第5話『公園(1)』


隆志とちづるが共に暮らしはじめてから、十日目の朝のこと。


「隆志さん、」

朝食の最中、ちづるは新聞を読んでいる隆志に言った。

「後で、公園に行きませんか?」

「ああ、いいよ。」

スポーツ面に目を通しながら、隆志は頷いた。


その後昼過ぎに二人は家を出、公園に向かった。

外は綺麗に晴れて空気も澄んでいたがその分肌寒かった。

隆志は茶色の冬服と灰色のマフラー姿、ちづるは黒のセーラー服に赤のスカーフ姿だった。

隆志宅から公園までは1kmほどある。

二人は並んで道程を歩いた。


「…早いものだな。」

歩きながら隆志はちづるに話しかけた。

「お前と出会って、そして共に暮らしはじめてからもう十日か。」

「はい。」

「何故だか、依然としてお前に関する情報も人も現れないな‥。」

「‥。」

少し表情を曇らせ俯いたちづるに、

「でも気にするな。」

隆志は微笑んで言った。

「不思議と、お前とは自然に生活出来ているからな。最近では、このままずっとお前がうちで暮らすことになっても良いとすら思うようになってきた位だ。」

隆志の言葉に、

「本当ですか。嬉しいです。」

ちづるは笑顔を見せて言った。

その笑顔に隆志は心が和らぐ感じがした。


「それにしても、」

隆志はちづるの服装を見ておかしそうに言った。

「お前いつもそれ着てるな。」

ちづるは赤いスカーフに指先を触れながら答えた。

「この服装が一番好きなんです。」

「そうか。ま、うちは女物の衣類がおふくろのしか無いからな。」

言いながら隆志は腕を組むと、

「今度、お前用の衣類を買いにいくか。」

思いついたようにちづるを見て言った。

「それ一着だけだと色々不便だろうから、せめて部屋着位は何着か買おう。」

「‥良いんですか?」

恐縮そうにちづるが言うと、隆志は笑顔で、

「良いんだよ。お前しばらくこの町にいるんだろ?」

「はい。」

「なら決定だ。‥金なら心配するな。うちは裕福な方だからさ。」


きっぱりと言った隆志に、ちづるは笑顔で、

「ありがとう隆志さん!」

嬉しそうにお礼を言った。

喜んだちづるを見て、まるで実の妹のようだと隆志は思った。

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