前王の失踪(6)

 エミリーは、自分の部屋に戻る時に開ける引き戸の前に立ち。引き戸を開けた。

 今迄まったく気づかなかった。右側の壁を懐中電灯の光でかざすと。大人の親指くらいの穴が2つ開いている。机の引き出しと同じ仕掛け、そう思い。人差し指と親指を同時に入れると。壁の板が横にスライドし、下へ続く階段が見え。懐中電灯を照らし、階段を下りて行くと。

 すぐに、平たんな道になり。周りは石壁で覆われ。冷たい空気の中をしばらく歩いていると。視線の奥には、行き止まりなのか壁が見え。前に進むと。行き止まりの壁、と思いきや、よく見ると内鍵がかかっている。内鍵を外し。家来達がいないか、念の為にゆっくりと引き戸を開けてみた。

 すると、誰もいない。しかし、目の前には大きな石が前を塞ぎ、行き止まり。と思ったが、右側から太陽の光が差し込んでいるのに気づき。少し前に歩き、右側を見ると外が見え、外に出られる。左側は石壁があり行けない。右側に3歩進むと。

「えっ!? 何これ!? すごーい。この景色、今迄で見たことがない」


 エミリーが見ている景色は、大自然の大きさ、周りの山々。秋の終りだが、紅葉の美しさ。景色といえば限られた風景と風景画でしか見たことがなく。これが本物の景色というものなのか。

 初めて城壁の外を見て、その圧倒さに足元は崖ということも忘れ。その場にあった石に座り。しばらく、その景色を眺めていた。


 20分くらい経ち。エミリーは立ち上がり、真下を見ると。100メートルくらいの崖。そこから目を先へやると。森が見え、ここからどうやって崖を降りればいいのか、と思った時。

 ふと右側を見ると。人ひとり通れる真っ直ぐな道が見え。とりあえず、この先に何があるのか確かめに行ってみると。100メートルくらいの所に大きな石があり、行き止まり。右側には城壁がそびえたち。左側をよく見ると、足元の先には。斜め左に曲がり、道が続いていた。

 その道を行くと。何だか、さっき通った道の方角へ戻っているようで。しかし、少しずつ下っているようでもある。

 また100メートルくらい行くと大きな石があり、行き止まり。しかし、足元の先には、斜め右に曲がり、また道が続いている。この時、エミリーは思った。この道はジグザグに進む道だと。


 これでやっと、この城の敷地から出られる。前王を探しに行く見通しが経ち。一旦、エミリーは自分の部屋へ戻り。旅の支度を始めていると。扉をノックする音が聞え。慌てて、服などをベッド中に隠し。

「どうぞ、入っていいですよ」

「王女様、失礼します」

 扉を見張っていた、家来の1人だった。

 もしかしたら前王が帰って来たと、エミリーは思い。家来の所へ駆け寄り。

「お祖父ちゃん、帰ってきたの?」

「いいえ、そうではありません……。王妃様がこれを」


 家来は皿を持ち、皿の上には食べ物が。王に内緒で持ってきたと言い。エミリーはその皿を受け取り、伝言を頼み。

「お母様にありがとうと伝えてください。それと、私は大丈夫。お祖父さんは、必ず私が探し出しますと、伝えてください」

 家来はそれを聞き、部屋を出た。


 エミリーは、持ってきた食事を食べながら、泣いていた。お母さん、ごめんなさいと呟き。食事をすませ。前王の部屋に行き。旅に必要な服とズボンとリュックを借り。ついでに、コンパスと懐中電灯も借りた。あとは、食糧を準備だけ。

 料理研究室でパンやお菓子を作り。食糧の準備が終り。懐中時計を見ると、午後5時。後片づけをして、綺麗になったことを確認し、自分の部屋に戻った。


 いよいよ明日の朝、午前9時には、エミリーはこの城を出る。この城を出て前王を探すことは、この城で二度と暮らすことはできないことを意味する。その覚悟があるか、エミリーは自分を問い正していた。


 確かに、お父さんとのいい思い出はない。それでも両親には感謝している。しかし、1番のよき理解者で、私に夢を持つことを教えてくれたお祖父ちゃんを見捨てるわけにはいかない。エミリーの心は決まり、早めにベッドに入り、眠った。

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