お菓子との出会い(4)

 エミリーは、レシピ通りに3種類の生地を作ることになり。前王はここで、何事にも段取りが重要だと言い。次の段取りは、3種類の生地を同時に作る。そこで、効率よく作業をするには、型抜き用の生地は冷蔵庫で1時間寝かし。アイスボックス用の生地は、冷凍庫で1時間寝かす。この待ち時間を利用して、寝かす必要のない絞り出し用の生地を絞り、焼くことをエミリーに伝えた。

 すると、段取りを知らない、言われたことだけをやってきたエミリーは、前王が段取りのことを話していなければ、1時間何もせずにいたと言っていた。


 エミリーは、絞り出し用の生地以外は、冷蔵庫、冷凍庫に入れ。絞り出し用の生地を絞り袋に入れると。絞り袋が大きく、生地を入れると重たく、絞るのが大変。そこで、少し小さめの絞り袋を用意し。鉄板の上に何度も絞るうちに、少しずつ慣れ。

 丸の形や細長い形、文字を形とった物やいろんな形を作っているうちに、だんだんと楽しくなっていた。

 次は、生地がのった鉄板を石窯に入れ、焼きに入り。火の扱いに慣れるまでは、当分、前王の指示通りにすることになり。エミリーは石窯の前に立ち、かなり暑い。そんな中、生地の焼き具合を見たり、温度計を見たり、キッチンタイマー気にし、石窯とにらめっこ状態。


 そんな中、焼き上がり。前王の指導のもとで上手に焼き上がり。焼き立ての匂いは、初めて食べたクッキーよりも甘いいい匂いがする。

 レシピには、クッキーは冷ましてから食べると書いてあるが。熱いのと冷ましたのでは何が違うのかは、書いていない。

 疑問に思いつつ、あまりにもいい匂いだったので、つい焼き立てを食べた。

 すると、何故か、サクサクしない。どこで間違えたのか。それともこれが違いなのか。 そのことを前王に聞くと。

「クッキーは焼き立てだとやわらかいから、冷ましてから食べたてみなさい」


 この後、食べ物にはちょうどいい頃合いがあって、料理にも言えることだが、温かいスープもあれば冷たいスープもある。ちょうどいい温度が存在する。熱々だと舌が火傷し、何を食べたか分からなくなる。だからといって冷めすぎると、しょっぱくなることもある。料理はそれだけ奥が深いことを知り。

 エミリーが8歳の頃、王に見つからないように隠れて何度か、城内の調理場に行ったことがあった。その時、前王が料理を作っているその際に、何回か味見をさせてもらった。しかし、クッキーを作る時は、一度も味見はしていない。何故、味見をしなかったのか。疑問に思い聞くと。

 完成してからじゃないと味はわからない。お菓子の多くがそうであるから、基本のレシピが大事ということだった。


 しばらくして、地下室へ残りの生地を取りに行き。1日寝かした生地と1時間寝かした生地がどう違うのか。

 テーブルの上には、いろんな型抜きの型があり。〇、△、□、☆、動物の型、アルファベットの型、花の型も。何か見ていて楽しい。いろんな型を使って型抜きし。アイスボックス用の生地をカットし。鉄板の上に生地をのせたら、前もって準備していた別な石窯に別々に入れ焼き。

 先程と同様に、前王と一緒にエミリーは火加減を見ている。1度に2つ作業をしたことはなかったので気配りが大変。


 そんな中、焼き上がり。焼き具合も上出来だった。

 クッキーを冷ました後、エミリーは。1日寝かした生地と1時間寝かした生地と、比較してみると違っていた。


 1時間寝かした生地は、サクサクして美味しい。しかし、パリッと感が足りない、ポロッとこぼれる感じでキメが荒い感じがする。

 それに対して、1日寝かした生地は、キメが細かく、サクサクしてパリッと感があり、こちらの方がより美味しい。

 型抜きの生地は、冷凍庫で寝かすと早く固まるのではと聞くと。冷凍庫でも生地はできるが、やはり生地をなじませるには、冷蔵庫がいいということだった。

 それぞれのクッキーを食べ比べてみて、いろんな表情があり、良さがある、そうエミリーは思い。


「エミリー、クッキーを作った感想は?」

「楽しかったけど……」

「けどって、やはり面倒くさいとか、難しいとか、あるのか?」

「……そうじゃなくって、それもひっくるめて、作るのは楽しかった。私ね、私が今までどんだけ周りの人に迷惑をかけたのかなって、思ったの」


 エミリーは愕然としたわけだから、やはりそこが気になっていたようで。


「確かに、真っ直ぐなところや集中力は凄いけど、それはそれでいいことだが、それだと、自分だけ良ければそれでいいという考え方をするようになってしまうことがある。それではダメなんだ。一旦立ち止まり、周りを見たり、周りに配慮や気配りも大事にしないと。あと、そうだな、優しさや思いやりを忘れないことだな」

「それって、お祖父ちゃんの口癖だよね」

「そうだっけ!? 気がつかなかったな。年のせいかな。おじちゃんも食材探し夢中になると、あまり人のことは言えないか。気をつけないと。あまり周りに気をい過ぎるのもよけいなお世話って、こともあるからな。そこが難しいけどな」

「わかった。私、頑張るね。あっ、お祖父ちゃん。今度はいつ食材探しに行くの?」

「今度は、そうだな……夏だな。あっ、そうだ。メアリーにアイスクリームを作って上げる約束だったな。忘れるところだった。まぁ、メモしてるから大丈夫か」

「アイスクリーム!? そういえば、冷たいお菓子のページに書いてあった。私も食べて見たいなー」

「エミリー。おじいちゃんは、夏に食材探しに行って帰ってきたら、当分は新しい野菜や果物を育てたり、この国の土地を開拓したり、土地改良をする予定だから忙しくなる。そこで、夏までの3ヶ月間で基本になる40種類のお菓子のレシピを教えるから、やってみるか?」

「やってみる。どこまでできるかわかんないけど」

「大丈夫! エミリーならできるに決まってるだろう!?」

「本当に!?」

「本当だとも。なってたって、わしの孫だからな」

「わかった。私、頑張るね!」

「そうと決まったら、スケジュールを組まないと」

「スケジュール!? って何?」

「そっか、そうだったな。よし、わしが見本を作るから、それを見て自分なりのスケジュールを作って見なさい」


 すると、前王は鍵のかかった部屋に行き。そこから、手提げ袋を1つ持ってくると。それをテーブル上に置き、中身を出すと。その中身の名称と使い方を説明し、使うように言い。

 その手提げ袋の中身は、何も書いていないノート2冊と。ペンケースの中には、鉛筆2本と消しゴム、ボールペンの黒と赤。それと定規に小さな鉛筆削り。あと24色の色鉛筆。そして、ウサギの絵が描いてある手提げ袋も一緒にもらい。この時、エミリーは思った。世の中は広い。私の知らないことが山のようにあるのだと。いや、山がたくさんあるのだと。

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