第53話
ぱちん、ぱちん。
何かを軽く叩くような音が忙しなく響く部屋の中。
粗方涙を拭われた目元が少し痛いし、頭がぼんやりするのは泣きすぎたから、だけではないだろう。
何せ、私は兄達の腕の中で、兄達と大人達が睨み合っているのを眺めているのだ。
そりゃあもう、ぼんやりしたくもなる。
どうしてこうなったかをさくっと言ってしまえば、引き離された兄妹の再会(城への不法侵入と破壊を伴う)である。
どうしてこうなった?
いつまでも状況に変化がないので、そろそろいい加減打開策を考え始めないといけないな、と。
現状を整理してみる。
私は特上の待遇で軟禁(異論は認める)されていた。
アインスとツヴァイはどちらも親族に引き取られたが、何らかの方法でーー何かしらの魔法を使ったか、勘に頼ったか、その他なのかは分からないがーー私の居る場所(城の一室)を突き止め、迎えに来た。
大人達(警備の人やメイドさんなど)は騒ぎを聞き付けてやって来て、部屋の惨状を見て、アインスとツヴァイ(もしかしたら、私も)を捕らえようと先日私達を昏倒させた魔法を使っている。
これで、魔法が効けば二人が昏倒して、また話がふりだしか。もしくは、より悪くなるという流れだったのだろうが、私の兄達は優秀だ。それはもう、とんでもなく優秀なのだ。
前回から三日程度で何らかの対策を取れるまでになっているらしく、放たれる魔法が全く効いていない。
苦労する様子もなく、私を可哀想だ可哀想にと頭を撫でたり手を握ったりして、表面上はーー実際には意識していないはずがないがーー完全に大人達を無視しながらの無効化である。やっている方はどうあれ、やられた方は腹が立つだろう。
それでも、相手はあくまでも大人で。
こちらはどこまでも守るべき子供という扱いらしく、傷付けないよう配慮されているのが分かる。
私でも分かるのだから、頭の良い兄達も分かっているだろう……分かっていて、この態度なのはまあ、察しはするけれど。
膠着した状態が続いて、もう時間単位で時が過ぎている。
魔力切れなどはしないものなのだろうか?
平然としている兄達の腕の中で可哀想だと可愛がられながら、もう一度大人達を見てみる。
向こうとしても、何故この子供達が未だに魔力切れを起こさないのか、と不思議に思っているようで、顔が「解せぬ」という色で塗りたくられている。
対話については先日の延長戦のようなものが向こうから一方的に投げ掛けられ、途中からはアインスとツヴァイの親族も追い付いてきたようで参加し、部屋の中の人口密度は高い。
本来の出入り口である扉は人の壁で完全封鎖されているが、アインスとツヴァイが破壊した窓と天井は空いたままなので換気は十分。
さて、どうしよう。
逃げるにしても追っ手がかかるのは分かりきっているし、逃げ切れるかは分からないし。
かと言って、この場に留まり続ければ、いずれは兄達も魔力切れを起こして結局は捕まるだろう。
となれば、第三の手として大人達とどうにか和解した上で、何とか三人一緒に居られるようにお願いしたいのだ。
したいのだが、向こうの言い分は先日と同じ。この膠着状態が始まってからずっとテンプレート再生されているので難しいだろう。
他に何か手があるとすれば、パワーis力。
兄達に力押ししてもらい、この場を制圧するとか?
いやいや、それは流石に乱暴が過ぎる。
明らかに子供相手だからと加減をしている大人に対して通用するかは、まあ、やってみないことには分からないのだが、上手くいくかは微妙なところだ。
降参すれば、間違いなくまた振り出し、もしくはより良くない結果になるだろうし……何かしらの条件や要求は出せないだろうか?
どこかでお互いに妥協出来る、落とし所をつけないことにはどうにもならない。
では、その交渉をする為にはどうしたらいいか。
まずは声かけから!
と、兄達に声を掛けようとして、口を開く前に事が動いた。
何故か大人達が左右に分かれて、一本の道が出来上がり、アインスが私とツヴァイを庇うように立ち塞がる。
そうすると何が起こっているか見え難い。
こそっと様子を伺うように顔を出して、目が潰れるかと思った。
魔力過敏再び!?
とにかく眩しくてアインスの影に隠れて目をしょぼしょぼさせていたら、ツヴァイも同じようなことをしているので、あれ?
これはなんか違うな?
魔力過敏じゃないなら何なんだ、と顔をもう一度出してみるが、やっぱり眩しくて引っ込み
「み、ミル……大丈夫?」
目をしょぼしょぼさせる姿も可愛らしいツヴァイの心配に対し、正直大丈夫ではないが「だいじょうぶ」と言ってはみたが、眩しすぎ……アインスは大丈夫なのか!?
慌てて、服の裾を遠慮なく引っ張って「だいじょうぶ?」と聞いてみれば
「大丈夫だ。特に問題はない、が」
アインスは若干不思議そうな顔を此方に向けて
「何故、全員目を瞑っているんだ?」
不思議そうに聞いてくるので、え、なんで? 眩しくないの? なんで?
となった私を責める人はこの場に居ないと思う。
しょぼしょぼのままのツヴァイもどう控えめに言っても眩しそうだし、アインスの言う全員に大人達が含まれるなら、それこそ本当に皆が眩しいのだ。
何故、アインスは眩しがらないのか。
よりも先に、何故、眩しいのか。
その答えは
「やあ、子供たち。随分とやんちゃなんだってね、聞いたよ。みんなからね」
聞き覚えがないが柔らかい響きの声だった。
「なるほどね。君たちは一緒に居たいんだね、分かるよ。直接血が繋がっていなくとも、家族は家族だもの。でもね、みんなの話も聞いてあげてほしいんだ。みんなもね、君たちの家族だからさ」
独特な言い回しにアインスが神妙に頷いているのはグランツヘクセの国王だ。
何百年か、それより長い歴史があるとされるグランツヘクセの初代にして、現在に至るまでずっと玉座に座り続けている生きるレジェンド。
二次元でお馴染みの「不老長寿」というやつで、尚且つ魔力もえげつなく強いらしい。
そう、えげつなく強い魔力を持っているので、普通に対面すると目が焼けかねない。色んな意味で太陽のようなお人なのである。
そんな凄い人がどうして此処に来たのか。
よりも先に、どうやって対面で話せるようになったか、なのだが。
簡単に言えば、デバフ効果がある飾り物をたくさん着けた。これだけだ。
これだけで、何とか眩しいのは眩しいけれど、何とか目を瞑らずにーーとはいえ、視線は自然と下に向きがちになるのだがーー済む範囲に治まった。
で、話を戻して。
どうして、そんな国王様が私達に会いに来たのかと言えば
「ね? もう喧嘩はやめて、仲良くしよう」
喧嘩の仲裁である。
そもそも、今までのやり取りが喧嘩の範疇になるのかが謎なのだが、国王様が仰るには子供(私達)と子供(大人達)の喧嘩になるようで。
あえて、誰もツッこまないのでそういう事で良いのだろうか。
丁度、子供(私達と大人達)同士の間に立っている国王様の後ろで、ただ黙っている子供(大人達)の顔色を窺うが、うん。言いたい事はたくさんありそうだ。
そうして、視線を眩しく輝いている国王様の居る方に戻す。
どうして国のトップが子供(大人を含む)の喧嘩(でいいのか?)の仲裁に来たのか。
そりゃあ、騒がしかったのは間違いないから気付かないわけはなかったのだろうけれども。それにしても、直で来なくても良かったのでは。事が大きくなりすぎて、処理が追い付かない。
一応、話を聞く姿勢でいてくれる国王様に対してアインスは冷静に話が出来ているが、普通に国の王と話せる精神、すごい。
改めて、兄の大物っぷりに驚く。
「そもそも、これは喧嘩ではないです」
本当に大物だなぁ!
素でツッこんでるんだもんなぁ!!
きっぱり言い放ったアインスはつらつらと相手側の一方的な言い分は受け入れられない旨と、自分達は三人だけでも生きていけるという主張を話して反応を待つように口を閉ざした。
眩しすぎて顔色を窺うのも難しい国王様は、これに対して
「何にせよ、子供が子供だけで暮らすのはね、難しいよ。どこであってもね」
全うな返答である。
「とにかく、君たちの家族は君たちが心配で大人の庇護下に居てほしい。君たちは三人一緒に居たい。そうだね?」
これはざっくりお互いの意見を並べるなら間違いがない。
アインスはまだ口を閉ざしたままだし、周りの大人達も口を挟まない。
「じゃあ、一先ずうちに住むかい? 部屋ならあるからね」
唐突な路線変更である。
流石に周りの大人が騒ぎ出したし、アインスも何ともいえない表情で私とツヴァイを見て
「どうする?」
困ったような響きの問いかけにツヴァイもやや眩しそうに目を細めながら首を捻り、私も目をしょぼしょぼさせたまま同じように首を捻る。
お城に三人で住めるというなら、希望は叶うわけなのだが扱いはどうなるのだろうとか。
期間はいつまでなのかとか、色々と聞きたいことがあるのだが、そもそも大人達は納得するのか。そこが一番の問題なのだが。
「まあまあまあ。落ち着いて、みんな。まあまあまあ」
このお人なら押し通しそうだという雰囲気を、私は国王様から感じ取っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます