名前はクッキー(2)
エミリーは、林の中の真っ直ぐな道を歩き。しばらくすると道の先は段々と登り、山の中を歩いていると。ふと前王から山歩きの話を思い出し。山道には緩やかな登り坂や急な登り坂がいくつもあったり、いろんな山道があると。
エミリーはしばらく歩くと、右手に木と木の間から、さっきの広場で見た湖が見え。この山道は、急な登り坂はなく、休憩もせずに山道を登り、1時間が経過し。
城の抜け道の階段の上り下りを毎日していた為、足腰が強くなっていたが、流石に足が疲れ、急ぎたいところだが、10分くらい休むことに。しかし、座って休むところがなく。辺りをよく見ると、右側の方に不思議な形をした岩が見え。腰かけるのにはちょうどいい岩があり。そこへ行き。リュックを地面に下ろし、座ると、驚いた。
固い岩がまるでふかふかのベッドのようで、そのうえ暖かい。岩は固い物。何故、どうして、わからない。世の中のことを机の上でしか知らないエミリーは、新しい発見をし。あまりに気持ち良く、防寒着を脱ぎ、あおむけになってみると、これが心地よい。しばらくこの状態で休んでいると。何か岩が動いているような感じ、と思った瞬間。突然声が聞こえ。
「お腹がすいて動けない……。えっ!? なんでお腹が重たいの?」
すると、突然岩が動き出し、立ち上がり。エミリーはその反動で斜面を転がり。
「キャー! 誰か止めて! 助けてー!」
エミリーは叫びながら斜面を転がり続け、崖から落ちてしまった。
その時、もの凄い速さで動く岩が崖から落ちて行くエミリーを抱きかかえ、地上に降りてきた。しかし、斜面を転がったせいでエミリーは気を失っている。
「しかりして! 大丈夫? 怪我はしていない? 大丈夫? 起きてよ!……」
「……何? 誰? ここは何処?」
「気がついた!? 良かった……。私が急に立ち上がったから……ごめんなさい」
「ここは何処?」
「あそこから、転げ落ちて」
エミリーは、動く岩が指差す方を見上げると、100メートル以上もある高さの崖。
「……あれ? さっき転がって、ちょっと待って、どこも痛くない。痛くないよ!? 怪我もしていない。服も破れてない。何で? あなたが助けてくれたの?」
動く岩が喋ったと思っていたら、毛むくじゃらの大男。身長は3メートルくらいある。しかし、その声は優しい声。
「私を見て、怖くないの?」
「怖い!? 何で?」
「……あの町の人たちは、私は何もしていないのに、寄ってたかって石を投げるし。顔が怖いって、化け物だって、怪物だとか言って……」
毛むくじゃらの大男は急に泣き出し。
「えっ!? 何!? 泣かないでよ。泣かないの! お願いだから。私、怖くないないよ。体はふかふかしているし、顔も怖くないし、可愛いかも」
エミリーは、城の中にずっといたせいで、人間以外の生き物は、鳥以外は見たことがない。絵では見たことはあったが、ちっとも怖くない。
「……本当に?」
「怖くないよ」
「だったら、友達になってくれる!?」
「友達!? 何で? 私でいいの!?」
「うん」
「ヤッター! 初めて友達が出来た!」
エミリーは抱きかかえられたまま、喜んでいる。
「……嬉しい。私を受け入れてくれる人間がいたとは……」
毛むくじゃらの大男は、また、泣いてしまい。
「だから、泣かないの!」
「……ごめんなさい」
その時、エミリーの耳元で、何か音がした。
「今、グーって、音がした!? もしかして、お腹がすいてるの?」
「昨日から、何も食べてなくて」
「わかった。あれ? リュックが無い。あっ! さっきの所に、でもこの高さじゃ登れない……」
エミリーは顔を上げ、上を見ている。
すると、エミリーを抱きかかえたまま、毛むくじゃらの大男は。
「今からジャンプするから、しっかり捕まって、行くよ!?」
「ジャンプって何!?」
毛むくじゃらの大男はジャンプすると。瞬く間にさっきいた場所に着き。驚くエミリー。
「何!? 今の!? 凄い。飛んでたよ……」
「お腹すいた」
「そうだったね」
毛むくじゃらの大男は、抱えていたエミリーを下ろし。エミリーは辺りを見て。
「あった! 私のリュック。ちょっと待っててね、パンあげるから」
「パン!?」
「はい、どうぞ。私が作ったんだけど」
毛むくじゃらの大男は、パンを手に取り、不思議そうな顔をしてパンを見ている。
エミリーはその光景に。
「もしかして、パン食べたことがないの?」
「いい匂いがするけど、これって、食べ物なの?」
「そうだよ」
エミリーは、パンを一口食べて見せ。
「美味しいよ。食べてみて!?」
毛むくじゃらの大男は、手渡されたパンを食べ、涙を流し。
「……これが、美味しいってことか!? 美味しい、美味しいよ!」
「もー、何で泣くのよ……!? でも、良かった。喜んでくれて」
「……私はずっと、森の中にある食べ物だけを食べていた。段々と秋になり、寒くなり、食べ物が無くなり。ある日、町に食べ物を探しに行くと。人間が楽しそうに何かを食べているのを見て。その時、美味しいって言って。それで、美味しいとはいったい何なのか知りたくなって……これだったんだ。パン、美味しい……」
エミリーは初めて、前王以外の人に自分が作った料理をたべてもらい。それに美味しいって言ってもらった。ただ、お菓子を作ることだけ考え、作ってきた。こんなにも美味しいって言ってもらえ。自分の作った物を食べて喜んでもらうことが、こんなに嬉しいことを初めて知り。
「そういえば、あなたの名前は? 私はエミリー」
「名前!? わからない。私が誰なのかわからない」
「えっ!? わからないって、もしかして、記憶がないってことなの?」
「記憶!? どうして私は、こんな体なんだ!? 何故、私は人間ではない!? 何で? 何で、こんなの顔をしている!? 教えてよ……」
また、泣き出した、毛むくじゃらの大男。
「ごめんなさい。私、何にも知らなくて、ごめんなさい。でも、私、あなたのこと大好き!」
「……本当!?」
「そうだ、友達の証として、私が名前をつけてあげる」
「名前を!?」
「何がいいかなー……!? 私はエミリーでしょう!?」
「エミリー、その袋、何が入ってるの?」
「あっ、これ!? お菓子が入ってるの。食べる?」
「おかし!?」
「そうだ! 名前はクッキーにしようよ!? ダメかな?」
「クッキー!?」
エミリーは、袋の中から何かを取り出し。
「手を出して見て? これ、食べてみてよ」
毛むくじゃらの大男の手に、クッキーが3つ、一口で食べ。
「美味しい。これ、美味しいよ」
「サクサクして、甘くて、美味しいでしょう?」
「それ、なんていう食べ物?」
「これ!? クッキー」
「クッキー!? 名前、クッキーにする」
「本当に!?」
クッキーは嬉しそうな顔をして、大きく縦に首を振り。クッキーをもっと食べたいとエミリーに催促し。
ふとエミリーは転んだ時に助けたお礼を言ってなかったことを思いだし。
「そういえば、クッキーは怪我してない?」
「怪我!? 何で? してないけど」
「だったらいんだけど……。私を助けてくれてありがとう。命の恩人だね。でも、どうして転げ落ちたのに怪我一つしていないか、不思議ね。もしかして、魔法とかなの?」
「魔法!? 私は、さっきいた崖の下で倒れていて、気がついたら記憶がなくて、よくわかんないけど、私には、怪我を治せる力があるみたいで。町で石を投げられても痛いけど、何ともないし。何故、こんな力があるのかわからない。わからないんだ……」
クッキーは、頭を抱え込んでしまい。
「ごめんなさい。無理に思い出さなくてもいいから」
「……わかった」
「あっ、そうだ。私、行かないと」
「何処に行くの?」
エミリーはクッキーに、ここに来た経緯を話した。
すると、クッキーはエミリーと一緒に前王を探したいと言い出した。突然の申し出にエミリーは。
「えっ!? 本当にいいの?」
「友達だから」
「……ありがとう。嬉しい……キャッ! 何?」
突然クッキーは立ち上がり、エミリーを抱きかかえ。
「私が走れば、目的地にすぐにつけるから、落ちないように捕まっててね」
「走る!? あっ! クッキーちょっと待って、リュックを取って!」
「あっ、ごめんなさい。リュックね」
クッキーは、地面に置いていたリュックを取り、エミリーに渡し。エミリーを抱きかかえたまま、クッキーは走り出した。
もの凄いスピードで走り、木をすり抜けて行く、というよりも。木がクッキーを避けている。
山小屋のある目的地まで2時間かかるところが、たった5分で着いてしまい。あまりの速さに、景色を見る余裕さなく、驚いているエミリーだが。エミリーの目の前には、1軒の山小屋が建っていた。
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