第41話

どうも、初の魔法発動を喜んでいいのか。

いやこれ、アイテム(お守り)の効果! とツッコミを入れるべきかに悩みながら、再度がたごと揺られています。


戦闘が終わったせいか、皆さんお疲れなのか。

恐らくは、そのどちらもだと思うのだけれど、揺れがマシになったのは私にとっては有り難いのですが



「しかし、まさかナーデルのミルがなぁ」

「ラクスのツヴァイと同じ、水魔法だと思っていたんだが……何にしても、お前は凄いぞ。その年であれだけの威力の魔法を使えれば、将来が怖いくらいだ」

「ああ、怖いくらい頼もしいな! ナーデルのミル、お前は立派な魔法使いになるぞ!!」



やんやと持て囃されてはいますが、全てはクルクがくれたお守りの効果で、二度目は無いんです。


確か、設定では一個につき一度だけしか使えないアイテムのはずで。

実際に、もうクルクから貰ったお守りは砕けて、破片が残ってはいるけれど、光は消えてしまっている。


それを早く皆に伝えたかったのだけれど、声を出しても誰かの声に被るやら。

何かしらの物音などが奇跡的というより絶望的なタイミングで割り込んできて、ちっとも伝わらないのだ。


しかし、これは非常にまずい。

とんでもなく、そりゃあもうどえらくまずい。


頼りになると思われたとしたら、それは大きな間違いなのだが



「あ「ナーデルのミルがいれば、安心だな!」

「ぅ「馬鹿、俺達はナーデルのミルを守る為についてるんだぞ」

「ぅ「それもそうだ! 守る相手に守られてちゃ世話がないな!!」



わはは、と朗らかな笑い声が重なり、そっと口を閉ざす。


今更、言い出し難い。

それより、この明るい雰囲気の中で絶望要素になりかねない事柄をどう切り出せば!?


頭を抱えたら、すぅっと血の気が引くような感覚がして、座っているのも辛くなる。

息が浅くなりそうになるのを、意識して深く吸い、吐く。


急に、何故?


貧血にしたってあまりに急で、一先ず固い鉄の上で丸まるようにして横になった。

鉄の冷たさとは違う寒気が背中を這った感覚がして、ぶるりと大きく震える。


魔法の件といい、この突然の体調不良といい。

言い出すに言い出せず、ただ黙って運ばれる。


このままで良いわけがなかったけれど、目眩まで起こり、我慢出来ずに目を瞑る。

そうしたら、最早お決まりとでもいうように意識がすとんと落ちてしまった。












「クルクの馬鹿! クルクの馬鹿!! 馬鹿のクルク!!!」

「五月蝿い! 集中しろ、馬鹿のツヴァイ!!」

「誰のせいでこうなったと思ってるんだよ、馬鹿! 馬鹿馬鹿!! 馬鹿!!!」



怒鳴りながらも汚水をまとめているツヴァイと、やむを得ず背中合わせのなり損ないな体勢で炎を広げたクルクを取り囲むように機動兵器が寄り集まっていた。


それもそのはずで、自ら囮になる為にクルクが加減せずに炎を灯したまま突き進んでものの数分。

熱源を感知した機動兵器がわんさか集まってきたまでは良かった。


狭い空間なので、せいぜい多くても二、三機相手にするつもりが、あっさり挟み撃ちにされた。

しかも、まるで待機列のようにずらずらと機動兵器が並んでいる様を見れば、ツヴァイの罵倒も仕方のないことだった。


相手は相手で、一機がダメになると躊躇いなく後ろで控えていた機体が壊れた機体を放り投げて前進してくる。

それも、ただ前進してくるわけでは決してない。


ワイヤーネットのようなものを飛ばしてきたり、アームを伸ばしてきたり。

攻撃というより、捕獲を目的にしているのは明確で、とても逃げ出せる隙がない。


最近になって魔法を使い始めたツヴァイも、こういった戦闘に慣れているクルクでも、魔力には限りがある。

ツヴァイの方は怒鳴る声も震えるほどで、間もなく限界が来るのは本人が一番良く理解している。


だからこそ、腹から声を出して意識を保ち、少しでも多くの敵を仕留めようとしているのは、クルクにも伝わっていた。

日常での言い合いより声が大きくなるのも、その声の震えも限界を示している。


何機目かを倒した辺りで、ツヴァイの身体から僅かに力が抜け、そのまま尻餅をつくようにして倒れる。

魔力切れだった。


青い顔で白い吐息を吐き出したツヴァイの喉がひゅっと鳴る。

咄嗟にクルクが振り返った時には、ワイヤーネットがツヴァイに覆い被さっていた。



「ツヴァイ!!!」



手を伸ばしたクルクも、間もなく背後から伸びてきたアームに掴まれて、捕獲される。



「くそっ!! ツヴァイ! ツヴァイ!!」



ワイヤーネットごと機体に収納されるツヴァイを呼んでも、返事はない。

意識がないのか、返した声が小さすぎたのか。


どちらにしても、クルクもツヴァイと同じように機体に収納される。

無論、抵抗はしたがアームの効果なのか魔法が使えず、魔法が使えないクルクはただの少年でしかない。


そんな少年がじたばたしようと、機体に揺らぎはない。

がしゃん、がたん。


音を立てて蓋がされ、暗闇の中でクルクは自分が収まっている狭い空間で何度も足を蹴り上げた。

がんがんと音は鳴るが、少しの隙間も開かない。


まずい、と散り散りに逃げた仲間達や捕まってしまったツヴァイ。

そして、今も逃げ続けているはずのミルのことを考えて、冷や汗がクルクの額を濡らした。



「くそっ!!!!」



もう一度強く蹴り上げても、ただ足が痛むだけだった。

だが、その無駄な足掻きでもやり続けなければ、クルクは気が済まなかった。



(ツヴァイの限界を見誤った俺のせいだ……!!)



二人で十分に対処出来ると思ったからこそ、囮になろうとしたのだ。

なのに、実際はどうだ。


二人とも善戦したとはいえ、捕まってしまっては意味がない。

こんなことなら、一機ずつ待ち伏せでもして始末した方が遥かに良かったと、今更どうにもならない現状に舌打ちし、今度は額を思いきりぶつける。


やはり、ただ額が盛大に痛むだけで、何も事態は好転しない。

コミュニティの中でまともに戦える人間は数えるほどしか居ない。


こんな時に、捕まるなんて。

ガンガン! と頭をぶつけ続けると、ぬるりとした感触が肌を伝う。


それでも、クルクは無駄と分かっている抵抗を止められなかった。











「チェリーとグレープの捕獲確認。このまま、本作戦目標の捕獲に移行する」



他の機体に指示を飛ばしたのは、今回のチェリーとグレープと仮名を付けた個体との遭遇がイレギュラーだったからだ。

戦闘経験の乏しい機主ばかりの中で、一人だけ古株だった6番は戦闘指揮を取らざるを得なかった。


チェリーは以前から何度となく機動兵器を葬ってきた魔法使いであると本部に記録がある。

炎の魔法を使い、幾度も「狩り」を中断させた、要注意であり、捕獲対象とされている個体。


グレープは記録にない個体だが、外見年齢からは想像がつかない水魔法の使い手で、先頃の「黒髪黒瞳」の捕獲に失敗した本部の人材の死に関わっているかもしれない。

その可能性と魔力保持量が規定を遥かに超えていることが確認出来た為に捕獲が決まった。


しかし、この2個体を捕獲する為だけに全体の何割かの機体が潰された。


溺死や焼死など死因は様々だが、それにしても規格外なのは間違いない。

父はきっと喜ぶだろう。


だが、忘れてはいけない。

父が命じたのは「黒髪黒瞳の子供」の捕獲であって、チェリーとグレープはあくまでも偶発的に遭遇し、捕獲に至っただけのこと。


今回の「狩り」での損害を考えても、本来の目的である「黒髪黒瞳の子供」を捕獲出来ないのは痛い。

恐らくは、チェリーがわざと魔法で機動兵器を呼び寄せたのは仲間。「黒髪黒瞳の子供」から我々を引き離そうとしたからだろうと想像がつく。


ならば、目標まではそう遠くはない。



「夜明け前までに何としても対象を捕獲する。急ぐぞ」



リミットを設けて、けしかける。

そうしなければ、我々全員が先に逝った者達の後を追う羽目になりかねない。

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