幅が狭く、そこには換気扇がたくさん置いてある。道幅は一人が歩く分には問題がないが二人歩くにしては狭い路地裏である。
「ボマーは本当にこんな所にいるのかな?」
蕨は前にいる杏に喋りかける。
「いてもおかしくない。蕨君、気を引き締めて」
後ろを振り返って杏は答える。
「あぁ」
パチッ、パチッという足音が蕨の後ろからした。
杏と蕨は足音のする方向に体を向ける。
二人にはタンクトップを着た、筋肉質な男の右腕が見えた。距離はそこまで離れていないが、曲がり角にある建物で体を隠しているため二人からは右腕しか見えなかった。
「ヒャッハー、スパイシープレゼントをやるよ」
その腕の持ち主は上機嫌に叫ぶ。
「蕨君、危ない、避けて」
未来予知の能力を使った杏の声が鳴り響いた。蕨の目の前に、丸く小さな爆弾が3〜4つ転がって行く。
パァン
蕨は杏の声を聞き少し離れたが、爆弾の破裂音とともに放射されたガスと粉を浴びてしまう。
「辛っっあ。ゴホッ、ゴホッ」
(痛い。激辛料理を食べた時の感覚。皮膚や粘膜がピリピリして、咳込んでしまう。唐辛子成分の催涙弾か?なんにせよボマーの能力で間違いなさそうだな)
「まだまだプレゼント沢山あるよ」
間を開ける事なく、ボマーはポンポンと爆弾を投げ込んでいく。
コロコロ
「蕨君、もっと下がって」
杏は蕨を引っ張り、ボマーと逆の方向に暫く進んだ。
「ここなら大丈夫だよ」
杏は蕨にそう言った。
「ホームズさん。こちら、杏。ボマーと遭遇しました」
「分かった」
「ホームズだ。蕨君、聞こえるかい?」
「聞こえます。相手の能力、唐辛子成分の催涙弾を作る能力です。ゴホッ」
「君、敵の攻撃食らったのか?」
「はい」
「ちょっとまずいかもね。(ボマーの能力は呼吸器にダメージが蓄積する能力。能力を喰らえばかなり危険な状態になる事は間違いない)蕨君、君は引いた方がいい」
「ここで引いたら。杏や一般人にも被害が出るかもしれないんですよね、ならそんなことできません」
「蕨君?蕨君?まったく困ったもんだね。はぁー。全く世話が焼けるな」
「ゴホッ。杏は大丈夫?」
蕨は咳き込みながらゆっくり言った。
「うん。何も食らってないし大丈夫だよ」
「杏は能力使えば、この爆弾を避けながらボマーのとこまでいけるのか?」
「それは無理。あの爆弾決して範囲が広いとは言えないけど、複数の爆弾をボマーは同時に投げてた。未来を見ても多分全部は避けれない」
「ここに居ても埒が明かない。なら速攻で決着をつける。どうなるか分かんなけど、あとは任せた」
「蕨君‼」
蕨はボマーの手の方向へ走り出す。
(相手が爆弾を転がしてくることに意味があるはずなんだ。爆弾を喰らいながらでもあの男のところに行ければ、転がせないところまで近づければ何とかなるはずなんだ)
「ヒャッハー、頭おかしくなっちまったか、それともおかしくしちまったか、まだ
まだあるぜ」
蕨がボマーの手の持ち主まであと少しのところまで近づくとたくさんの爆弾が投げ込まれる。
パァン パァン パァン
蕨の周りにあった催涙弾がいくつも連続的に爆発した。
(皮膚が痛い。唇が腫れ、喉もやられて呼吸も辛い。涙が止まらない。もしこのまま近づいていっても一方的にやられるだけ。ならもう一つの可能性に賭けるしかない。)
「杏、俺にもっとも近づく爆弾がいつどこに転がってくるか教えてくれ!」
蕨は杏に聞こえるような大声を絞り出す。
「3秒後、蕨君の右の足元に来る」
(この賭けをするのには最高のタイミング。)
「1、2」
蕨は自分のカウントに合わせ右足を高く振りかぶる。
「3」
蕨は振りかぶった足で3のカウントともに蹴り上げ、ボマーの方へ爆弾を跳ね返す。
パァン
ボマーが投げた催涙弾はボマーいた道角で爆発した。
「辛い、かれぇぇよ」
ボマーは泣き叫ぶ。
「まさか、唐辛子成分の爆弾を作る能力者が辛いのが苦手だったなんてな。お前がなんでこんな事してるか分かんねぇ。けど、こんな下らない事して自分の価値下げてんじゃねぇよ」
蕨はボマーと呼ばれていた、タンクトップの男を殴り飛ばした。
(あれなんか聞いたことあるな。そうだ確かボスが俺と最初にあった時に言ったセリフだ)
◆◆◆
俺が中国政府に使えていた頃。革命軍に能力で作った爆弾を投げ込む。それが俺の使命だった。革命軍の奴らは幾度と無く革命をしようとしたが俺や軍によって打ちのめされてった。
そんな俺の能力が効かないやつが現れた、そいつは凄腕の能力者であり、俺の爆弾が効かない男でもあった。俺は完敗した。
「なぁ、お前も能力者なんだろ。もう能力を人を傷つけるのは辞めないか。私たちの価値が下がってしまう。私たちで料理屋をやろう。誰からも憎まれず、誰からも愛される、ぜひそんな生き方をこれからはしていかないか?」
そんな突飛な発言を聞いて、俺は少しも考えることもなく、この男について行くことを決めたんだ。
俺が居なくなった後、革命軍はアッサリと政府の軍に勝利した。
そんなことにわき目も降らず、俺らはスパイシーキッチンと言う料理屋を始めていた。
ただし、店長が俺が辛い物が嫌いを知った時はもの凄い笑顔で笑ったんだ。時に優しい笑顔を見せる最高の
◆◆◆
バタッ
ボマーはそこに倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、これで解決したのかな」
蕨にはもう体力はほとんど残って居ない。痛みはまだ残っていて、立っているだけで必至である。
パチン
疲労困憊の蕨を杏がビンタした。
「怪我したら、蕨君がそんなにボロボロになったら解決しても意味がないでしょ」
杏は泣いて蕨にそう言った。
(心配させちゃったかな。でも今は洒落になんないって。あれ、意識が。...)
バタッ
蕨はその場で倒れてしまった。杏は円卓のメンバーと協力し、蕨を近くの病院まで運んだ。
◆◆◆
「やぁ、大丈夫かい」
葛切が蕨の前にはいた。
「多分、痛っ」
「だいぶ無茶をしたみたいだね、体の炎症がまだ続いているなんて」
「で、あいつはどうなったんですか」
「君の倒した男の事かな?彼は逃げ出したらしい。だから行方不明だね」
「じゃあ行かないと」
「もう夜も更けてきた。それに、彼が逃げだしてから長い時間がたっている。取り敢えず今日は休みな」
「でも、この事件は絶対解決したいんです」
「取り敢えず休みなさい。君が何をしようと勝手だが、体に拒否されたら元も子もないだろう」
「分かりました」
蕨は深い眠りに落ちる。
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