第2話

 それから、お嬢様の侍女が「いつまで遊んでいるの!もう寝なさい」と、僕を追い出しに来るまで、僕とお嬢様はたくさん遊びました。暗い自室に追いやられた後も、お嬢様の光を感じられるぐらいに。

 でも、お嬢様の光は陰っていた。お嬢様らしくもない、お嬢様が嫌う、ただのベコニアになってしまうぐらいに。


「あたし、結婚なんかしたくないよ。もっとずっと一緒にいたいよシュウ」


…駄目です。どうしても部屋を出る前に聞いた、ベコニア(・・・・)の一言がどうしても頭から離れません。僕はベコニアお嬢様に仕える執事です。だから、お嬢様を守らないといけません。たとえ、御館様に仇なそうと。その一心で一通の手紙を認めました。

 今流行の怪盗の名前でも出せば、舞踏会はなくなり、お嬢様の結婚もなくなるはず。そんな若造の甘い考えが、あんな事態を引き起こすなんて、ぼっくはまだ予想もしていませんでした。

 翌日、朝早くから起きた僕は、まだ寝ているであろうお嬢様を起こしに行きます。ああ、やっぱり寝ていました。もしも僕が、お嬢様の恋人であったなら、口づけでもっておこしたりするのかもしれませんが、僕らの関係は貴族令嬢と、一使用人、そんなことできる訳もないので、普通にゆすって起こします。


「ほら、お嬢様、朝ですよ。起きてください」


「うぅん、あとごふん~」


揺すられたら、寝返りを打ってあと五分をねだる、いつも通りのお嬢様をみてほっと息をつきます。特別な行事の時以外は、惰眠をむさぼることが大好きな困った娘なのです。

 さて、閑話休題。十分後、ようやく起きたお嬢さまと、食堂で朝ご飯をいただくことにしました。


「あら、おはようございます。ベコニア、シュウカイドウさん」


「おはよう、ママ。昨日はクッキー、ありがとうね。おいしかったわ」


「おはようございます、ラベンダー様。珍しいですね、こんな時間にここにいらっしゃるなんて」


 食堂に着くと、ラベンダー様が一人、お茶を飲んでいました。ラベンダー様は、元は貧しい農民の出ですが、生まれ持った才能を御館様に見込まれ、ここに嫁いできた万能なお方です。僕たちのことをしょっちゅう気にかけてくれる優しい人ですが、生まれのせいで発言力が低い不遇な人でもあります。


「ごめんなさい、二人とも。ベコニアが嫁ぐという話を止められませんでした。」


そんな不遇な人が頭を下げています。なんか申し訳ないです。


「いいのよママ。どうせ、お父様に逆らえるわけもないんだから、ママのせいじゃないわ」


「そうですよ、ラベンダー様。こうして、ベコニア様のことを気に掛けていただいてるだけでも有難いというのに」


「うぅ、皆も私のこと無力だと思っているのね。うわーん」


そう言って、ラベンダー様は食堂から走って逃げてしまわれました。


「あーあ。シュウがいじめるから」


「僕は、ありのまま思うことを言っただけですけれどね。実際、裏で手をまわしているそうですよ」


「沈黙の奥方の異名は伊達じゃないってことね」


 そんな些細な出来事はありつつも、大きな事件も起きないまま3週間経ちました。式や舞踏会の準備も一家総出で進める中、一通の手紙が届きました。

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