第5話

そして、とうとう舞踏会の日が来てしまいました。計画の仕込みは昨日の時点であらかた終わらせているので、いつも通り、隣の部屋にいるお嬢様を起こしに行きます。


「お嬢様、朝ですよ。起きてください」


「むにゃあ、あとごふんだけねかせて~」


さっきより強く揺すります。


「お嬢様?今日は舞踏会ですよ。早く起きてください」


「すうー」


 この後五回ほど起こしてようやく起きました。珍しいですね、お嬢様がこういうイベントの時に後五分の睡眠をねだるなんて。いつもなら、一回目でシャキっと起きて万全の状態で望もうとする、お嬢様らしくないです。

 

 その後も些細な違和感は募っていきました。靴下を左から履いて、スープではなくパンから先に食べるなど、長年仕えてきた僕にとって、イレギュラーなことばかりしています。ただ、僕と二人きりになったときの口調やその辺はあまり変わっていないので、単純に緊張しているだけかもしれないです。なんせ、一世一代の大舞台ですから。お嬢様の支度をする傍ら、着替えなどを侍女に任せている間などを縫って、着々と準備の点検を進めていきます。電気系統のスイッチに細工したり、ちょっと石の偽物を作ったり。


 ただ一つ気掛かりなのが、予告状を作るときに、判子は再現できなかったので、多少いい加減に作ってしまったのですが、まあ、サルビア嬢も騙せたので問題ないとみていいでしょうか。予告状をだすだけで、お嬢様の結婚がなくなると思ったのに、サルビア嬢のせいで実際に盗みを実行する羽目になってしまいました。でも、ほぼ確実に成功するはずです。そうするために必死に知恵を絞って考えました。絶対に成功させて、お嬢様を守る。そう強く思いながら最後の仕掛けを施しました。

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