第14話 昼食
「優、私のこと避けてない?」
机を向かい合わせにして、各々がお弁当箱を展開したところで、夢は単刀直入に訊いてきた。
「いや、そんなことは...」
「ふーん、また嘘つくんだ。」
冷え切った声が胸に刺さる。懐疑に満ちた瞳は淀んで見えた。
「ご、ごめん。」
謝ることしかできない。これだけでやり過ごせる気がしない。めちゃくちゃ逃げたい。大声で叫びながら駆け出したい。
「あの女が悪いの?」
夢は訊いた。
「あの女」とはどういうことだろう。夢は俺のストーカー被害のことを知らないはずだ。
「この前、ショッピングモールで一緒に遊んでた。黒い髪が綺麗な人。」
そういうことか。夢はいつしかの先輩とのデートを見かけてたのか。
「それで、なんでその人が悪いってことになるの?」
俺は純粋に疑問に思ったことを口にした。
「だって、その、、、優とその人が付き合ってて、、、それで、その、、、彼女が”他の女と仲良くするな”みたいなこといったんでしょう?」
夢はいじらしい態度で訊いてくる。
「え?そんなことないよ。ただの先輩だよ。その人は。」
「え?そうなの?」
夢は目を丸くする。そしてすぐに可愛らしい笑顔を浮かべる。
「なんだ!心配して損した!!!」
なにを心配したのか。俺にはさっぱり検討もつかない。でも、この流れでごまかせそう!!
「あはは。よかった。じゃあご飯食べようか!」
勝った。。。
「ちょっと待って。」
夢に制止される。
「じゃあ私に冷たかったのはなんで?」
負けた。。。
夢はまた鬼モードに入ってしまった。心臓が締め付けられるようなプレッシャー。もう逃げられない。
「別に女でもいるの?」
そう夢が凄んだ時には、もうクラス中が俺たちのことを、固唾を飲んで見守っていた。
そりゃそうだ。この浮気を疑う妻とその夫みたいな会話をしていたら注目の的になるのは当然だ。
そして俺は今、この大衆に活路を見出した!
「どうですかみなさん!夢さんの、この真に迫る演技!」
クラスがざわつく。夢も呆気にとられている。意味に気がついたやつが「なんだそういうことか」とみんなに説明を始める。
そいつの勝手な解釈によって、夢が今演技にハマっていて、それを練習してただけ、みたいなことになった。
すると「なんだそういうことかよ」と興味を失うものや、「すごい演技力!」と夢に話しかけるものもいた。
自分が言っていたことがみんなに聞かれていると気がついた夢は先ほどから赤面して俯くばかりだ。
俺の完全勝利だ。。。
こうして昼を乗り切った俺はそのまま放課後を迎えた。未だに恥ずかしがってる夢は逆に俺を避けて逃げるように部活に行った。
かわいいもんだぜ。全く。そう独り言ちて俺は教室を出る。するとすぐ先輩がいた。
これは波乱の予感。
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