第13話 心
「ゆうくん。ちょっと待って。」
チャリ置き場で俺はあかりに呼び止められる。
「いや、今日は急いでいてな、、、」
俺はそう言って逃げようとするが、行手をあかりに阻まれる。両手を大きく広げている姿は少し可愛かった。
「ストーカー女になんか言われたんでしょ。わたし相談してよ。ゆうくん。」
困った。こうなるとあかりはテコでも動かない。
「ん?そんなことないぞ。それじゃあ急いでるんでな。」
それでも俺はあくまでしらを切って、普通に空いているあかりの横を通ろうとする。
「うそつき。」
全身が粟立つような低い声であかりが呟き、俺の裾を掴む。恐怖で俺は動けない。あれ?本当にあかりさんですよね?
「ストーカー女が悪いんだよね。ゆうくんはそのせいでおかしくなってるだけだよね。」
「お、おう。」
え、なにこのあかりさん。めちゃくちゃ怖いんですけど。ストーカー女を刺激しないようにしたらヤンデレが誕生した件について。
どうしよう。ここは正直に言ったほうがよさそうだ。ヤンデレは一人で十分だ。
「いやこんなことがあってだな、、、」
俺は事情を話した。
「やっぱりゆうくんがストーカー女に変なこと言われてただけだったんじゃん。」
さっきまでの禍々しいオーラがまるで嘘だったかのように、今ではあかりの柔和な雰囲気が俺を癒してくれる。
「あかりに迷惑かけたくなくてな。」
「そんなこと気にしなくていいの!あかりとゆうくんの仲なんだよ?」
昼のお弁当作ってもらうかどうかで揉めてる程度のテンションであかりは言った。
普通に今、結構慎重になるべきシチュエーションだからね。警察沙汰になりうるからね。
「あかりが何か危険な目に合う可能性だって普通にあるんだぞ。」
俺は諭すように言った。
「だから俺はあかりとは直接関わらないようにする。でもメールならいいぞ。」
俺は妥協案を出す。こうでもしないと逆に今までより接触しようとしてきそうだ。
「うーん。」
あかりはしばらくの間考えて、「わかった」と了承してくれた。これにはホッと一息、
「ゆうくん、時間、時間!!」
「あ、やべ、遅刻する!」
つかなかった。「またね」と別れ全力でチャリを漕ぐ。ぐんぐんと後ろへ過ぎ去っていく街並み。もう汗が滲む季節だった。
途中から遅刻を悟り、すべてを受け入れゆっくり登校した俺は、普段遅刻することがないのであまり咎められる事もなく席についた。
むしろこれは好都合だった。やはり朝のホームルーム前の時間が、夢と一番話さなければいけないゾーンだからだ。
これを今日はスキップすることができた。これは遅刻という代償に十分値するものだ。言い訳じゃないぞ。断じて。
今日。優は遅刻してきた。珍しい。私は昨日、優が冷たかったのが気になってしまって、いつもより早く学校に来た。
別に早く来たところで、優と早く会えるわけではないと分かっていた。優はいつもホームルームが始まる少し前の時間に来るからだ。そんなのはよく知ってる。
それでも早く来てしまった。恋とはそういうものなのだ。私は勝手にそう結論付けて今日の優の遅刻について考える。
私がいつもより早く学校に来たら、皮肉にも優がいつもより遅く学校に来たのだ。
これは神様が二人は一緒になるべきではないと言っているのか?
いやでも逆に試練を与えてるのかも。神様は乗り越えられない試練なんて与えないと聞いたことがある。あの女だって、そういうことだ。
そう考えると逆に私と優は結ばれる運命にあるのか。
そうにやけていると突然教師に名前を呼ばれた。
「天童さん、この問題の答えは?」
前にいる夢がびくっと震える。珍しく夢はぼーっとしていたみたいだ。夢は特別に勉強ができるわけではないが、授業は真面目に受けているし成績も悪くはないだろう。まだ高校でテストを受けたことはないからわからんが。
俺はこの問題の答えを知っているわけだが、夢に教えてしまってもいいのだろうか。
教えると夢と接点を持つことになってしまう。でも教えないのはかわいそうだ。普段なら絶対教えてる。くそ、あのストーカーめ!
初めて俺がストーカー被害を実感していると、先生はあっさりと夢を飛ばして後ろの俺を指した。
俺は即答してことなきを得る。夢が詰問されることにならなくてよかった。そう胸を撫で下ろしているとチャイムが鳴る。
おっと。今4限であったわけだから、いまは昼休み。そう、つまり、、、
「優、ご飯一緒に食べよ。いいでしょ?」
夢からのアプローチの時間だ。わー!にげろー!!しかし油断していたために夢が俺を誘う前に逃げることができなかった。
「いや、ちょっとな、今日は他の人と食べる予定があっ」
「嘘つき。」
「たんですけどいまキャンセルされました。一緒にご飯を食べましょう。あはは。」
最近流行ってるみたいですね。ドスの効いた声。勘弁してくれ。
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