第11話 夢

「おい!大丈夫か?」


男は必死に仲間に呼びかける。魔王の広間にふさわしい、生臭い血の匂いが満ちている。


「大丈夫よ」と三人の女が勇者にアイコンタクトを送る。声を出す余裕はなかった。


魔王と呼ばれるものは強すぎる障気のせいで、黒い塊にしか見えず、叫び声のようなものを発していた。


「次、来るぞ!」と男はアイコンタクトを送る。長い戦いで得た経験が、未来予知に等しい予測能力につながっていた。


そして、男はすでに気がついていた。


自分が犠牲になるしかないと。


魔王のどす黒いビームの波が少しおさまった時、男は駆け出す。


それを見て、男がこれからなそうとしていることを察し、声にならない叫び声を上げる仲間たち。


男は光に包まれる。



「お兄ちゃん、起きて!」


目が覚める。朝に強い俺にしては珍しく妹に起こされてしまった。


「お兄ちゃん、泣いてるの?」


そう言われて自分の頬に手を当てる。


「え、なんで俺泣いてんの。」


「そんなの知らないよ。怖い夢でも見たんじゃないの。」


「あぁ、、、」


確かに夢を見ていた気がする。しかしなにも覚えていない。


「朝ご飯できてるから。すぐ来てね。」


「うん。」


俺はもう夢を忘れたことも忘れて、妹について行った。


飯を食って家を出る。


今朝もチャリ置き場であかりと会った。「おはよう」と挨拶だけしてそれぞれの学校へ向かう。


まるで昨日のことなんて無かったみたいだ。


スマホが震える。


「学校がんばってね。」


あかりからだった。


「あかりもがんばれ」と返信した。やっぱりデートはしたみたいだった。


チャリを軽快に漕いで学校へ行く。いつも通りの時間に着いて、下駄箱で靴を変える。


上履きをとって床に置く。すると上履きに写真が付いていた。


なんだこれ。


よく見てみると俺とあかりがゲームセンターで遊んでいる写真だった。しかもあかりの顔の部分が黒く塗りつぶされていた。


恐怖のあまり一瞬、何も考えられなくなる。


「これはまずいな」と少し冷静になって考える。


今までのストーカー行為の対象はあくまで俺だった。そして俺にはそこまで危害を与えてくるわけではなかった。


しかし今回、ついに俺と仲良くしている女の子が巻き込まれつつある。


そしてその「仲良くしている女の子」がどのような被害を受けるかは、計り知れないのだ。


だから先輩、あかり、夢とは少し距離を置こう。


先輩とあかりの2人は事情を知っている分、このことを伝えたら余計に俺を助けようと干渉してくるだろう。


だからこそ俺は誰にもこのことを言わず、一人で戦おう。


そう覚悟して教室の扉を開けるのだった。

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