第9話 狂気

先輩に会わないかドキドキしながら廊下を歩く。


しかし今日は会わなかった。先輩も恥ずかしいのかな。


下駄箱を開ける。


今日は中身が今朝のままなのだろう。


手に箱と紙らしきものがあたる。


それらを見ないようにして探る。


しかし肝心の外履きがなかった。


どういうことだ?


下駄箱を覗く。


するといつもの手紙と弁当に加えて6千円が入っていた。お金にメモがついている。


「がまんできなくて、くつもらいました。


  P.S 1えんはあなたへのぷれぜんと。」


俺は追伸にビビった。俺のスニーカーが5999円であることを知っていたのだ。


今までは与えてくるばかりだったので、それを無視すればことが済んだ。


しかしこちらのものが盗られるようになれば、話は変わってくる。


でも今回はお金置いてあるしいっか。


俺は上履きのままでチャリに乗り、学校近くの靴屋へ行く。


店員に「体育の時靴壊れちゃってー」と適当なことを言って6千円の気に入ったスニーカーを買う。


そして再び学校に戻り下駄箱に上履きを戻す。


その時はもう中にはなにも入ってなかった。


少し前にはここに犯人がいたことを考えるとなんか怖かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優が下駄箱から去っていく。


ワタシが置いたお金、使ってくれたみたい。


うれしいな。ワタシが確かに優という存在の一部になっていることを実感する。


新しい靴も似合ってるよ。


少女は美しく残酷な笑みを浮かべている。


今日も優はカッコ良かったな。


ワタシは思い出す。


あの時からずっと見てる。優のこと。


身体が熱くなる。


こんなところではいけない。優のことになると周りのことが見えなくなってしまう。


ワタシは人生で1番の宝物を持って帰宅する。


家について、まず優の靴の裏を拭いた。優が踏んだ砂利だと思えばそれも愛おしかった。


「優の靴裏を拭いた雑巾」と書かれたジップロックにそれをとじる。


そしてついに優の靴に集中できる。


最初は遠くから軽く匂いを嗅ぐ。


ほのかに優を感じ、少し身体が火照る。


あとは、本能の赴くまま優の靴を貪るだけ。


近くで香るとワタシは狂いそうになった。


思わず中敷きに舌を伸ばす。


慌てて自制する。


いけない。「純度」が下がってしまう。今日はこれくらいにしておこう。


スニーカーを優しく撫でる。まるで優を撫でているような気分になり、どうしようもなくなる。


なんとか「スニーカー」と書かれたジップロックにそれをとじて、ワタシはベッドに倒れた。



~~~~~~~~~~~~


いつもより少し遅い時間の街をチャリで駆ける。


今日は曇りだったので、あたりはもう結構暗かった。


何かに追われているような気分で少し急いで漕ぐ。


薄暗いチャリ置き場に着く。


「ねぇ、」


「ひっっ!」


突然話しかけられた俺はあらぬ声を出してしまう。


「どうしたの?そんなに驚いて。」


「なんだあかりか、、、」


すごい気が抜ける。


「靴、行きと違うし。帰ってくるのも遅いし。ゆうくん、絶対何かあった。」


じっと見つめられる。


「いや、体育で靴壊れちゃってさ。」


「うそ、そんなことは絶対ない。」


「なんでわかるの?」


「幼馴染だから。」


あかりの意思は固い。なかなか折れてくれない。


でもどうしよう。このこと話したらいよいよめんどくさくなりそう。盗難事件なんだから一緒に警察行こうとか言われそう。置かれてたお金使ったのめちゃくちゃ怒られそう。いやほんとに、、、


突然、両腕を冷めたい手でガッチリ掴まれ、強制的に思考がシャットダウンする。


目の前にあかりがいた。


沈黙の中で見つめ合う。


すると、どこか懐かしい甘い香りがして、俺は目をそらす。


「だめ、こっち見て。」


俺はまたあかりを見つめる。大きな茶色の瞳に飲み込まれそうになる。


「なにがあったか、はなして。ゆうくん。」


「あ、はい。先日このようなことがありまして、、、」


俺は弱くないよ。だって、普段は弱気な女の子に強引に迫られたら誰でも落ちるでしょ!あかりが強いんだ。俺は悪くない。社会が悪いのだ。



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