第7話 氷雪の神狼




『さあ旦那様、私たちの子供だ。可愛がってやってくれ』


 キュンキュンと鼻を鳴らす三匹の真っ白な子犬めいた何かを、補助腕を使ってかいぐりたおす。可愛いは正義。よい時代になったものよのう~




 どーも、ワガハイ=グッドハズバンド・キャットです。


 自称ニョーボは、吾輩に迫るほどのサイズの純白の犬だか狼だかで、配達の途中で襲われていたのを助け、怪我で気絶していたので秘薬をぶっかけて鹿爺に預けたやつだ。


 仕事を終えて様子を見に戻ってみれば、このザマである。


『氷雪の、漆黒のはこう見えて賢い。素直に助けを求めた方がよいぞ』


 そうなのです。吾輩は賢いのです。

 大体、助けたときにはすでにお腹が大きかったし、いくらファンタジーとはいえ猫である吾輩と犬っぽいニョーボとは子供は作れない…… よね?


『い、いや。私は、この子たちは間違いなく……』


 言いよどむ純白犬の頭を補助腕でわしゃわしゃして黙らせる。

 白犬を襲っていた黒犬は、ルートの関係上でルークシティに持ち込んだところ、女史が飛び上がって喜んで高額で買い取ってくれたし、もふもふの動物は嫌いではないし、子犬が育ちきるぐらいになれば白犬も好きなところに行くだろう。それぐらいなら、母子の面倒をみてやってもいい。


『やれやれ、漆黒のは甘いのう。まあ、そこがいい所でもあるんじゃが。氷雪の、漆黒のはわしらの言葉は分かるが、自分の考えを伝えることができん。おぬしが文字が読めるのであれば別じゃがの。まあ、しばらくは甘えるがいいわい』




 さて、ひょんなことから自称ニョーボができたわけだが、吾輩にも仕事がある。ルークシティの女史の旦那さんに頼まれた、森林妖精と岩石妖精の集落とルークシティの三か所をぐるぐると回るルート配送だ。


 三週間かけて三か所を回り、一週間休んでの繰り返しである。正直、自分で使う分のお小遣いだけでいいのでお金を持て余し気味のため、ルークシティの孤児院(幼女のママンはシスターだった)やら、鹿爺やらへのお土産にもそれなりに費やしているが、まだまだ余裕があるのだ。


 というわけで、これを機会に巣を作って内装の充実を図ろうと、ルークシティへむかった。




「フェ、フェフェフェフェ!?」

「ま、待ってくれネコチャン。いま、ギルマス呼んでくるからっ」


 門前にたどりつけば、いきなり門番の一人が壊れた。

 身を低くしてグルグル唸るニョーボを撫でくりまわし、好奇心の赴くままあちこち嗅ぎまわる三匹のチビたちを補助碗で抱き上げて待つことしばし、ギルマスがやってきた。

 そして、盛大なため息をついた。


「なぁ、ネコチャン。お前、俺を困らせるのが趣味なの?」

「ネコチャン、久しぶり。なぁに? お嫁さん見せに来たの? わぁ、子供可愛いね~」


 貫録を出すためにと似合わぬ口ひげを生やしたギルマスの背後から、ひょっこりと顔を出したのは、年頃の娘さんに成長した元幼女である。例の事件が縁で、孤児院を卒業してギルドの受付嬢見習いとして働いているらしい。


『買います/買う/購入』


 人間種の言葉も追加されたプラカードを見せると、ギルマスは何かをあきらめた表情で、「ああ、はいはい」と頷いた。


「女史はいま産休で商会の方にいるから、そっちに行ってくれ。あと、嫁さんか? そっちのフェ…… 白いのが、街中で暴れたりしないように頼むぜ。何かあったら俺の首が物理的に飛ぶからな」


「じゃあギルマス、私が先導しますね。いこう、ネコチャン」


 元幼女に肩を並べて門をくぐると、背後でギルマスが門番とブツブツとこぼすのが聞こえた。


「ギルマス、あれって……」

「分かる? やっぱあれ、Sクラス魔獣のフェンリルだよなぁ……」

「Sクラス…… 一匹でもルークシティが壊滅するレベルなのに、大丈夫なんですか?」

「心配するだけムダ。そもそも、ネコチャンがSSSクラス扱いだからね。俺たちじゃ祈るしかないよ……」

「そういえば、こないだSクラスのインフェルノガルム狩ってましたもんねぇ」

「綺麗に首だけへし折ってあったから、女史が大喜びだったよ」

「さすがは鉄槌の勇者、心臓に毛が生えてるんですかねぇ」

「おいおい、ばれても助けないぞ」




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