お菓子対決(4)

 4回戦が終わり。ここで一旦、1時間の休憩となった。5回戦のメニューは、お互い得意なお菓子で勝負する。


 メアリーは、エミリーのうつむいた姿にいらいらしている。メアリーとクッキーは、エミリーの所に行き、メアリーはエミリーの前に立ち。

「エミリー、まだわかんないの!?」

「……」

 メアリーは、ポケットに入れていた手鏡をエミリーに渡し。

「それで、自分の顔を見なさい! そんな顔して美味し物が作れると思う!?」

「……」

 メアリーは、皿に載ったドーナツをエミリーに渡し。

「それは、あなたが作ったドーナツ。食べて見てよ!?」

 言われるがまま、エミリーは一口食べると。

「……美味しくない。なんで美味しくないの? いつも通りに作ったのに……」

 次にメアリーは、皿に載ったプリンをエミリーに渡し。

「このプリンも食べて見てよ」

 言われるがまま、エミリーは一口食べ。

「美味しくない……なんなのこれ? こんな私の作るプリンじゃない」

「そうだよね。わかってるじゃないの!? だったら、これを食べてみてよ? 私とクッキーが作ったケーキとシュークリームを」

 クッキーは皿を持ち。皿の上には、ケーキとシュークリームが載っている。

 言われるがまま、エミリーは、それぞれを食べ。

「……何これ!? 美味しい。美味しいよ。私のより見てくれは悪いけど美味しい。どうして、なんで美味しいのよ……!?」

 突然エミリーは、泣くつもりはないのに涙が止まらない。


 メアリーはエミリーに、ある思いを話し始めた。

「私ね、1つわかったことがあるの。エミリーはお菓子を作る時、いつも楽しそうだった。私は料理が苦手だけど、エミリーとクッキーに美味しって言われ、喜ぶ顔を見てたら、料理やお菓子を作るのが楽しくなって……。お菓子作りではエミリーには負けるけどね……。だから思い出してよ、エミリー! 今、お菓子を作って楽しい!? 全然楽しそうじゃない! いい加減に目を覚ましてよ! あなたはいったい何の為にお菓子を作っているの?」

「何の為!? 私、なんの為にお菓子を作っている!?」

 この時エミリーは、お菓子を食べて喜ぶメアリーとクッキーの顔が走馬灯のように思い出し。

「私はあんな王様に負けたくなかった……。そうか、そういうことだったのか。わかった。私は、私の作るお菓子を食べて、美味しいって喜んでもらえる為に、お菓子を作っているんだ。あの喜ぶ顔を見る為に」

「やっと気づいたわね。あなたって、こうと思ったら周りが見えなくなるところがあるか。もうあんな怖い顔してお菓子を作らないでね」

「えっ!? 私、怖い顔してた?」

「してた。こんな顔して」

 メアリーはエミリーの顔真似をして。

「何、その顔!?」

 思わず2人して笑い。隣にいるクッキーは、いつものエミリーに戻り、涙をこぼしながら喜んでいた。


 料理やお菓子を作る時に、一番大事なことは、相手のことを想って作ること。そこには美味しって言ってくれ人がいる。そこには笑顔がある。ただ、中にはそうでない食べ物もあるが。


 エミリーは、椅子から立ち上がり、オープンキッチンに行き。キッチンを見渡し、顔を洗い。

 すると、何を思ったのかエミリーは、何かを作り始めた。どうやら、改めてプリンとドーナツを作っている。その光景を休憩していた観客が見ている。あの菓子専門店の2人も見ている。店主はその光景に。

「今更、同じものを作って何になる……。こちらには、『新レシピ用①』のレシピがある。全て頭の中に入っている。決して負けはしない……」


 どうやら、完全復活したエミリー。プリンとドーナツを作りあげ。メアリーとクッキーはそれを食べると。美味しいと絶賛し、あの味が帰って来た。目頭を熱くさせるこの2人。 エミリーはその光景を嬉しそうに見ていた。


 その時、突然クッキーが頭を抱え込み。

「……あれっ!? うっ……! 頭が、なんだ!? 頭が……」

 クッキーは目を瞑り、頭を抱え込み、その場に座り込み。エミリーはクッキーに声をかけ。

「クッキー、大丈夫……!? もしかして、記憶が!? クッキー!」

 クッキーは目を開け。

「……思い出した。そうか、そういうことだったのか。あの100番目の『?』の意味は……。なんでいままで気づかなかったんだ。エミリー、メアリーありがとう。すまなかった。心配をかけたな」

 その声、聞き覚えのある声に、エミリーは驚き。

「えっ!? その声、もしかして、えっ!? なんで、なんでそうなるの!? お祖父ちゃんなの!?」

 姿はクッキーのまま、声は前王。

「そうだ、わしだ。おじいちゃんだよ」

 クッキーの隣にいた、メアリーも驚き。

「いったいこれは、どういうことなの?」


 突然の出来事に、困惑する2人。いや、困惑どころじゃない。どうしてこんなことになるのか、何が何だかわからない。でも、この声は前王の声、まぎれもなく前王。

 エミリーは、これでもう勝負はしなくてもいいと思っていると。クッキーは、王の椅子を見ながら。

「エミリー、この勝負続けなさい」

「えっ!? なんで……!? あっ、そうか。あの本を取り返さないと」

「確かにそれもあるが、王様に、いや、おとうさんに、エミリーのお菓子を食べて、美味しいって言ってもらってないだろう!? だから、お父さんの為にお菓子を作りなさい。エミリーの最高のお菓子を」

「お父さんの為に!? どうして? お祖父ちゃんを見捨てたんだよ」

「確かに、そうかもしれない。しかし、そうさせたのはわしのせいだ。おとうさんの目を覚ましやってくれ。頼む! それができるのはエミリーしかいない!」

「目を覚ますって、どういうこと?」


 その時、進行役の家来がステージに立ち。

「皆様! お待たせ致しました……! 最後の食べ比べを始めます」

 最後の勝負。

「双方、中央へ集まってください」


 エミリーの記憶には、王と遊んだ記憶がない、お父さんからプレゼントをもらったこともない、お父さんにプレゼントをしたこともない、今更どうして。そう思うエミリーだが。ここで逃げるわけにはいかない。だったら作ってやる最高のお菓子を。エミリーは、辺りを見渡し、ステージ中央に行った。


 双方、ステージ中央に集まり。進行役の家来が。

「お菓子専門店様、何で勝負しますか?」

「かぼちゃのタルトでお願いします」

「では」

「クッキーでお願いします」


 店主は、なめられたと思い、真正面にいるエミリーを睨み。

「クッキー!? なめてんのか? 面白いことを言う。それで私に勝てると思ってるのか!?」


 エミリーは顔色一つ変えず。聞いたことがない、かぼちゃのタルトに動揺しない。私は私のクッキーを作るだけ。それもとびっきり美味しいクッキーを食べさせてあげる、お父さんに。


 双方のメニューが出揃い。制限時間は1時間。作業開始の合図が鳴った。双方、オープンキッチンに戻り。

 そんな中、メアリーは疑問抱いていた。

「おじいちゃん。どうしてエミリーは、クッキーを選んだの?」

「それは本人に聞いて見ないと……。だが、エミリーらしくていいと思うよ。しかし、相手もかなりの腕前。ここでタルトを持ってくるとは、中々かやるな」

「どういうこと?」

「食感だよ」

「食感……!? そっか、やわらかい食べ物が続いているから、口直しに持ってきたわけね」

「そう言うことだ」

「おじいちゃん。『新レシピ用①』って何なの?」

「メアリー、私のことはクッキーでいいよ。今までと一緒で、その方がいいから」

「わかった。でも、その声とその姿。元の声に戻んないの?」

「これじゃダメか?」

「ダメってことはないけど……時期になれるか」


 しばらくして、お菓子専門店の魔法使いの少女が、エミリーを気にし。

「あの子、何で、あんなに楽しいの!?」

「何処を見てる!? 焼きに入るぞ!」

「すみません!」


 制限時間の1時間経ち。5回戦の終了の合図が鳴った。

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