第10話 放課後デート
「靴が新しくなったのはそういうことだったんだ。」
あかりは案外飲み込みが早い。
「置いてあったお金使ったの、怒らないのか?」
「うん。ゆうくんが分かってるとおもうから。」
じとっと見つめられる。でも不思議と嫌な気はしなかった。
「今後は変なことが起きて困ったら、わたしを呼んで。」
そう言われて彼女と連絡先を交換する。
というか俺は幼馴染の連絡先、持ってなかったんだ。そっちに萎えた。
「どうしようもないとき、連絡するね。」
正直、不安になってきていたので味方がいるということが嬉しい。
「別に他愛のない会話でもいい。」
あかりは表情一つ変えずに言った。
「おう。」
暇なとき連絡しよ。学校では友達少ないし、助かる。
「あと、わたしが連絡したら、、、返事ちょうだいね。」
あかりが少し俯き、目が前髪で隠れる。昔から恥ずかしいとき、こんな癖が現れる。変わってないのが嬉しかった。
「もちろんだ。」
力強く応える。
「おはようって送ったらおはようって返してくれる?」
「そんなの当たり前だ。」
「おやすみって連絡したらおやすみって連絡してくれる?」
「当然。」
「明日、放課後デートしてくれる?」
「もちろん!」
ん?
「じゃあ明日学校が終わったら、連絡して。駅前のとこで遊ぼうね。」
そう早口で言って嬉しそうに走り出すあかり。そのまま階段で3階まで駆け上ってしまった。
まいっか!あかりとのデート楽しそうだし!
「ただいま!」
「おかえり〜」
キッチンの方から妹が迎えてくれる。こういうの当たり前だけど、大切にしたい。
「なんかいいことあった?」
妹が訊いてきた。すぐバレちゃうのヤバイね。なにかがいつもと違うのだろうか。
「最近、あかりが口を聞いてくれるんだ。それが嬉しくて。」
「あかりねぇが。ふーん。良かったね。」
妹はあかりのことを「あかりねぇ」と呼ぶ。
昔は三人でよく遊んだものだ。
「明日、放課後あかりと遊ぶんだ。だから少し遅くなる。」
「うん。あ、ご飯もう少しでできるから、ちょっと待っててね。」
「いつもありがとな。」
俺は着替えて、音楽を聴く。今日は少しおしゃれなやつを聴く。
しばらくすると妹に呼ばれていつも通り美味しい飯を二人で食う。
少し勉強して、また音楽を聴いて、風呂に入り、ベットに入ろうとしたころ、通知が鳴る。
「おやすみ。明日のこと忘れないで。」
あかりからだった。
「忘れないよ。おやすみ。また明日。」
そう返事して寝た。
翌日の放課後。
「学校終わったよ」とあかりに連絡する。するとすぐに「わたしも終わったよ」と連絡が来る。
チャリで駅前まで一走り。
駅前のチャリ置き場で俺らは落ち合った。
「ゆうくん、こんにちは。」
あかりは優しく微笑みながら挨拶をした。
白いセーラー服が今日も眩しい。
「おう、今日はなにするんだ?」
「ゲームセンターに行きたいの。」
駅前のショッピングセンターにはそこそこ大きいゲームセンターがある。
「おう、いいぜ。早速行くか。」
「うん、楽しみだね。」
あかりは笑顔を咲かせている。無視されていた頃は見られなかったものだ。
表情が豊かなのはいいことだと思います。
「なにやる?」
俺はゲームセンターの喧騒の中で、声を少し張り上げて訊く。
「わたし、メダルゲームがやりたい。」
「わかった。メダル買ってくるよ。」
「学割!千円でメダル150枚!」という良心的な価格設定がありがたい。
「なにやる?」
先ほど購入した150枚のメダル片手に俺は訊いた。
「ゆうくんと一緒にできる奴がいい。」
なんだこの可愛い生き物。
「それならアレなんてどうだ。」
中心にティラノサウルスが鎮座する筐体を指差す。
「いいね。アレやろう。」
俺とあかりは椅子に座る。
タイミングよくメダルを入れて、中に溜まっているメダルを押し出していく。
センサーがあるところにメダルが落ちたとき、ルーレットが回る。
なんか今日はいつもよりルーレットがまわる気がする。手元のコインが増え続けている。
おかしい。
すると突然、恐竜の咆哮が轟きながら、中心のティラノサウルスがこちらを向いて、口からメダルを吐き出す。
「やったね。ゆうくん。」
あかりは俺にそう言って祝福してくる。
「いや、やったのはあかりでしょ。」
この大当たりは100%、あかりの実力によるものだ。さっきからあかりがコインを入れると、常に増えて戻ってきていた。
「そうかな?ゆうくんが隣にいてくれたおかげだよ。」
あかりはなぜかもじもじしながら言った。
「それならよかった。」
俺には当然、やっているゲームの確率を自分の有利なものにする能力がないので、そんな訳はない。
でもとりあえず認めておいた。
コインゲームばかりやっていても飽きるので、大量に増えたメダルを近くのキッズにあげて、UFOキャッチャーの前にいた。
「ゆうくん、これ欲しい。」
指の先にあったのは、なんかのアニメのヒロインの水着姿のフィギュアだった。
「任せておけ、、、」
そう静かに啖呵を切って始めた俺だったが、2000円消費してもとれなかった。
「わたしやってみる。」
「や、やめとけ、、、」と大袈裟に止める俺を無視して100円を入れたあかり。
アームが動いて、アームが箱を掴んで、それをそのまま任意の場所まで運び、それを離す。
「ガン」という衝撃音が、うるさい店内にかき消されて、あかりはフィギュアを獲得した。
あかりはゲームの天才だった。
その後レースゲーム、エアホッケーなどの対戦ゲームではボコボコに負けた。
そしてゾンビ狩りをするシューティングゲームでは、早々に俺が死んで、あかりがノーミスでエンディングに行くのをただ見ていた。
「ゆうくんのおかげだよ。」
それがもはや皮肉にしか聞こえなくなる頃にはもう帰るのにいい時間だった。
「今日は楽しかった。ありがと、ゆうくん。」
あかりは言った。
「俺も楽しかったぜ。また遊ぼうぜ。」
「うん。またゲームセンター来ようね。」
ちょっとそれは勘弁して欲しいかも。
「じゃあ帰るか。」
「うん。」
2人でチャリを漕いで帰路をゆく。
一言も話さなかったが、この雰囲気は好きだった。
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