Scene10

「おい、起きろって、なあ、ごめんってさっきは。おい焼きナスってば。」


「鳶さん、狸寝入りしないでくださいって、僕らが悪かったですよ。」


とんだ勘違いだったわけだから、謝らないことにはこの人は拗ねたままだろう。でも、あそこまで脅かすこともなかったろうに。


「君たちさあ、なんなの、強すぎるよ。」


「悪いな、つい、若い頃の思い出が、な。」


どんな思い出だよ、鳶さんはあちこちをさすりながら立ち上がる。


「鳶さん、片桐先生から紹介というか、なんだか変な形ですが、会ってくるように言われてきました。忍野さんが、人を探しているらしくて。」


忍野さんの強烈なストレートがはいった右頬を押さえながら、わかったわかった、と彼は言った。


「大体の話は片桐さんに聞いてるよ。あの人も人が悪いよなあ。それとなく伝えておいてくれないと困るよ。探してるっていうのは初恋の人だろ、君の予想からして何歳なのさ、ていうか、どこ住んでたの。」


「俺さ、転勤族だったんだよね。だから住所覚える前に引っ越しちまって、お別れ。歳はなあ、その人の娘さんが俺と、三つ?いや違うな、五つか、そう、五つ違いだったんだよ。だからまあ、五十くらいじゃねえの?」


いや、転勤族でも住所くらいは覚えましょうよ、と言おうとして思い出したが僕も番地を間違えることがある。ごくたまに、稀に。


「まあ、東京ってことは確かだな、よろしく頼むよ、探偵さん。」


「もうちょっとなんか思い出してくれないと、探しようがないんだよなあ。」


それもそうだ。いくら凄腕の探偵でも、東京と、五十くらい、と言われたところで手がかりが少なすぎる。


「あ、思い出したぞ。」

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