吾輩は猫…… だよね?
たはら
第1話 吾輩は猫…… だよね?
ムキムキである。
何を言っているかって?
だからムキムキなのだ。
吾輩は、たぶん転生したのであろう。
前世の記憶といえば、二十一世紀の日本で生きていたことと、一人寂しく趣味に没頭した、吾輩にとっては最高の、人生であったということだ。最後の瞬間はちとあいまいだが、こたつからでてユニットバスに向かった、はず。
で、まあ、気が付いたら深く暗い森の中で倒れていた。
立ち上がろうと体をひねったら、全身が動物の長毛に包まれていることに気付いた。手も足も胴体も、もっふもふである。
狭い和室でおじいちゃんが土下座したり、白い部屋とか教室で駄女神からチートを貰ったり、勇者募集の外れ枠として放り出された記憶もないので、ただの生まれ変わりなのだろうか?
色々試してみた結果、このケモノボディは直立できないことはないが、やはり四つ足移動に適していることが分かった。
意識が人間なせいか前足もそこそこ器用に動くのだが、本気で細かく動かそうとしたところ、肩のあたりから毛が寄り集まったかのような補助碗が生えた。
こちらは試しにと九字護身法の印を結んでみたら、人間のとき以上に早く器用に動いた。
え?
なんでそんなに知っているのかって?
ニンジャじゃないよ。
「宗教漫画ブームのはしり」といわれる某漫画にはまってたからね。
あと尻尾。
しっぽながい。
たぶん、
とりあえず、補助碗で触っただけではどんな頭かもわからないので、水場でも探そうかと鼻をクンクン鳴らしてみた。
すごい。
水のある方角が分かる。
体感的に五分も歩いたら、湖にたどりついた。
ケモノたちが水飲み場にしているようで、色々な種類のにおいが残っている。
思っていたよりもきれいな水だ。
ひょいと水面をのぞき込めば、そこには巨大な……
ねこ…… だよね?
真っ黒な毛皮に瞳孔のないエメラルドの瞳。
肩のあたりから巻き毛のようなかんじで補助碗がくりんと生えている。
尻尾は雪豹のように長く、ごん太。
顔は、マヌルネコっぽい?
吾輩は猫…… だよね?
もっとよく見ようと身を乗り出したら、どぶんと水に落ちた。
泡を食って湖から脱出。
水にぬれた毛がぺったりと体に張り付いて……
ムッキムキである。
モフモフしているときは気づかなかった。
マヌルネコのように見えたまん丸ボディは、お相撲さんのような擬態だった。
お相撲さんが鋼の筋肉を脂肪の鎧で包んでいるように、吾輩もまたガチムチボディをモフモフで包んだエセまん丸ボディだったのだ。
いや、まあ、そろそろ現実を受け入れよう。
ぶるぶると体をゆすって、水気を弾き飛ばす。
動転して「吾輩」とかいっちゃっているが、二十一世紀の日本で「吾輩」を普段使いにする人はいないんじゃないかなと思うんだけど、なんだか座りがいいので以後も自分を吾輩と呼称しよう。もとの名前、思い出せんし。
周囲の植物と比較した感じ、吾輩はたぶんクマ並みに大きい。
軽く腕をふるっただけで、木の幹に深々と爪痕が刻まれるくらいに攻撃力も高い。
助走なし、爪も立てずに、ひょいひょい木を登ることもできた。
嗅覚も聴覚も人間よりはるかに高性能。嗅覚とか、植物動物金属問わずに分かるし、聴覚もなんかゆんゆんした感じの音(?)や、コウモリかなにかの超音波らしきものも感じ取れた。あ、水をなめてみたけど、味覚もちゃんとある。
ただし、声がでなかった。
一度全力で叫んでみたが、なにかゆんゆんとしたモノが放射されてはいるのだが、ワンともニャーとも鳴けないし、それどころか枯葉を踏んでも足音もしない。
試しに爪とぎをしてみたが、意識しないとあのバリバリという音が出ない。
どうも自分の生み出す音を自動的に消しているみたい。
まあ、なんにせよ生まれ変わってしまった以上は、でっかい猫(自己暗示)だとしても、生きていかねばならない。
幸いなことにケモノですもの、衣食住のうち衣は自前の毛皮があるし、住も雨除け程度があればよい。
今も日当たりのよい地べたでへそ天を決めているが、背中が痛いということもなく快適である。
あ、うとうとしてきた。
寝そう。
ごはんどうしよっかな~
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