破れたページ

破れたページ

 王は、エミリーと店主に、余った材料でたくさんのお菓子を作るように命じ、観客にお菓子を振る舞い、観客も皆帰り、大賑わいの会場だった。そして、あのレシピ本が入った前王のリュックがエミリー手に戻り。

 会場のステージ中央では、王とエミリーたち3人、そして、お菓子専門店2人。

 王は、店主がこの国に来た訳を聞き。店主は、改めて謝罪し。理由はどうあれ、拾ったものを着服したことは事実。罰を受けると言いった。王は、その罰として店主に、生涯この城の料理人兼パティシエとして働くことを命じ。魔法使いの少女は、許可なく魔法を使ったことは大目に見ると言い。罰はなしとなり。この国、魔法村で暮らすように命じ。エミリーたちもこの処分に喜んでいた。

 その時、王はエミリーに話したいことがあると言い。しばらく時間をもらいたいと言った。エミリーは承諾し。会場はなくなり、元の姿に戻った。


 王はエミリーに何を話したいのか、わからないが、それまでに時間がある。そこでメアリーは、エミリーの部屋を見たいと言い出し。どうやら、以前からメアリーは、一度でいいからエミリーの部屋を見て見たいと思っていた。

 エミリーたち3人は、エミリーの部屋に向かい。エミリーは、この1週間いろんな出来事があった。そのことを思いだし、1週間ぶりに部屋に入ると、あの時と同じ空気感に、少し懐かしさを感じていた。

 メアリーは辺りを見渡し、シンプルな部屋だねと言い。部屋の広さには驚いていない。なんなら、魔法でもっと広くできるよと言い。ただ、壁やカーテンなどを可愛くしたらと言っていた。

 エミリーはおしゃれに興味なく。しかし、ちょっとだけメアリーの影響を受け始めているのか、おしゃれもいいかなと思い。魔法でソファー取り出し、いろいろと話が弾んでいた。

 しばらくして、エミリーは、何か忘れていることに気づいた。また、クッキーをほったらかしにしていた。

 クッキーは机に向かい。何やら、書き物している様子。エミリーはそのことが気になり、そっと後ろに近づくと。

 机の上には、あの100番目の空白のページに、新たなレシピを書き入れていた。『100番目は、生姜クッキー』と。


 しばらくして、家来の1人がエミリーたち3人に、王の間に来るようにと、王からの伝言を伝え。

 エミリーは思った。これから私は、王女としてどう生きて行くべきなのか。私なりの国造り。あんなことを言ったはいいが、どうしようと、内心不安になり。

 エミリーたち3人は王の間に着いた。そこには、王の椅子に座っている王と。その隣には王妃が立っている。

 すると、王は立ち上がり。

 エミリーたち3人には、王に歩み寄り、王は胸の内を話し始めた。


 私は、前王に嫉妬していた。国民に愛され、絶大な支持を得ていた前王。必ず前王を超えてみせると誓い。子供の頃から目標だった。

 しかし、いざ王になってみて、何をやってもうまくいかず、現実に打ちのめされ。いつのまにか前王の真似をするようになっていた。私は前王を超えることはできない。その悔しさが日に日に増し、何をするにも空回りするばかりだった。

 そんな時、国民からは、前王と比較され、前王の評判だけが聞え。どうして私のことをわかってもらえないのか、正直、わからなくなっていた。

 そんな中、エミリーを見ていると、どこか前王にそっくりで。悔しかった。娘までも前王のことを。いつも、前王の話しばかりしていた。

 しかし、あのクッキーを食べたら、子供の時のことを思いだし。前王に張り合って、自分を見失っていた。私はいったい何をやっていたのか。エミリーは言った。私は私なりのやり方で国を支えて行くと。私は間違っていた。


 すると、突然クッキーが王に近づき。

「息子よ、すまなかった。そのことに気づいていたのに、私は……悪かった……」

 クッキーは涙を流し謝り。エミリーは、クッキーに寄り添い。

「お祖父ちゃん、泣かないで……」

 王はまだ知らない、クッキーが前王だと。

「おじいちゃん!? まさか、エミリー、どういうことだ?」


 クッキーのことは、先日城に帰った時に話している。エミリーは、クッキーが記憶を取り戻したことを話し、前王はクッキーだと話すと。王は驚き、動揺していたが。クッキーは王を見て。

「息子よ、すまなかった」

「いいえ、お父様。謝らないといけないのは私の方です。本当に申し訳ありませんでした。悪いのは私なんです。すみませんでした、お父様……」

 王は、涙を流し謝った。

 すると、クッキーは王を抱きしめ。王はまるで子供に帰ったようだった。

 その光景を黙って見ていた王妃は胸をなでおろし。そして、涙し、これでよかったと。


 エミリーは、王の優しさを知り、事情のことはよくわからないが、とにかく仲直りしてよかったと思い、この光景に目頭を熱くしていた。


 それから、3日が経ち。

 クッキーが何故、あんな風になってしまったか、結局のところわからなかった。ただ、村長の見解では、エリーが生きかえり魔法かけた時に、おそらく、呪文を言い間違ったのが原因ではないかと言い。当の本人は、クッキーの姿が気に入り、これでよかったと言っていた。

 王は心を入れ替え、クッキーと一緒にこの国を支え守りたいと、改めて決意した。そして、まだまだ王位の座は譲れないと、エミリーに言い。エミリーは、内心はホッとしていた。いくらなんでも女王はまだ早いと。

 この後、エミリーは、『エミリーのレシピ本』というタイトルの本を作る計画を立て日々お菓子の研究をし。

 魔法禁止令が解かれた、メアリーはというと、魔法村で魔法の修業を再開。そして、あの魔法使いの少女と意気投合し。メアリー家の養女として向かい入れることになった。


 時は流れ、あれから6年が経ち、エミリーは18歳になっていた。

 王女としての自覚はさっておき。エミリーは、お城の近くにお菓子専門学校を開校し、校長兼パティシエの先生として働き。

 一方、メアリーは、魔法村に魔法学校を開校し、校長兼魔法学校の先生として働き。ある意味この2人、お互い競い合い、日々頑張っている。この先どうなることやら。


 西暦2020年。とある町に、将来の夢はパティシエになる、そんな夢を描く1人の少女がいた。

 1階で母親の声がする。

「魔法学校の成績はどうだったの?」

「知らなーい」

「知らないって!?」

「そりより、お母さん。私はパティシエになるから魔法は必要ないの!」

「また、そんなことを言って。それより魔法で掃除できるようになったの!? 魔法の成績のことは後で聞くからね!」

「はーい、わかった! 今から魔法で、部屋を掃除するから」

 魔法使いの少女は、2階の自分の部屋に行き。

「……何で、魔法なんの!? 確かに魔法は楽だけど……」

 魔法使いの少女は、魔法の杖を持ち、部屋を片付ける呪文を唱えた。ところが。

「あっ! しまった。呪文また間違った。あっ、その箱!? あーあ、また消えちゃった……。あれ!? これって、あの本の最後のページだ……。これで2回目。また、貯金を下ろさないと……。あっ、携帯鳴ってる。私のスマホは何処!? 何処に行った……!? あっ、あった! はい、エミリーです!」


 床に落ちた、破れたページには。

『この100番目のレシピは掲載しません。100番目のレシピは、あなたが決めてください。どんな人に食べてもらいたいですか? 』

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エミリーとお菓子と魔法使い K・Sメッセ @ksmscst

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