Scene4

僕は自分の授業がないとき、忍野さんの授業をたまに見る。


もちろん生徒の前で偉ぶったり、ましてや教師らしくしている姿なんて一度たりとも見たことがない。至っていつもの調子なわけで。


「いいかお前ら、古典なんてな、しょうもねえ日記だとか、妄想でしかないラブストーリーとか、浮気性の男の話とかな、楽勝なんだよ。ちょろいって。」


初めて見た時はこれはマズくないか、と割合に本気で上司に相談しようかと考えたことだってあった。


「お前な、枕草子とか、忠実にニュアンスをとらえて現代語訳すればな、春はあけぼのがいいよね~。とか言ってんだぞ、腹立つだろうが。」


発言ひとつひとつにパンチがありすぎて、我々の立場からすればヒヤヒヤするのだが。

それでも、このタイプは今までにない、というかあり得ない教師の姿だったからか、生徒からの人気も高く、苦手意識を持つ事の多い古典という科目でも、成績を伸ばしてくる生徒が増えたのは大きな事実だった。


自覚のない凄腕、というわけだ。


「この作品、いつ頃書かれたと思ってんだよ。いま二十世紀だぞ。すごいだろうが、昔どころじゃねえよ、大昔だよ。そんでもってむかーしむかし、とか言うんだぞ、ハンパねえんだよ古典は。」


言い方こそ雑だが、彼は彼なりに古典を愛しているようだった。

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