アングレカムの花束を君に(旧題 挑戦状)
馬瀬暗紅
第1話
「一ヶ月後、お前の16歳の誕生日に、成人を祝うパーティを開く。その日にお前の婚約を発表する。相手はハナズオウ家の長男坊、ボタンだ。王者の風格を持つという彼なら、きっとベコニアにぴったりだろう」
「・・・わかりました、お父様」
「どうした、ベコニア?おまえが嫁いで子を成せば、ハナズオウ家はもはや我が一族になったも同然のこと。こうして家の発展に貢献できることに、何か不満でもあるのか?」
「いいえ。このベコニア、精一杯お勤めを果たそうと思います」
「ふん、まあいい。部屋に戻れ」
みなさま初めまして。僕は、アジサイ様が長女、ベコニア様に仕える執事のシュウカイドウと言います。どうぞよしなに。
さて、お嬢様が御館様に呼ばれて、早数十分。ようやく、お嬢様が部屋に戻ってきました。
「あ、お帰りなさい、お嬢様。御館様との会談はいかがでしたか?」
「...」
お嬢様が無言でソファーに倒れ込んで、虚ろな目で床の一点を見ています。困りました。お嬢様の元気がないようです。取り敢えず、紅茶とお茶菓子のクッキーを出してご機嫌取りをしましょうか。
「ほ、ほらお嬢様、お茶はいかがですか?ラベンダー様から上等なクッキーを頂いたんですよ」
「どうせ淹れているのでしょう、頂くわ。お母様のクッキーもね」
ソファーの上で横になったままお嬢様が答えます。よかった、淹れたお茶が無駄にならなくて。
「分かりました。では、もう少々お待ちください」
ちょうど蒸らし終えた紅茶に砂糖とミルクを加え、クッキーと共に差し出します。
「ありがとう」
ソファーから体を起こしたお嬢様が、カップをその小さな両手で持ち上げました。けれど、たった一口飲んだだけで、手を止めてしまいました。そして目を伏せると、感情の抜け落ちた口調で呟きました。
「ねえ、シュウ。わたし、ここには後一ヶ月も居られないんだって」
驚きすぎて、言葉の処理ができません。え?何でお嬢様が他家に?だって...
「長女だからよ。お父様はハナズオウ家を吸収するつもりらしいわ。だから私を送って、実情を観察させるつもりなのよ。『その方がお前のためになる』なんてまるで偽善みたいな口調でね」
浮かんだ疑問に答えるように、お嬢様が淡々と補足説明をしてくれていますが、全然頭にはいりません。
「だから、来月の誕生日パーティで色々するみたいよ。私がムーンストーンを引き継いで、ハナズオウ家の長男との婚約を発表すれば、大方の人は吸収を連想するでしょうね」
そう言ってお嬢様は、パンッと手を打った。
「さ、こんな重たい話はもうお終い!残り一ヶ月、たっくさん楽しみましょう」
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