Scene5

そんなことを思っている間に業者の事務所に到着したようで、ビルのなかに入っていく忍野さんを追いかける。


「おい村中、ほんとにお前、ここで合ってんのかよ。」


「どうしたんです?」


「いや、だって、『令嬢』って。ここ、令嬢の子会社だろうが。あの、薬物で若者べろべろにして連れ去って、金しぼり取るとかいう。そんで金なくなったら殺しちゃうとかいう。」


そうだ。『令嬢』といえば、薬物の密売、詐欺、そして最終的に殺しちゃうとかいう会社だ。政府や警察と分厚いパイプが通っていて、捜査などの手がはいることはまずないという。


「忍野さん、帰りましょうか、高校の資料くらい、どうにでもなりますって。」


「だよな、帰ろう、ほら、俺まだ死にたくないからよ。」


めずらしく息ぴったり意見が合致したところで、たったいま登ってきた階段を上ってくる、嫌な、というか、嫌すぎる予感しかしない足音が聞こえてくる。

この狭いスペースの中では帰る方法も、隠れる術もない。となると、もう、令嬢とは部外者の誰かがやってきたことを願うしかない。


「あれあれ、誰かいるなあ。お薬、欲しいのかなあ。」


ああ忍野さん、今日はご飯一時間食べててもよかったです。


「どうもドミノピザです、って、 あ。」

忍野さんもこんな顔するんだなあ。


「忍野さん、それはマズいですよ、僕らさっき彼に会ったところですから。」


ああ、副流煙だ、と思った時にはもう、いかにも、といった感じのハンカチで口元は覆われており、受動喫煙は免れたかわりに、二人仲良く意識を失うこととなった。

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