お菓子対決(2)

 それから5日経ち、お菓子対決の日が来た。これで全ての運命が決まる。そう言っても過言ではない状況に追い込まれていた。エミリーたちは、あまり眠れなかった様子。クッキーを除いては。

 前王の山小屋では、ピンと張りつめた空気の中。朝食を食べようとしないエミリー。その隣では、クッキーは美味しそうに食べている。メアリーはエミリーに、少しでも食べなさいと言うが。やはり緊張感が増し、胃が受けつけないのか。

 なんでこんな風になってしまったのか。メアリーは思う。緊張するのはわかる。しかし、いつものエミリーのお菓子なら負けるはずがない。なのに、異常に勝ちたいと思う執念みたいなものを感じる。その気持ちもわかる。おじいちゃんを見つけださなければならないから。しかし、何かが違う、そういうことではない何かが違う。対決に支障がでなければいいとメアリーは思っている。

 この部屋の時計は午前7時。会場には、午前8時までに入らないと失格。 その点は大丈夫。瞬間移動魔法で対応できるし。クッキーの足もあるから大丈夫。

 結局、朝食を抜いたエミリー。瞬間移動魔法を使わずに、クッキーの肩に乗る2人。エミリーは対決のことで頭がいっぱい。その姿にメアリーは不安を感じ。クッキーはそんな2人お構いなし。会場に着いたのは、午前7時50分。

 すると、驚くエミリー。城の敷地内に新しい建物が立っている。対決のことばかり考えていたことで会場のことは眼中になかった。

 この会場は、城の料理人がメアリーに指示し、魔法で造りあげ。会場の建物の中は、オープンキッチンが双方に用意され、7メートルの間隔が開き対面して配置されている。この双方のオープンキッチンの中央にはステージが用意され。そのステージの前には、1000人分の座席が用意されていた。

 エミリーは、この雰囲気に圧倒されていると。キッチンステージに、王と家来2人を連れ。その後ろには、お菓子専門店の店主と魔法使いの少女が現れた。

 すると、店主がエミリーを見て。

「会場入りが10分前ですか!? 流石、世界一のパティシエは違いますねー。余裕ですか?」

 そんな嫌味など全く気にしないエミリーは、王の前に行き。

「王様、おはようございます」

「おはよう……。そなたたちに確認してもらいたい物がある。これ何だが!?」

 王の横にいる家来の1人の手には、リュックが。それを目にしたエミリーは。

「それは、お祖父ちゃんのリュック」

「間違いないかね?」

「間違いありません」

「では、中身を確認しなさい?」 

「わかりました」


 メアリーは魔法で小さなテーブルを出し。エミリーは、テーブルの上にリュックの中身を全部出し、確認すると。レシピ本と他4冊の本。本の数もあっている。間違いなく前王の本。

 その時、エミリーは、テーブルの上に見たこともないノートが。

「何これ? このノート?」

 エミリーは、そのノートを手に取り、表紙を見ると。『新レシピ用①』と書いてある。それを隣で見ていたメアリーは、その字を見て気づいた。

「それって、おじいちゃんの字」

「えっ……!? そうだ、これ、おじいちゃんの字だよ。間違いない」

 そのノートには、2人の知らない新しいレシピが書かれている。エミリーは、そのノートをめくろうとすると。


「そこの者!? 中身の確認はすんだかね?」

 王の言葉に、エミリーはノートをテーブルの上に置き。

「確認は終わりました。本をちゃんとありました」

「わかった。リュックの中身は元に戻し、そこの家来に渡しなさい」

 エミリーは言われた通りに、中身を全てリュック戻し。家来の1人に渡した。

「このリュックは、私が責任を持って預かる。この対決が終わるまでは、双方このリュックに触ることはできないものとする。双方よろしいな?」

 双方は、了解した。

 王は、家来2人を連れ、この会場を出た。残された、エミリーたち3人とお菓子専門店の2人。

 すると、勝ち誇ったかのような態度で店主が、エミリーに近づき。

「やはり思っていた通りだったな。あのノート存在を知らなかったようだな。おかしいと思ったよ。レシピ本のことは聞いて、あのノートことは一言も聞かなかった……。どうやらこの勝負、私の勝ちのようだな。あのレシピノートにはお前たちの知らないレシピがあるからな。だからといって、あのレシピノートがなくても子供相手に私が負けるはずがない。それでも私に勝てるかな?」

 店主は、まるで捨て台詞ように言い。不敵に笑いながら、お菓子専門店の2人は、エミリーと真向いのオープンキッチンに行った。


 突然、前王の見知らぬレシピノートが現れ。困惑している2人。しかし、メアリーは気にしない。ところが、エミリーは戦意消失していた。

「私、負けるかもしれない」

「はぁ!? 負けるって、どういうこと?」

「あのレシピ本を使われたら私……」

「しかりしなさい! 戦ってもいないのに情けないこと言わないでよね! エミリーはエミリーのお菓子を作れば勝てるって!」

「……そうだよね……」

「頑張ろう!? 私達がついているじゃないの?」

「そうだよね。わかった。私、絶対勝って見せるから」


 ゆさぶりをかけてきた店主。この時、エミリーは、料理やお菓子作りに一番大切なことを忘れていた。いや、気づいていなかった。


 双方、お菓子作りの準備を終わり。昼食の時間となった。

 すると、クッキーが突然、料理研究室を見て見たいと言い出し。どういうわけか、メアリーは反対。しかし、エミリーは、もしかしたら案外ひょっこりとお祖父ちゃんが帰って来ているかもと言い。少し期待をしていた。

 鍵のかかった料理研究室に行くには、瞬間移魔法を使い移動した、エミリーたち3人。一瞬で移動し。クッキーは辺りをキョロキョロしている。

 エミリーは、ここに入るのは1週間ぶり。前王が帰ってきた様子はない。あの時空気のまま。メアリーは4年ぶりにここに来て、辺りを見渡していた。


 お昼のお弁当は、クッキーとメアリーが作り。ここで食事をすることに。朝食を抜いたエミリーは、真剣な表情でサンドイッチを食べ。あとの2人はいつものように食べていた。

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