第2話 暗黒大森林の黒き覇王
暗黒大森林。
数千年に至る大陸人類種の歴史においても、未だに手付かずまま残る秘境にして、数多の魔物蔓延る大魔境である。
大陸中央部を占める広大なかの森は、長年に渡って人類種の迅速な交流(戦争含む)を妨げてきたわけだが、ついに暗黒大森林を統べるモノが現れた。
それは、暗黒大森林の黒き覇王である。
と、まことしやかにささやかれるようになった。
ドーモ、ミナサン。ワガハイ=ポーター・ブラックキャット、デス。
アレから大体一年がたった。この世界の暦がどうなっているかわからないが、一応、四季が一巡りしたので大体一年である。
今、吾輩は運び屋として山盛りの荷物を担いで、
普通の流通経路だと、森を大きく迂回して、
その辺、吾輩が全力でやれば往復でもわずか一週間。岩石妖精が加工した強靭な革鞄に、森林妖精が重量軽減の魔法をかけて装飾を施した、妖精の鞄による合わせ技で、三者ウィンウィンウィンのハッピーな商売が成立したのだ。
字面を見ての通り、森林妖精はエルフっぽい奴、岩石妖精はドワーフっぽい奴だ。
岩石妖精は、ドワーフとほとんど同じかんじだ。
鉱物と酒と腸詰めと芋を愛し、ミナルア山脈と呼ばれる巨大な岩山を堀抜いて集落を作っている。
金属を主体に様々な加工を得意とするのだが、硬いはずの鉱石を、陶芸家が粘土を捏ねるかのように素手で練って不純物を取り除く様は、一見の価値があるだろう。
物理法則?
なにそれ美味しいの?
みたいなノリで、両手にモイモイしたエネルギー(魔力?)を纏わせて、素手で坑道を掘っていく理不尽な生き物だ。
幸いなことに、頑固ではあるが陽気な気性で、声が出せない吾輩相手でも辛抱強くコミュニケーションをしてくれたおかげで、友達づきあいが出来ている。
森で狩ってきた魔物や、植物なんかを買い取ってくれるので、それでほしい物を買ったり出来るし、そこそこお小遣いもたまっている。
そして、彼らが作ってくれたある物のおかげで、森林妖精とも付き合いができるようになった。
森林妖精は、森と植物と精霊を愛し、弓と精霊魔法を得意とする種族だ。
金髪碧眼に細身の体で、人間基準で見ると美形揃いのため、奴隷狩りにあうこともあるという。
耳のところから花びらが数枚伸びていて、水と植物と日光浴で生きることができ、適齢期になると樹木化して実を付ける=子供を産む、植物に近い存在だ。
里山のように樹木を管理しながら、時がくれば自身が木になってミセリアの領域をひろげて行く、侵略性外来種のような存在でもある。
彼らとの出会いは、空腹になった吾輩がミセリアの果実を採ろうとしたところを見つかって、こっぴどく叱られたことから始まった。
この時に役に立ったのが、岩石妖精の作ってくれたプラカードである。
はい、いいえ、わからない、ありがとう、ごめんなさい、の五枚セットから、ごめんなさいをかざして森林妖精の攻撃をしのいでいたら、なんとか吾輩が知性ある存在だと気付いてくれた。
そして長い説教のあと、プラカードが岩石妖精語だけでは良くないと、書き足してくれた。
なんと、岩石妖精語だと、おう、いや、しらん、助かる、すまん、程度の雑な印象になるらしい。
新たに書き足された森林妖精語は、肯定、否定、不明、感謝、謝罪、の堅苦しい感じになるのだと、岩石妖精に教えてもらったが。
そんな感じで、両者に縁のできた吾輩はその特産品、森林妖精の布製品や植物由来の薬品などと、岩石妖精の宝石や貴金属を使った装身具や装備品などを、あり得ないほど短時間で届ける運び屋として、お小遣いを稼いでいるのだ。
ちなみに、獣人種は吾輩を見ると震え上がって動けなくなるか、ひっくり返って腹を見せるので、ほとんど付き合いがない。
獣耳と尻尾だけの奴から、直立する獣のような奴、哺乳類のみならず、爬虫類や両生類の特徴をもった、様々なケモノの階段の奴がいる。
人間種に至っては、全くダメだ。冒険者風の武装した奴らしか見てないが、問答無用とばかりに襲いかかってくるか、悲鳴をあげて逃げ出すかの二択だ。
動かずにこちらの様子をうかがう斥候職っぽい奴もいたのだが、嬉々として鞄から挨拶用のプラカードを選んで取り出して掲げたら、すでにはるか彼方までトンズラされていたときの徒労感といったら……
ついでに、見た目が子供のような種族もいて、岩石妖精からは見たら泥棒と思え、といわれる
ミニデアの魔法使いなら、鞄に容積拡張の魔法をかけられるとのことなので、暇なときにでも集落へ行ってみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます