Scene9

あの後、鳶さんには毛布をかけて逃げて来たわけだが。


「忍野さん、あなた何者ですか。」


「は?何者ですかって。そりゃあお前、塾講師だろうが。」


いや、それはそうなのだが、さっきの立ち振る舞いはどう考えたってただ者じゃないだろう。


「ちなみに言わなかったですけど、前に車で出かけた時の車庫入れは一般人にはできませんよ、一発で入れたの見てましたからね、僕は。」


「まあ、あれだ、独学だよそれは。で、ボクシングは具志堅、背負い投げは大学のサークルだよ、先輩に教わったんだ。背負い投げってのは意外と簡単なんだ、っつって。」


「具志堅って、具志堅用高ですか。」


「あったりまえだろ、ボクシングで具志堅って具志堅用高だろうが。」


何かをすごく誤摩化された気がするが、とりあえず帰ろう、二人でそう言って帰ることになった。

すると突然、苦い顔をして言う。


「俺さ、初恋の人を探してる、って、片桐先生にも話したことあるんだけどよ、片桐先生の知り合いに、殺し屋と探偵やってるやついるらしいの、まだ若いらしいんだけど。そいつに会いに行かなきゃいけないんだけどさ、村中、一緒に来てくれたりしない?」


ぼりぼりと、頭を掻きながら恐ろしいことを口にするこの人に、単独行動をさせることは許されない。


そしてそれはあれじゃないか。

さっきのあれだろう。


「忍野さん、それきっと、さっき僕らがコテンパンにした彼のことだと思うんですよ。」


「いや、俺もそうなのかなあ、とか思いながら相手してたわけなんだけど、な。」


そういって二人でUターンしたのは言うまでもない。

片桐先生、忍野さんには事前の説明がないと。しかも殺し屋の知り合いってなんなんだあの人まで。


忍野さん、襲ってくる人には容赦ないんですから。

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