お菓子対決(5)

 双方、ステージ中央に集まり。先行、お菓子専門店のかぼちゃのタルト。審査員が食べ始めた。

「かぼちゃのタルト。初めて食べたが、美味しいですね……。このサクサクとした触感が素晴らしい!」

「そうですね!」

「これに決まりですね!」

「かぼちゃの素材の味が生き、実に美味しい」


 審査員全員高評価に、店主は勝ちを確信し。勝って当たり前、そんな雰囲気。そんな中、次はエミリー番だが、何故か、店主はエミリーを見ている。

「気に入らん。何だ、あの余裕の表情は!? 何であんな表情ができる? 何の代わり映えない、ただのクッキーではないか」


 エミリーのクッキーが審査員のテーブルに並べられ。審査員が食べ始めた。

 すると、王を除いて、クッキーの味に審査員全員、美味しいと絶賛している。ところが、3種類のクッキーの内、1種類のクッキーにだけ、口裏をそろえて。

「何故、こんなクッキーを……」


 この勝負で全てが決まる。しばらくして、審査結果が出た。

 審査員4名、白札を挙げ、エミリーが勝った。大勢の観客も拍手し。店主は、呆然と立ちつくし。

 その時、突然王が椅子から立ち上がり。涙をこぼし。

「美味しい、美味しい……。何故だ!? わからない。たったこれだけの物がどうして美味しい!? どうして、私は泣いている? 懐かしい味がする……」

 王は、この食べ比べで初めて口を開き。クッキーを美味しい、美味しいと言い食べている。

 店主はその光景に。

「嘘だ! そんなものが私のタルトより美味しいはずがない! ただのクッキーだろうが!」

 店主は、突然エミリーの目の前に行き。

「あのクッキーを私にも食べさせろ!?」

 エミリーは言われるがまま、皿の上にクッキーを載せ、店主に皿を渡し。店主はクッキーを食べた。

「何だ、この味は!? どこか懐かしい味がする。優しい味がする。こんなクッキーは食べたことがない。美味しい……」

 店主は2種類のクッキーを食べ。残るはもう1種類のクッキーを食べ驚いた。

「これは、この味は何だ!? もしかして、これは、生姜!? そうだ、生姜だ……。何故、生姜クッキーを作った!?」


 エミリーはあの時、辺りを見て肌で感じ。もうすぐ冬が来る、外は寒い。この建物の中はエアコンが効いているようで効いていない、肌寒い。そこで、クッキー生地に生姜を混ぜことを思いつき。生姜で少しでも温まればと思った。それに、王は生姜料理が大好き。そのことを前王から昔聞いたことを思い出し。生姜クッキーを作った。

 生姜は、メアリーに頼んで魔法で生姜を出してもらい。メアリーは生姜を使うことに驚いていた。


 店主は、生姜クッキーを作った訳を知り。エミリーに、さっき作ったケーキとドーナツを持ってくるように言い。それを食べた。

 すると、店主は何かに気づき、王の所へ行き、ひざまずき。

「王様! これは、休憩時間にあの少女が作ったものです、どうか食べてみてください!」


 王は、差出したケーキとドーナツを食べ。美味いと言い、涙をまたこぼし。そして、それを審査員にも食べてもらい。すると、その味に驚き。美味いと大絶賛。

 店主は、再びエミリーの元へ行き。

「美味かった。私の完敗だ。事情はわからぬが、大した王女様だ。この年で、こんな子供に料理の真髄を教わるとは思ってもいなかった。それと、すまなかった。あの本を返す。本当に申し訳なかった。そして、ありがとう。礼を言う」


 エミリーは、ありがとうと言われ、困惑気味。そこで、ありがとうの訳を聞いた。


 この店主は、とある国の城の料理人だった。

 店主の母親は、料理が得意。何故、あんな美味しい料理が作れるのか、店主はその謎を追い求め、いつしか料理の道を歩み。料理修行を15歳で始め。20年後、城の料理人まで上り詰め。それなりの報酬もらっていた。

 ところが、ある日。王や他の料理人たちが、お前の料理は何かが足らない、何かが欠けている、と言われ。それを問いただした。しかし、その答えは誰も教えてくれない。自分で見つけろと言われた。

 店主は、その答えをどうしても知りたくなり。城の料理人を辞め。その答えを探す旅に出た。そんな時に、旅先で魔法使いの少女と出会った。

 その魔法使いの少女の国では、魔法を戦いの道具にされ。挙句の果てに、魔法族は国から追放され。両親は戦いに巻き込まれ亡くなり。そんな中、魔法使いの少女心の支えは、父親が残した言葉、あの国に行けば、守りの魔法で必ずお前を守ってくれる。そして、その国では、大好きな魔法が使える。魔法使いの少女は、その言葉を胸に故郷を後にし、エミリーたちの国を目指し、たった1人で旅に出た。

 しかし、旅先で旅費が底をつき。飲まず食わずの日々が続き。とある町外れで倒れてしまい。そこへ偶然通りかかった店主が助け。その時、魔法使いの少女の為に店主は料理を作り。その料理を食べ、魔法使いの少女は涙をこぼしながら、美味しいって言って食べていた。店主は、魔法使いの少女をこのままほっとくはけにはいかないと、行動を共にするようになり。

 そして、目的地のこの国に入ったものの、誰一人として、魔法村のことに口を噤み。どこに魔法村があるのかわからずにいた。

 そんな時、湖の近くを歩いていると、いきなり空からリュックが落ちて来た。中身を見ると、見たこともない本が。その本を読んでいると。もしかしたら、私の料理に足らない物がわかるのではないかと思い。あの店を始めた。


 エミリーは店主に、その答えはみつかったの、と聞くと。

 その答えは、相手を想う気持ち、真心。ただ、美味し物を食べさせてあげたいと想う気持ち、と言い。エミリーは、その答えに納得していた。

 その時、2人の所に王が歩み寄り。

「エミリー。美味かった。よくやった! どうやら私が間違っていたようだ。目が覚めた気分だ。いままで本当に申し訳なかった。おじいさんは、私が必ず見つけ出す。心配するな」

 お祖父さんを見つけてくれる。やっとその言葉が聞けたエミリーは、嬉しくて、嬉しくって目頭が熱くなり。しかし、お祖父さんはもう既に見つかっている。


 王は、突然観客に向かって。

「皆の者! ここにいるのは、私の娘だ。エミリー王女である。わけって髪を切っているが。この勝者に盛大な拍手をお願いする!」

 観客は王女とだと聞かされ、動揺し、驚いていたが、盛大な拍手が鳴り響いていた。この光景に、メアリーもクッキーも泣きながら喜び。そして、王の手には白札が握られていた。

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