第26話
どうして、僕はこうも駄目なんだろう。
大事な物を忘れていって、くたびれているミルに無理をさせて。
手が離れてしまった時は頭が真っ白になってしまって。
追い掛けて来る大人達が、ミルに向かって行かなかったことだけは良かった。
とにかく僕の方に引き付けて、少しでもミルが逃げる時間を稼ごうとしてから、気付いた。
ミル一人でどうやって逃げるんだ。
致命的なミスの連続。
踵を返してミルを迎えに戻ろうとしてから、僕達を追い掛けて来た大人達がグランツヘクセの人間。
それも、コミュニティに関わる人間と知った時には遅すぎた。
「クルク! これはどういう事なんだよ!!」
「どうもこうもぉ、それは僕の台詞じゃなぃ?」
大人達の後ろの方、夜闇の中ぼんやりと浮かび上がるさくらんぼ色。
悠々と現れたクルクに噛み付くが、向こうは気にする様子もない。
「ラクスのツヴァイ。此処は危なぃ、さっさと皆と一緒に移動しなぁ」
「移動? 移動も何も、ミルはどうするんだ!」
「はぁ? 一緒じゃないわけぇ?!」
オレンジの瞳が丸くなり、大人達がざわめく。
「そういえば、もう一人居なかったか?」
「誰かが保護してるもんだとばかり」
「あーぁ、どっかではぐれたんだろぉ。皆さぁ、ちゃんと迎えに来たってすぐ言ってやったわけぇ?」
「いや、それは」
「そりゃぁ、大人が急に追っかけて来たら逃げたくもなるだろうさぁ。ラクスのツヴァイのことだからぁ、自分が引き付けてナーデルのミルを逃がすつもりだったんだろぉ?」
お見通しと言わんばかりの態度は腹が立つが、間違っていない。
渋々頷いたら、クルクは周りの大人の何人かにミルを探しに行くように。
残った数人には僕を安全な場所に送り届けるようにと指示を出した。
でも、僕は一人で安全な場所へなんて行くわけにはいかない。
ミルと一緒でないと。ミルは僕が一緒に居てあげないと。
手を引こうとする大人達を振り払って、クルクの腕にしがみ付いた。
「待ってよ! 大人に囲まれたら、ミルが怯える! 僕が迎えに行かなきゃ!!」
「僕が一緒に行くから平気だよぉ。さっさと行かないといけないからぁ、大人しく皆について行きなぁ」
「嫌だ! あんたに言われた通りにコミュニティを出たらこんな事になったんだぞ! ただ移動するだけって話だったじゃないか!」
「そりゃそうだけどさぁ? 今は説明してる暇ぁ、ないだろぉ? 誰かぁ、縛ってでも良いから連れてっちゃってよぉ」
「やめろ! 離せよ!! 僕はミルのところに行くんだ!!!」
クルクから引き離されて、腕を掴まれる。
じたばたと暴れたが、大人には到底敵わない。
あの時みたいに、と思ったら、動かなくなったミルの姿で頭の中がいっぱいになる。
あの時みたいに、あの時のように。
ミルが動かなくなってしまっていたら?
前は間に合った、でも今回も間に合うかなんて分からない。
「離せったらっ!!!!!」
頭に血が上った。
かたかたと音がして、あちこちで水の気配がする。
驚いたように僕を担ぎ上げようとしていた大人が離れていった。
「ラクスのツヴァイ、やめろ。今はそんなことをしている場合じゃないと言っただろ」
間延びした口調を改めたクルクが、入れ替わりで前に出てきた。
普通に喋れるんじゃないか、とこんな時ながらそう思いつつ
「僕はミルのところへ行く」
「連れて行くなら、収められるか?」
周囲を渦巻く水の塊を指されて、乱れそうな意識の手綱を握る。
「出来る」
「なら、連れて行く。全員で保護へ向かう」
「ボーデンヴァンデルン使用許可を」
「許可する。ラクスのツヴァイ、ナーデルのミルとはぐれた場所は覚えているか?」
「多分、覚えてる、けど」
「先頭、ラクスを抱えろ。ラクス、シュテルンの連中の前で名を明かすな。間違っても妹の名を呼ぶな、聞かれると後が面倒になるかもしれない」
「・・・・・・分かったよ、キルシェ」
「それを早く引っ込めろ。悪目立ちする」
「分かってる!」
大人に抱えられながら、下水らしき汚臭のするそれを元の場所へ還す。
それを確認すると同時に、世界が動いた。
違う、僕達は歩いてもいないのに凄まじい速さで移動していた。
「これ、なに?!」
「高速移動の魔法だ。目立つからあまり使用出来る機会はないが、今回は仕方ない」
それより、ちゃんと案内をしろ。
そう言われて、はっとした。
はしゃいでいる場合じゃないんだ。
ミルを早く迎えに行く為の魔法なんだから、道なんか間違えたら早く移動している意味がない。
一生懸命逃げてきた道を思い出して、案内をする。
あっち、こっちと指を指すと勝手に方向が変わる。
ひゅんひゅんと景色が流れて行って、僕が自分の足で走る何倍も。
十倍かそれ以上早くに、ミルとはぐれた辺りに着く。
「ナーデル」
「迎えに来た」
「出ておいで」
皆が口々に。
だけど、決して大きな声は出さないように気を付けてミルを呼ぶから、僕もなるべく大きい声にならないように呼ぶ。
「暗いな、明かりを」
「キルシェ」
「分かった」
夜の闇の中に、ぼぅっと小さな火がいくつも踊る。
僕の傍らにもそれはやって来て、うっすらと辺りを照らしてくれた。
「灯りは目立つ。早く探し出すぞ」
「ナーデル、どこだ」
「もう大丈夫だから、出て来なさい」
あちらこちらに散って呼んでみても、ミルは出てこない。
あんなにふらふらだったのに、一人で逃げることが出来たんだろうか。
同じように考えていたらしいクルクが、物陰を覗き込み始める。
ミルは小さいし、そんなに遠くまで行けないはずだと言うので、他の大人達も物陰を探す。
僕は地面を見下ろした。
ミルは小さいから、どこかで倒れていたりしないかと心配だった。
明かりが照らす場所を見落とさないように見回す。
ナーデル、ナーデルと皆が呼ぶので警戒しているのか。
それとも、近くに居ないのか。
幾らか探したところで、道に見覚えのあるものを見掛けた。
もしかして、落としてしまったのかと懐を探ったら、栞と兄さんがくれた緊急連絡用の道具が出て来る。
手元にある布製の栞と、地面に落ちているそれを見比べる。
とてもよく似たそれは、確かミルが兄さんにあげるんだと大事に持っていた。
「キルシェ」
「何か見つけたか」
「み・・・・・・ナーデルの栞が」
地面に落ちていた栞を拾い上げて見せたら、クルクは指先でそれを摘まんで浮かぶ火を前方に放った。
球のようなそれが前へ前へ、まるで毛糸玉が転がるみたいに細く長い糸状に伸びていく。
小さな舌打ちが一つ。
聞こえた方を見たら、クルクが髪を掻き
「連れて行かれた。乗り物を使ってる」
「連れて行かれたってなに? どういうこと?」
「人攫いだ」
「なんで? 何で人攫いなんかが」
「説明は後だ。追うぞ」
また、移動が始まる。
先程とは比べ物にならない勢いで顔に風がびしびし当たって痛い。
火の糸を辿るようにして進んでいくと、遠くの方で移動中の乗り物が見えた。
「あれか?」
誰かがクルクに話しかける。
クルクは答えずに糸状になっていた火を手元に戻して、今度は乗り物に向かって投げた。
ボールのように飛んで行った火が、乗り物の上で輪のように広がる。
「あれだな」
先程の問い掛けにようやくクルクが答えた。
そんな時に細い悲鳴が僕達の元に届いた。
「たすけてっ!!!!」
小さな女の子の。
ミルの助けを求める声だった。
仲間の救出に向かおうと、集まった有志に声を掛けていく。
生きて戻れるとは限らない。
家族が居る者、家族が居ない者は特別親しい者達に挨拶を済ませた。
僕は家族が居ないから、ばあ様やじい様達に挨拶をした。
あとは、ついでにアインスの弟妹にも。
戻れないかもしれないと、わざわざ言ったりしない。
お互いの無事だけを祈るだけだ。
自分よりも年上の有志達に、幾度目かの説明をする。
今回の作戦は、囚われている仲間の救出だ。
ヘクセレイヴァントに連れて行かれる彼等を早い段階で奪い返す。
経路の予想は大体絞れているので、何組かに分かれて行動する予定だった。
組み分けと移動・連絡方法。
いざという時にどう動くかを粗方決めて、僕は一番可能性が高い経路に年の近い兄貴分達と組んで向かうことになった。
激励を送って、さあいこう。
そう気合が入ったというのに、出鼻を挫くようにコミュニティ経由で連絡が入った。
危急の事態かと思えば、相手はアインスで。
こんな時になって、やっと迎えに来れる段取りでもついたのかと話を聞いていたら
「罠だ」
「はぁ?!」
切り出された内容は、想定していなかったわけではない。
今まで尻尾も掴ませてくれなかったのに、急に行先から経路まで情報が出てくるのを怪しまずにはいられない。
だとしても、本当だった場合。
動かなければ、グランツヘクセと囚われている仲間の身に危険が迫る。
「何を根拠に言ってるわけぇ?」
「最近、内勤続きでな」
「内部情報ってやつぅ? 教えちゃっても良いわけぇ?」
それこそ、疑いたくはないがアインスのこの言葉こそ罠の可能性だってある。
半信半疑で尋ねると、アインスは長い。それはもう長い間を置いてから
「恐らく、俺とお前が連絡を取っていたのが、父にバレた」
「おいおいおいおぃ・・・・・・マジぃ?」
「詳細は省くが、父は俺の隠しているものを探している。連絡先がどういう場所かを把握して、お前を始めとする主戦力を抜いたところを狙うつもりだと予想している」
「待ってよぉ、冗談きついっていうかぁ」
「父は出掛けた。警護も数人。それ以外にも手駒が幾らか動いているのを確認している」
ガチじゃないか。
アインスがまだ何かを話しているが、聞いていられない。
とにかく、早くコミュニティに戦力を戻さなくては。
すぐにでも動けるようにとコミュニティから出たのが間違いだったか。
足の速い兄貴分達には余所のコミュニティ。
特にうちと近いところに緊急事態を報告してもらうことにした。
残った仲間を全員連れて、コミュニティに向かう。
最短距離で突っ切り、魔法も小出しに使ったので一時間と掛からなかった。
それでも、僕等が辿り着く頃には既に何人かの仲間が移動してしまっていた。
それも、タイミング悪くアインスの弟妹とは入れ違いになったらしい。
とにかく、此処を離れなくてはいけないことには変わりない。
だが、近くにシュテルンの連中。
それも、最悪の部類の人間が寄ってきているのだから、力がある者が皆を守りながら移動しなくては。
アインスの父親はグランツヘクセの人間を同じ人間として認めていない節がある。
善良で慈悲深いとされるのは、シュテルンに限ってのことだ。
僕等の仲間はアインスの父親が率いる組織に連れて行かれて、帰って来なくなった。
特に幼い子供や若い男女は殆ど連れ攫われている。
兄貴分達を余所のコミュニティに向かわせたのは、万が一にも彼等が捕らえられないように。
年を取っていると興味をあまり持たないようだが、それでも安心出来るわけではない。
実験だなんだと、使い捨てられた仲間の末路は悲惨だ。
遺体さえ返してもらえない。弔うことすら許されない。
助けられるなら、助けたかった。
悔やんでも悔やみ切れないが、今はこれ以上仲間を失わないように尽力しなければ。
時間はかかるが、全員まとめて下水路から目的地に向かわせる。
狭い空間であり、尚且つ普通の人間は下水路に用がない。
人目が限られていれば、いざという時は魔法を使用出来る。
音が響くので見つかりやすいデメリットがあるが、逆に相手を見つけやすいというメリットもある。
僕等は地下のことをよく知っている。
緊急時の便利な脱出経路だ。
今更説明しなくても、誰なりと道案内は出来る。
何人かは既に地上から目的地を目指しているだろう仲間の保護の為に残す。
僕も残った。
殿になるじい様達を見送って、長らく暮らした建物を出る。
計ったようなタイミングで火の手が上がり、間一髪だったかと胸を撫で下ろした。
どこから狙ってきているのかは、現状不明だ。
恐らくは火から逃れて建物を出て来る人間が居ないかを観察している。
だが残念ながら、もう誰も残っていない。
ご苦労様と鼻で笑って、先を急ぐ。
建物からは派手に火が上がり、あちこちから野次馬が集まってくる。
先発の仲間達もこの騒ぎに気付いているだろうか。
混乱して予定の経路を外れていないと良いんだけど。
僕の杞憂は大当たりだったらしい。
散乱した荷物の内の一つには見覚えがあった。
大きな旅行鞄は開いていて、中身の子供服がはみ出ている。
僅かでも早く逃げる為に荷物を放棄したんだろう。
仲間達の魔力を辿れば、幾手にも分かれてしまっているらしい。
ばらばらの動きをしているが、凡そ方向性としては目的地の方へ向かっている。
問題があるとすると、うっすらとしか見えない魔力。
仲間というべきか、居候といっておくべきか。
アインスの弟妹は完全に仲間達とはぐれてしまっている。
手分けをしようと此処でも先発を保護する組と、アインスの弟妹を保護する組に分かれる。
あの二人は特に濃い色を持っている上に、あまりに幼い。
目を付けられたら、間違いなく連れて行かれる。
金を受け取って、任されたのだ。
そうでなくとも、アインスには今回の件で借りがまた一つ増えた。
何が何でも無傷で帰さなくては。
追跡の魔法を使用して、二人を追い掛ける。
道が分からなくなってしまったのだろう。
目的地とは反対の方向へ逸れている二人の足取りは、気を付けなければ見失ってしまいそうだ。
行ったり来たりを繰り返していて、いくらかばらけて探す。
そうしている内に、合図があって二人が見つかったと知った時には正直、ほっとした。
ほっとしたのに、何故か一人足りていなかった。
妹とはぐれて憤り、興奮しているツヴァイは魔法を使いだすし。
どうにか宥めて連れて行ったら、ミルは攫われているし。
いつもいつも、ばれないよう目立たないようにと極力魔法を使わないでいたというのに。
この夜だけでどれだけ力を行使したことか!
子守りなんて簡単なものだと思っていたけれど、こんなに苦労するなんて予想していなかった。
もう二度と、子守りなんて引き受けないと固く心に決めて、ミルが連れ込まれているらしい乗り物に炎を一つ投じる。
中にミルが居るので、問答無用で燃やすわけにはいかない。
まずは動きを止めるべく、運転席から見えるように炎を広げていく。
ローストされかねないと連中が理解するのは、かなり早かった。
乗り物が停まった所で、逃げ出せないように炎で壁を作る。
「出てこい! 仲間を返してもらおうか!!」
炎のせいで声が向こうに通り辛い。
夜中に大声を出しては目立つ。
それ以前に、僕の魔法は火が主体。
道のど真ん中で炎が上がっていたら、そう時間をかけずに人が集まってしまう。
「ナーデル! 居るなら返事を!!」
呼び掛けるが、あの子供は返事をしない。
まさか、意識が無いなんてことはないだろうな。
そんなややこしいことになっていたら、長引く。
長引くとそれだけ、面倒が増える。
「ナーデル! ナーデル、無事なのか!? 返事を!!」
情けないくらい必死で叫ぶ。
頼むから、早く応えてくれ。
自分で出した炎だが、その向こう側が見えているわけではない。
無事なのかどうか。
そんなことさえ分からないのだ。
ツヴァイが後ろから何かを言っているが、構ってられない。
もう一度呼び掛けようとした。
その時
「ぶ! じ!!」
ようやく、小さくだが応答があった。
急いで炎を開くが、そこにはシュテルンの連中が殺到した。
閉じた。
「ナーデルが此方に来るまでは、誰一人通さない! ナーデル、此方に来い!!」
失敗したな、先に要求しておくべきだった。
頬が熱く感じるのは炎の熱のせい、ということにしておく。
もう一度、細く道を開くと苦手な黒い瞳が此方を向いているのが分かった。
「ボーデンヴァンデルン、準備!」
同時に使用する余裕がなく、背後に居た仲間に頼む。
誰かしらが応じてくれるだろうと信頼していたが、彼等は応えてくれた。
誰が、と決めなかったせいで重ね掛けになった魔法の効果で、ミルが弾丸のように炎から飛び出て来る。
焦って魔法を解除したのか。
解除さえしなければ、起こりえない事態。
すなわち、小さな子供の身体は空中に放り出された。
高さ的に頭でも打とうものならただではすまない。
そんな時だというのに、あの子供はやはりいつものように何処か冷静らしい。
「わっ」
ちょっと転びそうになっている、という程度の驚き。
馬鹿なのかな? 下手すると死ぬよ??
地面に叩き付けられる子供の姿を幻視して、全身が冷たくなる。
反射的に腕を伸ばして抱き止めた。
腕にすっぽり収まるサイズのその子供は、変わりなく大きな瞳でじっと僕を見つめた。
血の臭いが微かにするけれど、命に別状はなさそうで肩を竦めるふりをして大きく息を吐く。
心臓に悪いったら、ない。
炎に照らされた顔は擦り剥けているし、剥き出しの膝から血が流れている。
きつく握られでもしたのか、手首には痣。
よく見れば、掌の皮まで捲れている。
これで泣きださないのだから、この子供はどこか変だ。
変だが、この子供がこんな目に遭わされたことこそ、異常だ。
人の気配が複数近付いてきている。
さっさと此処を離れなくては行けないし、口封じをしておいた方が良いだろう。
機械のトラブルで炎上、誰も助からなかった。そんなかんじで。
炎の壁を内へ、内へと狭めていくと腕の中の子供が珍しく慌てていた。
「く、き。キルシェ、だめっ」
「はぁ? 駄目ぇ? 何がぁ?」
「しんじゃう!」
死ぬも何も、殺そうとしているんだもの。
あまりにも当然なことだし、何よりも
「はぁあぁ?? あいつらぁ、お前のこと攫おうとしたの分かってないのぉ?」
怪我までしているのに、どうしてあんな連中の命を気に掛ける。
意味が分からない。心底理解不能。
黒い瞳を見つめ返したら、ミルはもごもごと口を動かし、でもだってと呟く。
上手い言葉が見つからないのだろうが、知ったことではない。
生かしておいたって仕方ない。
あいつらは僕等の敵なんだから。
さっさと終わらせようとする僕の腕に、小さな手が縋ってくる。
言葉はない。
大きな瞳がただただ此方を見つめてくる。
ああ、僕はその瞳が苦手なんだ。
黒い瞳には何ともいえない顔をした僕が映っていて
「~あぁ、もぉ。ほんとぉ、面倒臭い奴ぅ!」
仕方なく、炎を消す。
そうしたら、ミルは僕の肩に顔を埋めてきた。
首に髪が触れてくすぐったい。
無事だったし、まあ、いいけど。
「あのさぁ、今度からは迷子になったら動かないでいてよぉ?」
「うん」
「分かってるのかなぁ、ほんとにもぉ」
「うん。ありがと」
「なにがぁ?」
「たすけてくれて、むかえにきてくれた」
「仕方ないでしょぉ・・・・・・仲間なんだからさぁ」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・帰ろっかぁ」
「うん」
帰ろう、か。
居候だから、この子供はその内に居なくなるのに。
怪我をしているから。
今日だけだし、と抱えていってやる。
もぞもぞと動かれるとくすぐったかったけど、こっちの不手際で怪我をさせたわけだし、我慢する。
今日は散々だ。
早く眠りたいと仲間達の元に向かいかけて、仲間達が目を見開いて僕達の背後を見ていることに気付いた。
何をそんなに驚いているのか。
振り返れば、答えがそこにあった。
下水だろう。
見るからに汚い水が巨大な塊になって浮いていた。
その中には乗り物と、付近に居た人間がぷかぷかと揺れている。
死んでいる。
雨も降っていない、川も流れていない街中で、水死。
こんなことが自然に起きるはずがない。
「あぁ、もぉ」
仲間達の影から、ぎらぎらと瞳を光らせた子供が一人。
「・・・・・・やってくれたなぁ」
ツヴァイは明確な殺意を持って、魔法を行使していた。
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