清掃師、仕事が認められる
「賭けって?」
「すぐにわかる。ほれ、負け犬ども、出てくるんじゃっ!」
「あ……」
ゴーグルをつけた少女がドヤ顔で振り返ると、壺やらクローゼットやらゴミ箱やら、色んな場所から残念そうな顔をした女の子たちが出てきた。
なんか見覚えがあると思ったら、最初に俺を囲んでた子たちだ。彼女たちもいずれも低身長で、ドワーフを象徴する特徴的な耳がついてるのがわかる。
「はあ~、負けましたですわ。悔しい! てっきり逃げ出すものとばかり思っていましたのに……」
「我も誤算だった。命乞いをすると思っていたのだが……」
「死んだ振りをすると思ってたのれふ……」
「……」
なるほど、俺がどういう反応を示すかっていうのを賭けの対象にしてたわけか。それにしても、喋り方とか髪型や服装とかドワーフの中でもそれぞれ違うんだな。
「おっと、自己紹介がまだじゃったな、人間よ。コホンッ……」
ゴーグルをつけたポニーテールの子が俺のほうに向き直って偉そうに咳払いする。
「まずわしはマリベル。見ての通りドワーフ一族で、ジョブ等の特殊な『能力』を精錬することが得意なのじゃ!」
「の、能力を精錬……?」
「うむ、大怪我をして虫の息だったお主の自然治癒能力を大幅に向上させ、ここまで動けるようになったのも、わしが鍛えたからであるのじゃぞっ」
「な、なるほど……」
それでこんなに飛躍的に回復してるってわけか……。お、今度は肩ほどまである漆黒の髪の子が一歩前に出てきた。
「我はカミュ。『パワーやスピード』を精錬するのが得意だ。以上」
「……」
実に淡々とした自己紹介だな。格好も白いワンピース姿だし、全体的に地味な雰囲気を漂わせるドワーフだ。
「下等生物が相手とはいえ、相変わらずカミュは淡白ですことっ。さあ人間、よく聞きなさい? わたくしの名前はルカ。このハンマーで『ハート』を鍛えることができちゃいますのよ、どんな弱虫さんでもっ! オホホッ!」
このとても長い金髪の子、服装も派手なドレスを着込んでて、カミュって子とは対照的に色んな意味で目立つドワーフだな……。
「えっとー、ユリムのお名前は……もう言っちゃったけどユリムなのれふ。ユリムは『センス』を鍛えることができまふっ。タイミングとか、間合いとかを読む力でしゅっ」
「……」
最後に自己紹介した桃色のピッグテールの子はとても不思議な感じのする子で、フリルのついた子供っぽいミニスカートとかやたらと舌足らずなところとか、とてもメルヘンチックなドワーフだった。しかもゴミ箱の中に隠れてたんだよな……って、彼女たちだけじゃなくて俺も自己紹介しなきゃまずそうだ。
「お……俺の名前はアルファ。登山をやってる人間で、ジョブは【清掃師】っていうんだ。よろしく!」
「「「「……」」」」
あれ、ドワーフたちが静まり返ってる。まずかったのかな? 俺が勝手に自己紹介したことで、人間なんかがドワーフと対等だと勘違いしていると思われたのかもしれない。しかも馴れ馴れしくよろしくなんて言っちゃったしな。生意気だからって粛清されたりして……。
「おおっ、掃除か、そりゃいいの!」
「あら、部屋を綺麗にしてもらえますの?」
「それなら助かる。我は掃除が大の苦手でな……」
「綺麗綺麗にしてほしいのれふー」
「……」
よかった。どうなることかと緊張したが、俺の予想に反してドワーフたちはみんな俺のジョブに好意的な反応を示してくれた。
「うわ……」
よく見ると、床は足の踏み場もないくらい散らかってる。早速【収集】を使って一つにまとめてゴミ箱に入れると、歓声と拍手が沸き起こった。なんか照れるな。掃除なんて当たり前で、誰にでもできると見下されてばかりだっただけに。
「でも……こんなの誰でもできるし……」
「ほむ? アルファとやら、そんなことはないぞ?」
「え?」
「みんな怠けてばかりで掃除などしようともせんのじゃ! わ、わしも含めてじゃが、意地でもなっ!」
「だ……だって、そういうのはわたくしには似合いませんものっ……」
「我も苦手だ。掃除のことを考えただけで頭が痛くなってくるレベルでな……」
「ユリムも疲れちゃうのれふー……」
「……」
なるほど、みんなそれでやりたがらないってわけか。
「とはいえ、ゴミが腰まで浸かるほど溜まったときはさすがに放っておくわけにもいかなくなっての、ジャンケンで誰が掃除するか決めたものじゃっ」
「うあ……」
そんなになるまで放置してたのか。てかマリベルって子、ドヤ顔で言うことじゃないだろうと……。まあそんな調子だと、一度綺麗にしたところですぐゴミだらけになっちゃうんだろうなあ。
「……って、まさかそれで俺を掃除役にするために助けたとか……?」
「ぎくっ!」
「……」
マリベルって、口調は年寄りそのものなのに反応は凄く素直なんだな……。
「ま、まあそれもあるが、探しておったのじゃ」
「探してた……?」
「うむっ、ほかの者たちは懐疑的だったが、わしはどうしても人間をスカウトしたかった。それでこのFランクの迷宮山『アバランシェ・ブレード』の麓近くに山小屋を置き、見込みのありそうな人間を探していたというわけなのじゃ」
「なるほど……って、スカウトって、俺に一体何をさせるつもりで……?」
「もちろん、登山じゃっ」
「えええっ……?」
あまりにも意外すぎる。人間百人とドワーフ一人が戦えば間違いなくドワーフが勝つって言われてるくらい力の差があるのに、人間をスカウトするのか……。
「そう驚くな。わしはな、確かに脆いが人間こそ無限大の可能性を秘めておると踏んでおるのじゃ。特にアルファよ、お主のジョブには物凄い才能を感じる……」
「え、俺のジョブに……?」
なんかとんでもないことになってきたな。俺、底辺ジョブなのに……。
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