第12話 病

「おはよう、優。」


夢は席につこうとする俺に挨拶をする。


「おう」と目も合わせず、素っ気なく返す。


すると早速異常を察知した夢は俺に質問をする。


「どうしたの?なんか冷たくない?」


笑いを織り交ぜた声の調子は明るいが、芯は冷えてるみたいだった。


「あんまり寝てなくてな。今日はそっとしておいてくれ。」


そう言って優は机に伏せる。


「そっか。」


私はこれ以上何も言わなかった。優が放置を希望しているのだ。私がこれ以上干渉することは、優に嫌われることになるかもしれない。


それは困る。私は優が好きだから。友達としても、男性としても。


最初に優の事を好きになったのは入学式の時だ。


桜の満開から少し経ち、散り始めた頃。私は優を初めて見て、好きになった。


クラスの発表掲示板の前で私は優と一緒のクラスである事を祈った。


僥倖とはまさにこのことかと思うほど、嬉しかった。


なぜなら優は同じクラスでしかも席の後ろにいたからだ。


「私は天童夢。よろしくね。」


「俺は佐藤優。よろしく。」


初めての会話は今でも思い出せる。少し緊張して話しかけたのが懐かしかった。


今ではもう優の友達という事を胸に張って言える程度には仲良くなった。


しかし私はこれでは足りないのだ。もっと優とのつながりが必要なのだ。


前にいる夢はそれ以降話しかけてこなかった。少し色褪せたような時間を学校で過ごす。


授業が終わり夢に挨拶もせず教室を飛び出す。


何かから逃げるように下駄箱へ向かう。


すると下駄箱の前に先輩がいた。


「先輩、俺今日は急いでるんで。」


といって佐藤くんは素早く私の横を通過する。


予想外の出来事に私は何もできない。佐藤くんは私と帰りたがってるはずなのに。


どうしてかしら。


急いでるから?


佐藤くんも急ぐときがあるのね。


佐藤くんのこと、まだわかってないみたい。


せっかく私が「一緒に帰ってもいいわ」と言いにきているのに。


俺はチャリを漕いだ。誰とも会いたくない気分だった。


10分で家に着く。これはベストタイム更新かもしれない。チャリ置き場に向かうとあかりがいた。


「ゆうくん。おかえり。」


わたしはゆうくんに言った。


でもゆうくんは素っ気なく「おう」とだけ言って、目も合わせず何処かに行ってしまった。


まぁゆうくんは家に帰ったのだけど。


でも確かにゆうくんは何処かに行ってしまったように感じた。


それが怖くてなにも言えなかった。ただ呆然とゆうくんが去っていくのを見ていた。


きっとゆうくんにも事情があるはずなのだ。でも今は、ゆうくんの態度に傷ついている自分がいる。


わたしも家に帰った。お母さんのおかえりに、生返事をして自室に入る。


この上はゆうくんの部屋だ。


ふとゆうくんが心配になる。もしかしたらストーカー犯に何かされたのではないか。


でもこんな時にメールを送ってもゆうくんは返事をくれないだろう。


だから明日、会って直接聞こう。

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