第1拳【人が選べるのは生まれ先ではなく生き方である】


 下級食民は日々奴隷の様な扱いを受けていた。


 この世に生を受ければ死した者の〝補充要員〟となり、たとえ命尽きようとも奴隷としての義務は続く。


 時には、中級食民の嗜好に利用される〝標本〟


 時には、上級食民を美しく彩る〝飾り物〟


 そこに一切の尊厳等なく都合の良いように


 徒党を組んで立ち上がる者はおれど、圧倒的〝主役級かちぐみ〟の前では無意味となる。


 しかし、そんな無秩序な世界でも〝救世主ヒーロー〟は必ず居る……誰かが、そう願ったとき彼は動き出した。




 ★




〝食の工場Eブロック〟


 都市から数十キロも離れた荒れ地にあるレモン約30万個が収まる巨大な建物。


 ※1個7.5cm計算


 ここでは主に、〝E級食民〟とレッテルを貼られた者達が数多く収容されている。


 冷たく頑強な壁に覆われ、何者の逃亡さえも許さぬ鉄壁の奴隷施設。


 門番は監視缶D級食民が1人の24時間交代制であり、辺鄙へんぴな土地が災いして、暇な日々を過ごしていた。


 ヘマをしなければ〝E級〟へと落ちる事はないし、何よりはしている。


 訪れる者は数年といない上に奴隷の入れ替え以外の出入りはない。


 そこに頭から爪先まで包装紙ローブを被った1人の訪問者が現れた。


 ガタイが良く長身それしか特徴が分からない。

 ましてや〝前日予約アポ〟等ないし、来るものはここ最近いなかった。


 監視缶は疑問と頬を膨らませながら、数10Mは離れたその者へと汁口じゅうこうを向けた。


 口からあふれでる程の液体は枯れた地面へと滴り落ち、多大なる栄養のおかげか小さな花が咲いた。


 監視缶は睨み付けながら

『何だてめぇは?ここは奴隷が働く場所と知っての事か?ここはなぁ……ぐわあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……』


 人生最後の遺言セリフを言い切る事はなく、城壁に上半身が埋まる監視缶かんしかん


 中距離から監視缶を仕留め歩みを進める男の拳は、辺り一面に充満する程の蒸気を発していた。


 建物内の誰かが異変に気付き、施設中に鳴り止まぬ警報と地を揺らす程の人の群れが謎の訪問者に迫る。


『『『ウオォォォォッ!!!』』』


 難攻不落の城門が開き、D級食民達で組まれた兵隊共、その数……十……否……百強を余裕で越えていた。


『何だあいつは……新手の解放軍か?』


『いいからが来る前にとっとと殺っちまおうぜ!!』


 そんな物騒極まりのない声と殺気、無数の汁口じゅうこうが、1人の訪問者に向けられる。


 当たらぬ様に威嚇口撃こうげきをするが、その者は臆する所か歩みを止める事なく進み続ける。


 ある時、誰かが呟いた――


『ここで青果せいかを挙げれば……E級に落ちない……』と。


 その一言が火種となり豪雨の如く、無数の〝弾汁だし〟が無抵抗な1人を襲う。


 辺りには先ほどよりも濃い蒸気と兵隊共の呼吸音だけが響く。


 兵隊の1人が『フンッ!!たかだかに最底辺とはいえ、〝Eブロック〟が陥落かんらく等するものか!!』


 一斉口撃から数秒後……兵隊達はある言葉で青褪あおざめる事になる。



 『〝発攻はっこう1斤いっきん-食挙しょくぱん〟』


 そう呟いたのは他でもない……絶体絶命の口撃を受けたはずの者。


 口撃が包装紙ローブに当たり、顔があらわになった。


 焦げ茶の髪と同色の瞳、加えて白装束を思わせる風貌。


 あまりの衝撃的な事態に固まり怯える兵隊達に『どうやらココは客に対して手厚い歓迎をするようだな。アクがひどくて飲めたスープじゃないがな?……』


――と、男は笑みを浮かべながら言った。








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