第10話『公園(6)』


「でもさ、」

笑った隆志に、今度は伸太郎がこめかみのあたりを掻きながら尋ねた。

「家族じゃない人が暮らしてたら、近所から妙な目で見られない?」


素朴な質問に、

「そこも大丈夫だ。」

隆志は即答した。

「あいつは自分の従兄妹って事にしている。」

「従兄妹?」

掻いていた指先をふっと息を吹きかけながら妙な顔をした伸太郎に、隆志は続けた。

「家族の事情で、一時的に居候していると近所には話している。みんな簡単に信じたから大丈夫だ。」

「ふーん、なるほどねー。」

伸太郎は納得したように頷いた。


すると、

「ただ‥。」

隆志は不意に表情を難しくした。

「どうした?他に悩みでもあんのか?」

朝也の尋ねに、

「ああ、」

隆志は頷くと、口調も真剣にして答えた。

「ちづるの苗字をどっちにしようか悩んでいる。」

「苗字?」

「どちらの親戚の苗字を使おうか、まだ決めていない。」

隆志の真剣な言葉を聞き、朝也は笑いながら言った。

「そんなの大丈夫だろ。両方の親戚とも海外とか遠くに住んでるんだろ?なら苗字を使っても別に迷惑はかけないだろうさ。」

朝也の言葉に、隆志は腕を組んだまま再び真剣な口調で、

「迷惑かけるとか、そういうので悩んでるんじゃない‥。」

「?じゃ何なんだ?」

「豊田か達川か、ちづるに相応しい親戚の苗字はどっちなのか悩んでるんだ‥。」

「‥‥。」

どっちでも良いだろうがと、朝也はアホらしく思った。

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