第47話

「はー、終わったー!」



動かなくなったモノを転がして、9番は肩を回した。

近くに動くモノは見当たらないので、一先ず優先してやる事は終えた。



「さーて、次は探しモノか! 俺、そういうのは好きじゃないんだけどな」



一番楽しくて性に合っているのは、やはり戦闘だ。

こうして機械を通した圧倒的質量での戦いも好きだが、やはり、命のやり取りは熱があってこそだろうというのは9番の個人的な嗜好である。


効率を重視する6番辺りが聞けば意見は分かれるだろうし、探しモノなんかはそれこそ几帳面な6番の得意分野。

こういうのはアイツに任せておけばいい、とも思うが、9番が割り当てられている仕事に対象の捜索と捕獲が入っている。


嫌だなぁ、とぼやきながら、捕獲対象の特徴を振り返る。


とにかくちっこくて、黒かった。

あんなにちっこいと、男か女かよく分からん。以上。


そう遠くには行けないだろうが、隙間やなんやに潜り込まれでもすると見つけるのが面倒臭い。

菓子か何かで釣れれば楽なのに、とステルス機能をオンにして機体を動かす。


探すだけなら身一つで行った方が楽。

しかし、相手は「魔法使いの子供」。


いくら小さくても、色の濃い子供だ。

どれだけの力があるかも分からないのに、気を抜いて近付くわけにはいかない。



「まあ、見逃すこたないだろうけど」



魔力が強ければ強いほど、探すのは簡単だ。

どれほど古い機体でも、魔力探知の機能だけはちゃんと付いている。


この鬼ごっこは勝ちが確定しているので、つまらない。

つまらないが、仕事は仕事だ。


するりと暗闇に溶け込みながら、注意深く辺りを探索して進む。

地味な仕事だ、性に合わない。


どうせなら、チェリーと当たりたかった。

あれは強い個体のはずだから楽しめるだろうし、第一優先ではないが捕獲対象には違いない。


あのちっこいのが強いようなら、それはきっと楽しい。

でも、強いならあのじいさん達を置いて逃げ出す理由が分からないから、多分強くない。


強くないなら、なんでお父様はあれが欲しいんだろう。

考えたところでお父様の思考を欠片でも理解するには至らないのだろうが。


適当なところで思考を放棄して、9番は魔力探知の反応を見る。

残滓であっても反応するので、散々魔法使いと遊んだばかりの今はあまり意味がないかもしれないが、一応反応はある。



「どこに隠れてるのかな、おちびちゃーん」



暗視装置の組み込まれた機体なのでライトは不要。

足元を眺めてみるが、それらしいモノは見つからない。



「出てこーい、早くお家に帰ろうぜー」



既に飽きてきて、投げやりに呟いてみるが素直に出てくるなら最初から逃げたりしない。

当たり前か、と仕方なく捜索を続けて暫く



「ん?」



やけに鮮やかな色が目について、立ち止まる。

場違いに明るいさくらんぼ色と並んで葡萄色、そして、探していた黒。



「チェリーもいんじゃん! やりぃ!!」



9番の弾んだ声が届いたのか。

一番に機体を目に映したのは、黒くちっこいのだった。











「チェリーもいんじゃん! やりぃ!!」



やたら元気の良い声音に、繋いだ手に力が入る。



「機動兵器……!?」



クルクが庇うように前に飛び出すが、視線が定まらない。

それもそうだろう、相手の姿が見えないのだから。



「ミル、僕の後ろに居てね」



ツヴァイも私を背中に隠すようにして辺りを見回し、私は私で声のした方を見つめた。



「あれ? 見えてるの、おちびちゃん」



また、声がする。

じっと見つめていると、ぬるりと機動兵器の姿が現れて、ツヴァイの肩が微かに震えた。



「おーい、返事は? おちびちゃん」



手を振るような仕草が奇妙で不気味だ。

反射的にツヴァイの背中にすがり付いて、身を隠そうとしてしまう。



「ミル、大丈夫だよ。僕が絶対守るから」

「おにいちゃん、でも」

「大丈夫。大丈夫だからね」



繰り返し言われても、震えている子供の大丈夫ほど信用ならないものはない。

身を離して意味もなく首を横に振るが、ツヴァイは此方を見てくれなかった。


それは私達の前に立つクルクも同じで



「お前か、ばあ様やじい様達を殺ったのは」



殆ど確信を得た問いに



「何か聞いたことあるな、それ。まあいっか。うん、俺だよ、じいさんばあさん殺ったのは。で? お前はどうしたいんだ、チェリー?」

「その気持ち悪い呼び方を改めてから、死んでくれ」

「辛辣~! そういう分かりやすい殺意、いいね。うん、俺もお前と殺りたかったから、丁度良い! 強いって聞いてるから、期待してるぞ……えーっと、何て呼ぶ?」

「一生呼ばなくていい。何も知らずに逝ってくれ」

「あは! 気が短いな! じゃ、殺るか!!」



機動兵器の方から聞こえる声は終始明るく、用件が終わると直ぐにしなるアームがクルクを襲った。

巨体に見合わぬ素早い動きに私は驚いて固まってしまったが、クルクとツヴァイは直ぐに反応した。


クルクはアームを器用に避けたし、ツヴァイは固まった私を引き摺って距離を取った。



「今の避けるかー! いいね、いいね! ついでに魔法見せてくれよ、凄いんだろ!?」



鞭のようにしなるアームが間髪入れずに襲ってくるが、クルクもツヴァイも魔法を使わない。

こんな時でも余裕があるんだろうか、凄いな。


あんなものが当たったら一溜まりもないだろう。

それが、ビシ! バシ!! と往復で来るのだから、見ているだけでゾッとする。



「おいおいおい! 逃げるばっかりかよ、がっかりさせないでくれよ!!」



これ以上はないだろうと思っていたアームのスピードが急に上がり、クルクはもろにそれを体に受け、吹っ飛んだ。



「「クルク!!!!!」」



ツヴァイと声が重なる。

慌ててクルクの元に行こうとしたが、ツヴァイに引き留められた。



「ミルは僕の後ろに」



そう言ったかと思うと、ツヴァイの姿が一瞬ブレた。

かと思うと、軽いその体が壁に向かって吹っ飛ぶ。



「おにいちゃん!!!!!」



咄嗟に伸ばした手は何の意味も持たなかった。

あっという間にクルクとツヴァイが倒された、その事実が自分の中で滞留する。



「クルク……おにいちゃん……」

「何だよ、全然強くないじゃんか。期待外れだなー」

「あ」

「おちびちゃん、お前は強いの?」



振り上げられたアームの動きが、やけにスローに見えて、アームの軌道が読めた。


ああ、当たるな。

他人事みたいにそう考えた時に、手の中に最後まで残っていたアイテムのことを思い出した。


私は強くない。

クルクとツヴァイを助けるどころか、自分の身一つ守れない。


だけど、強い人を知っている。

本当は呼んではいけない、特に機動兵器の居る場所なんかで呼ぶべきじゃないと分かっている。


でも、こういう時の為にコレを渡してくれた、はずだ。

きっと、助けに来てくれる。


迷う猶予は無かった。

私が出来たのは一つだけ。


手の中のコレを地面に落とす、それだけだった。

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