第17話 着替え

 シュウは広げた服を一つ一つ説明していく。当然、袋に入った下着はそのままクリスに渡し、開き方を教える。


「これはブラトップというらしい。ブラジャーとキャミソールが一体になったようなもんだ。その上に、この七部丈のTシャツを着てくれ。あと、脚はこのデニムパンツな。裾が長かったら、折り曲げるといい」

「うん、この貼ってあるものとか、括り付けてあるものは?」

「あ、そうだな。剥がしておくよ。下着についてたら、それは自分で頼む」


 シュウは、下着類から順に着られるように並べ替えると、クリスに手渡す。

 受け取ったクリスは脱衣場に入り、カーテンを閉めて着替え始めた。


 衣擦れの音が聞こえ始めると、しばらくしてクリスの唸る声が聞こえる。


「うーん……」

「どうした?」


 クリスの困ったような唸り声にシュウが慌てて尋ねると、クリスからは思いもよらない返事が返ってきた。


「腰回りがあまり過ぎて、ずり落ちちゃうの」

「まじか⁉︎」


 思いもよらない返事にシュウはベルトを買ってくるのを忘れたことに気がつく。

 確か、自分が使っている布製でリングが二個ついたベルトがあるはずだと、慌ててクローゼットから取り出すと、脱衣場まで持っていく。

 クリスは既にカーテンを開いていて、片手でデニムパンツのウエスト部分を絞るようにして持って立っていた。確かに、五センチ近く余っている。


「ベルトで固定するしかないな。ちょっと失礼するぞ」


 そう言うと、シュウはベルトループにスルスルとベルトを通し、二つのリングで固定した。


「あ、これなら大丈夫。ありがとう」


 クリスはニコリと笑顔を見せると、少し恥ずかしそうにシュウに尋ねる。


「どうかしら、似合う?」

「ああ、雑誌モデルみたいでとても綺麗だ。でも……」


 恐らく一六〇センチ程度あるクリスでも裾が余ってしまっている。

 シュウはクリクリと踝よりも数センチ上くらいの位置まで裾を捲り上げた。


「これで完璧だな。すごく似合ってるぞ」


 シュウは自分で選んだ服に間違いはなかったことを確信した。

 明るい灰色の七分袖Tシャツの下、襟の部分からは黒いブラトップのストラップ部分が少し見えていて、ノンウォッシュのデニムパンツとの配色がいい感じだ。

 このままコサージュとかつけたらもうムジクロの服に見えないレベルかも知れない。


「ほら、後ろの洗面台に鏡があるだろう? よく見てみてくれ」


 シュウの言葉を聞き終えるまでもなく、クリスは反転して洗面台の鏡を見る。


「まあ、素敵。

 さっきね、テレビっていう機械に映る女の子たちの服を見て研究してたの。こんな着心地なのね……」


 クリスはキラキラとした目をしながらシュウに向かい、片足を引いて頭を下げた。

 スカートを着ていないから簡易な挨拶カーテシーなのだろう。

 彼女なりの感謝の気持ちがこもっている。


「まだまだだ、あとはサンダル。これを履いてみてくれ」


 フローリングの部屋なのでそのまま歩かれると下の住民に迷惑がかかる。

 シュウは素早くタグを外すと、玄関までクリスを連れて行く。


「これは……?」

「サンダルなんだが、こうしてストラップで足首に固定するんだ。サイズは一般的なものにしているから履けると思う」

「ありがとう」


 クリスは座り込んでサンダルに足を入れ、ストラップで固定していく。

 サイズ感はちょうどよく、すらりとした脚が更に長く、美しく見えた。


「うん、完璧!」


 シュウはクリスに尋ねられるより先に感想を伝え、親指を立てた。

 クリスは慣れないサンダルを履いて立ち上がると、ストラップの締めが甘かったのかぐらりと蹌踉めいた。

 ちょうどシュウが立っていた方向だったので、難なくシュウがクリスを受け止める。


「ありがとう」

「いや、それよりも楽な靴も欲しいところだな……先ずはスニーカーから買うのもいいかもな?」


 クリスが独りで立てることを確認すると、シュウはサンダルのストラップを締め直してから、自分の靴を指す。

 クリスのいう「試練」を見つけるためには長距離を歩くこともあるだろうと考えると、スニーカーになるのは仕方がない。


「シュウさんが履いているような靴?」


 スニーカーと言っても色々と種類があるが、思っているイメージは伝わるのでシュウも頷く。


「そうそう。元の用途に応じて種類がいろいろあるから、その中から自分に合ったものや好みのものを選ぶといい」

「ふぅん……」


 クリスも説明が長くなりそうなことを察知して、理解したフリをする。

 クリスがいた世界には、特にスポーツという概念がない。靴の種類はせいぜいが男性用と女性用、あとは職業別に違いが出る程度だ。その意味では、用途に応じた種類というのは職業別に異なるというのに近い。


「服に合わせて靴を選ぶというのもあるな……そういえば、女性の場合はパンツルックの場合は先が尖った形、スカートの場合は先が丸いものを履いている人が多い気がする。

 でもまぁ、最初はデニムパンツに合わせるんだから、スニーカーだな」


 シュウは独り納得すると、部屋の扉を開いてクリスに声を掛けた。


「さて、買い物に出掛けようか」

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