Last Scene

ビールは遠慮なくいただいた。

まだ夕日が落ちきっていないのに、二人してなかなかの量を飲んでしまった。


「忍野さん、片桐先生の受け売りなんですけど。」


「なんだよ。」


「廻り廻って無になる、って片桐先生のご友人は言っていたそうなんです。僕らの存在も、友情も感情も。」


すると、さっきの木枯らしに吹かれた木のような姿はどこへやら、僕の思っていた通り、彼は大声をあげて笑いながら言った。


「ははーん、そんなの大嘘だよ。かっこ悪いなそいつ。

廻り廻ってもなにも消えない。絶対なにも消えるわけないんだよ。」


「そうですよね、そうですよ。」

大嘘だ、と笑ったのを聞いて、僕は本当に心からそうだと思った。



 彼が憧れたその気持ちは、少年から大人になっても消えなかった。


 彼が一生をかけて愛するべく出会った人は、もう会う事ができない憧れの人とつないでくれる奇跡の存在だった。


 それだけでもう十分だ。廻り廻っても、何も消えやしない。


 誰も知らなくても、ずっとそこに存在する事実だ。


 そんな奇跡と愛情で、きっとこの世界は成り立っているはず。

 


 この世界は思いの外、僕らに優しいらしい。


 

「なあ村中、そろそろ帰ろうか。」

 


「帰り道に、お花屋さん、ありましたよね。」





リンドウは今の時期、置いてある花なんだろうか。



Fin

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