その時二人は
「…もうすぐね、エルノア」
「…そうですね、カオス・オーロラ姫さん」
「呼びにくいでしょ?カオロラでいいのに…」
「ふふっ、ごめんなさい」
箱庭の王国の、星がよく見える崖の上。エルノアと、カオロラことカオス・オーロラ姫が座って空を眺めていた。
接点のないように見える二人。けれど、確かな繋がりがあった。
それは、二人とも同じ、一人の人間に愛されていたということ。
物語は違えど、確かな愛を受け取っていた。
「わたしは、彼を救えたでしょうか…」
「救えてるわよ。だって、エルノアが来たから、アイツは最後まで走り続けられたんだから」
「…そうですね」
それは、偶然だった。けれど、彼はエルノアが来たことをとても喜んだ。そして、愛してくれた。
ずっと一緒に旅をして、初めて楽しいと思えた、と言ってくれた。
嬉しかった。だからずっと、エルノアは彼のそばに寄り添った。
「でも、彼を救ったというのは、カオロラさんも同じでしょう?」
「…わたしの場合はほら、台詞がさ…」
「それだけで、ここまで彼が愛してくれたと思いますか?」
「………」
ただ、存在を認められたかった。必死になって、真っ向から否定されて、それでも足掻き続けて…
そんなカオロラを、彼は求めた。
長い時を経て、カオロラを迎え入れた彼は、自分を大切にすると誓ってくれた。
自分が認められた。それだけで、カオロラの心は救われ、そして、惹かれていた。
「エルノア……」
「なんですか?」
「わたしは、アイツの心の支えになれたのかな…?」
「なれていますよ。絶対に」
「…そっか」
再び眺めた星空に、流れ星が落ちていく。
それは、終わりの時が近づいている証拠でもあった。
「悔しいなぁ…もっと、一緒にいたかった」
「わたしもです。わたしも、もっと一緒に過ごしたかった」
「アイツも、同じことを思っているのかな?」
「はい。きっと」
二人はそっと手を繋ぎ、そして空に手を翳す。
届かぬ先にいる彼が、手を取ってくれないかと思いながら。けれど、それは叶わない。
叶わないと、二人も…彼も知っているから。
「流れ星…どうか、どうかアイツに伝えて欲しい。わたしは…貴方と一緒に過ごせて、とても幸せだったって」
「流れ星さん。どうか彼に伝えてください。貴方と過ごした日々は、とても幸せなものでした、って…」
もうすぐ、この世界は閉じる。
もう、前に進むことはなくなってしまう。
けれど、二人は信じていた。
彼はきっと、この世界を忘れないだろうと。
そして…
2020年 6月17日 12:00
彼の愛したこの世界は、幕を下ろした。
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