第13話『公園(9)』
公園を出た後、春の夕焼けに染まる県道沿いの帰り道を隆志とちづるは並んで歩いていた。
道中、北風が何度も音をたてて二人に吹きつけた。
隆志は時折寒そうに手に吐息を吹きかけていたが、ちづるは全く寒そうではなかった。
「お前、寒さに強いんだな。」
一旦立ち止まってマフラーを巻き直しながら、隆志はちづるを見て感心したように言った。
ちづるはそれを手伝いながら、
「寒さには、強い方かもしれません。」
少し微笑って答えた。
「そうなのか。なら、何であの時倒れていたんだ?」
マフラーを直すと隆志は不思議そうに尋ねた。
するとちづるは少し俯いて、
「‥あの時は、すごく疲れていたので‥。」
小声で答えた。
「‥そうか。まあ疲労プラス寒さには誰も叶わないだろうからな。」
隆志は笑ってそう言うと、再び歩き出した。
ちづるも表情を戻し続いた。
その後、二人が家の近くにまで戻った時、
「そうだ、」
隆志が思い出したようにちづるに言った。
「お前、苗字どうする?」
「苗字、ですか?」
妙な表情をしたちづるに、隆志は説明した。
「今日会った朝也、伸太郎、カオリ以外の人には、お前の事は自分の従兄妹だと紹介するつもりだ。だから念の為、お前に親戚の苗字をつけようと思ってるんだ。」
「‥そうですか。」
不思議そうに頷いたちづるに、隆志は腕を組んで言った。
「‥自分も大分考えたけど、きりがないからお前に決めてもらう。‥豊田と達川、どちらの苗字が良い?」
隆志の問いに、ちづるは少し考えてから答えた。
「日野が良いです。」
「日野?」
驚いた隆志に、ちづるは笑顔で続けた。
「私、この町に長くいます‥。その間、苗字だけでも隆志さんと家族で居たいんです。」
ちづるの言葉に、隆志は少し思考しやがて、
「分かった。」
頷き、笑顔で言った。
「今日からお前の名前は日野ちづるだ。いいな?」
「はい!」
ちづるは満面の笑顔で頷いた。
寒気の中、暖かい風が吹いた気がした。
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