読書
バケツ
読書
いつも読書をしていることで有名な彼女は今日も他クラスの人たちに囲まれる中黙々と読書をする
彼女は最近転校してきた学校で話題の美少女だ。髪色は見た者の意識を吸い込むような黒色で肩甲骨のあたりまであり、常に瞳は僕たちを見ているのではなく手元の本に注がれていた
授業が終わり周りに人だかりができて次から次へと質問攻めにあっても目線は常に手元にあり質問にも簡素に答えるだけであった。そんな彼女は読書をし過ぎて本に取りつかれた女などと言われもする。そんな美少女の詩織さんと僕は席が隣だ
転校してすぐのころは休み時間になると毎回人だかりができ質問攻めにあうが毎度同じように簡素に答え目線は本にあった
何度か同じような事があると人だかりは段々と出来なくなり、いつしか人が近づこうとすることが無くなった。クラスメイトから浮いた存在と評価されるようになっても彼女は何一つ変わらぬ顔でただ静かに手元の文字列を読んでいた
僕はそんな彼女が読む本が気になっていた。転校してきてからずっとだ。それは僕は自称ではあるものの大の読書好きだからだ
特に好きなのはライトノベルだが、だからと言って純文学を読まない訳でもないし嫌いな訳ではない。ただライトノベルの方が読みやすくシリーズものが多いせいで手が出せないのだ
だけど、彼女の読んでいる本であればたとえとても高尚な純文学の本でもどんな本であっても買って読んでみようという気になるかもしれないと思ったのだ
「どんな本を読んでいるの?」
そう聞いても彼女は答えてくれなかった
他の本に関する質問以外の質問にはいつものように簡素に答えてくれるのに
答えてくれないからと言っても盗み見るのもダメだし本を奪い取って無理やり見るなんてもってのほかだ
本についても質問に答えてくれない詩織に反抗する気持ちで俺はタイトルから本の内容を想像しにくいライトノベルを日ごとに表紙のタイトルがチラチラと詩織さんに見えるようにしながら読んだ。時には友人に内容の一部を抜粋して見せたりして気を引こうとしたが僕から詩織さんに話しかけることはあっても詩織さんから僕に話しかけてくることはなかった
どうしても彼女の気を引くこともできず本のタイトルだけでなくジャンル、著者までも教えてくれない彼女に僕は強行手段に出た
それは最近、放課後に彼女が通うという書店に先回りして待つことでどんな本を読んでいるのか確認しようという作戦だ
放課後、書店に先回りして待機して彼女が来るのを待つ
しばらくして不意に尿意に襲われ急いでトイレに駆け込み出てきた時、レジの方向を見ると詩織さんが会計を済ませ入口に向かっているところだった
焦った僕は書店を出る詩織さんを追いかけ声をかける
「……待って! 詩織さん!」
僕の声に驚いた様子の詩織さんはこちらを振り返る
傾いてきた夕日のおかげもあってか彼女の顔はとても美しく眩しかった
「詩織さん、何買ったの?」
いつもの詩織さんであったら答えてくれない質問を僕は投げかける
「……そんなに気になる?」
詩織さんは質問には答えず心底不思議そうにこっちに質問し返す
「そりゃ、一応本を沢山読んできた僕からしたら詩織さんがどんな本を読むのか気になるよ。それで詩織さんが買う本が気になって……」
詩織さんは小さくなるほどねとつぶやくと無言のまま袋を僕に向ける
「見ていいよ」
何故か諦めたような顔をしているのが気になったが袋の中身を見てみる
するとそこには僕がここ数日の間に学校で詩織さんに気を引かせようと読んでいたライトノベルの数々だった
「あなたが私に見せびらかすように読むから気になったのよ」
少し悔しそうにつぶやく彼女はいつもよりも少し子供らしくとても可愛らしい表情をしていて僕を恋に落とすには十分すぎるほどの美しさと可愛らしさを持っていた
読書 バケツ @ein_eimer
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