デマ

 武漢から広まったとされるコロナウィルスの肺炎で、いくつかのイベントが中止になり始めたころ、私が参加していたある団体から、26~27度でウィルスは死ぬとか、お湯を飲むといい、運動するといい、という情報が拡散されてきた。発信元として、武漢にいる友人の医師からだ、という情報があった。

 参加団体のメンバーについて、私はまだそこまで詳しく知らなかったので、その情報元については、よくわからなかった。

 明らかに奇妙な点が1つあった。もし26~27度程度で死ぬのであれば、人間の体内に入ったら死んでしまうだろう。身体の表面温度だけでも死ぬかもしれない。私はひとまず拡散するのは控え、両親に、入ってきた情報についてどう思うかと訊いてみた。

「そんなわけないだろう。デマだ、デマ。SNSでそんな情報拡散する奴は死刑だな」

 あっさり否定した父は、私が疑問を持ったところと同じ点を指摘する。

 死刑にするかどうかという問題は、父がどうこう言うような立場ではないが、父はどうもSNS全般に対して、相当否定的だ。その理由として挙げる内容の1つが、デマやフェイクニュースだった。

 必要なときに、必要な情報がきちんと届かない。だが、それはすべてではない。SNSはときに、本当に必要な情報を知る手助けもしてくれる。問題は、その情報の正誤判断が難しい点だろう。

 今回の件は論理的に考えればちょっと変だと気づく。けれども、いかにも本物らしくつくられた合成写真だったら、わからないかもしれない。

 結局、流れてきた情報は流さず、ただ、その団体において私は発言する立場にはないので、実質、無視するような形で対応していた。

 そうこうするうちに、スポーツクラブでの集団感染が話題になった。もしかして。私は、ニュースの放送を聞きながら、これは件のデマと関連があるかもしれないと考える。だれかが流した情報に踊らされて、実際にお湯を飲むとか、スポーツをするといった行動をとった人たちがいなかったとは言いきれない。

 発言しないといけなかっただろうか。

 デマだろうと反論するなら、反論するための証拠が必要ではないかとも思う。私は医学については、まったくの素人だ。権威者の発言らしく見せかけたデマに対抗するには、同じく権威を引っ張り出すか、明確な論理で突破しなければならない。

 嘘の情報を流す奴は死刑。

 父の言葉が思い出される。もし、何か間違った情報を意図的に流した人がいたとして、その情報を、信じ込んだわけではなく流した人がいたとしたら。そして、それが少なくとも、実際の感染や被害に繋がったとしたら。

 発信元を特定しづらいインターネットの世界だ。最初の発信者を割り出すのは、容易ではないだろう。ネットの世界は、中国が絡むと追跡ができなくなるとも言われている。政府が全部監視していて、隠してしまうから。

 中国人が、日本人を陥れるために発信した可能性もある。あるいは、賄賂を受け取った人物が、中国人の友人の医師からだと、その人物の写真つきで情報を拡散してほしいと言ったかもしれない。

 拡散しろと書かれた文章は危険だ。嘘をつく人物は、拡散されれば嬉しいはずだ。もちろん、中には正しいから早くみんなに知ってほしいと願った「拡散して」という依頼もある。

 どちらかというと、「これがみんなのため」と、慈善的に見せている情報のほうが、危険度が高いように見える。「私は困っている」と言っている人物も問題があるかもしれないが、「被災地がこんな状況だ」という動画つき情報には、誤りは少ないように見える。また、有料の情報を買ってもらうための布石として表面に出している情報には、割と有益なものが多い。

 SNSにしても、それ以外のインターネット情報にしても、顔出し情報のほうが信頼度は高い。発信した本人が特定されてしまうので、基本的にあまり変な発信をしないように注意するから。

 とはいえ、2次拡散、3次拡散となってくると、ただ情報を信じてしまったための拡散が混ざるので、必ずしも正確とは言えなくなる。そういう意味でも、やはりインターネットに流す情報には、ある程度、責任を持つ必要があると感じる。死刑にできるかどうかはともかく、追跡不可の情報を受けつけないシステムを構築するとか、何らかの対策が必要だと感じた1件だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今を映して 桜川 ゆうか @sakuragawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る