メアリーの作戦

メアリーの作戦(1)

 前王の山小屋を後にしたメアリーたち3人は、山道を下り、30分くらい歩くと。メアリーの目の前には川が見え、川沿いを100メートルくらい真っ直ぐ歩くと、左側に橋が見え。あの橋を渡れば、メアリーは4年前のあの出来事以来、4年ぶりにあの町に足を踏み入れる。

 メアリーは躊躇なく橋を渡り。その後ろをメアリーとクッキーが歩いている。辺りを注意しながら、町の中へ入って行き。どうやら、城の家来たちはまだここには来ていない様子。

 しばらく歩くと、メアリーの前方に、メアリーと同じくらいの年の女の子が2人、立ち話をしている。メアリーたちは、その2人に近づいて行くと、話し声が聞こえ。

「ねぇ、昨日食べたケーキ、美味しかったよね?」

「あの苺のショートケーキでしょう? 美味しかったよね」

 どうやら、偶然にもエミリーたちが探している店のようだが。メアリーは思い切ってその2人に声をかけてみた。

「あのー、すみません。私たち、この町に引っ越したばかりなんだけど。お菓子を売っているお店があるって、聞いたんだけど」

 すると、女の子の1人が。

「今、ちょうど私たちもその店の話していたところなの」

「そこのお菓子って、美味しいんですか?」

「美味しですよ。特にドーナツが」

 すると、もう1人の女の子が。

「そうそう、美味しいよね。この国にはない食べ物ばかりで、店の中も異国の世界ってかんじで」

 メアリーは確信した。この子たちが言う店が、リュックを拾った人がいる店に違いないと。

「そのお店って、何処にあるのか教えてくれる?」

「いいわよ。私たち、今からその店に行くから、ついて来れば?」


 メアリーたちは、2人の女の子の後をついて行くことに。

 しばらく歩くと、ここ辺りでは見かけない建物が1軒建っている。その店の看板には、『お菓子専門店』書かれ。店先の出入口には、別な立て看板に、今日のおすすめのお菓子がいくつか書かれ、値段も書いてある。

 メアリーは、店を案内してくれた2人に礼を言い。その女の子2人は、店内に入って行き。しばらくして、メアリーたちも店内へ。

 店の中に入ると。ガラスショーケースの中にたくさんの種類のお菓子が並んでいる。エミリーは一通り見ると。あのレシピ本とそっくりなお菓子ばかり。

 店の奥には、男性が1人見え。そして、ガラスショーケース裏側では、エミリーと同い年くらいの女の子が1人で接客をしている。エミリーはその女の子に躊躇なく声をかけた。

「すみません」

「いらっしゃいませ。何にしましょうか?」

「すみません。今から3ヶ月前なんですけど、レシピ本が入ったリュックを拾いませんでしたか?」

 エミリーは、いきなりストレートに聞き。隣にいたメアリーは驚き。その店員は、平然とし動揺もせずに対応をする。

「お客さん。なんのことでしょうか? 言ってる意味がわかりませんが?」

 すると、間髪いれずにメアリーが割って入り。

「すみません。このドーナツを3つとシュークリーム3つ、いただけますか?」

「ありがとうございます。少々お待ちください」


 エミリーはメアリーの行動に。

「メアリー、どうしたの?」

「いいから喋ったらダメ!」

 店員に、聞こえないように小声で言い。お金を払い、商品を受け取り。3人は店を出た。

 しばらく歩き、辺りを警戒しながら、メアリーは道端で立ち止まり、少し不機嫌。

「エミリー、いきなり聞いてどうするの? 店内の様子を見てからだって言ったでしょ?」

「だって、回りくどいのは嫌い出し。それに早くレシピ本を返してもらわないと」

「それはわかるけど。もしレシピ本を持ち逃げされたらどうするの?」

「ごめんなさい」

「まぁいいわ。思わぬ収穫もあったし。とにかく勝手な真似はしないでね。作戦を立て、慎重にことを運べば、レシピ本は必ず取り戻せるから」

 エミリーは、納得し、反省した。


 メアリーは、リュックを拾った相手が気になっていた。おそらくリュックを拾った人物は魔法使い。それも私と同じレベル魔法使い。

 レシピ本を使うということは、あの本の中からいろんな材料や調理器具類、冷蔵庫も本から取り出しているはず。そうしなければ作れないお菓子ばかり。この時代には存在しないお菓子。

 メアリーは、お菓子専門店の外装や店内を見て、あの本からいろんな物を取り出し、魔法でアレンジしていると確信し。そして、店内にいた男はおそらく料理人。


 前王のリュックには、複製したレシピ本以外にも何冊か本が入っていた。前王は、鍵が守ってくれるから盗まれることはないと鍵を信頼し。食材探しの時にはいつもリュックに中には複製したレシピ本を入れていた。

 あの本はこの時代の本ではない。それゆえに、この時代では価値がある本。この時代にない物ばかり。見る人が見れば宝の山という考えもできる。その本を返してくださいと言ったところで、そう簡単に返す訳がない。メアリーはそこまで考えていた。

 そして、厄介なのはお菓子専門店の店員である、魔法使いの少女。リュックを拾っているはずなのに、動揺すら見せないあの平然とした態度。しかもかなり度胸がある。メアリーはどうやってレシピ本を取り戻すつもりなのか。幸い、前王のレシピ本は、エミリーの鍵のかかった机の引き出しに入っていることを知り、少しホッとするメアリー。


 一方、その頃、お菓子専門店では。

「おじさん! さっきの子供が、3ヶ月前にあれを拾ったことを聞きにきたよ」

「なんだと!? 本当か? 喋ってはいないな!?」

「喋ってないよ」

「その子供には悪いが、まだ、あの本を返すわけにはいかない……。あのレシピ本には、きっとあの答えがあるはず」


 エミリーたち3人は、レシピ本を取り戻す作戦を立てる為に、一旦前王の山小屋に戻り。早速、3人はお菓子専門店で買ってきたお菓子を食べてみると。

 確かに、美味しいのは美味しい。しかし、そのお菓子は、レシピ本通りに作った味。エミリーはその味に、何か足りない物を感じ。メアリーもクッキーも同様に感じていた。


 問題は、どうやってお菓子専門店の人たちからレシピ本を取り戻すのか。

 メアリーは、呼び出し魔法で前王のリュックを呼び出そうとするができない。やはり相手も用心し、リュックに魔法をかけ、リュックを守っている。もしかしたら、あの魔法使いの少女は、私以上の魔法力を持っているかもしれない。下手に手出しはできない。魔法で争うわけにも行かない。もし町で魔法を使ったことが王に知れたら、魔法の村の村人たちに、これまでの恩を仇で返すことになり。罰が下され、魔法は禁止になる。町で魔法は使えない。メアリーはそう思い。

 そうなると、魔法を使わない方法でレシピ本を取り戻さないとならない。3人は、調理場の椅子に座り、頭を悩まし、レシピ本を取り戻す何かいい方法がないか考えていると。メアリーが何かを思いつき、突然立ち上がり。

「私、いい方法を考えたんだけど」


 メアリーのいい方法とは、一か八かの方法だった。

 その作戦の鍵を握るのは、エミリー。状況を見ながら考えず、思ったら真っ直ぐしか見えなくなるところが、たまにみえ。一日でも早くレシピ本を取り戻す為に、明日作戦を決行することになった。

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